第13話 やられ役の牢番、奴隷メイドを調教する
「なるほど、それで魔王軍の幹部がメイド服など着て給仕しているのか」
「そういうことです」
「く、屈辱ですわ!! このワタクシが、人間如きに食事を運ぶなど!!」
ラーシアは俺の奴隷メイドになった。
生意気でちっとも口は減らないが、美少女なので許す。
それはまあいいとして……。
俺はカティアナの隣の牢屋で寛いでいるエレットに声をかける。
「エレットさん、助かりましたよ。貴方が魔法具とポーション作ってくれたお陰です」
「なに、私と君の仲じゃないか。また入り用のものがあったら言いたまえ。いくらでも用意してあげよう」
エレットとは友人と言ってもいいくらい良好な関係を築いている。
彼女がいなかったら、俺はきっとラーシアに勝てなかった。
故に相応のお礼が必要だろう。
「これ、どうぞ」
俺はある物を収めた箱を、こっそりエレットに手渡した。
エレットが微かに頬を緩める。
「おやおや、これはこれは。君もなかなか分かってるじゃないか」
「いやあ、用意するのが大変でしたよ。ちなみに前回のものよりも上手くできました」
「それは楽しみだ」
という俺とエレットのやり取りを聞いていたラーシアが、俺に詰め寄ってきた。
「ちょ、ちょっとアナタ!! その捕虜に何を渡しましたの? まさか、何か怪しいものを!?」
「んや? 違いますけど」
何やらラーシアが勘違いしているが、箱の中身は別にやましいものではない。
エレットが箱を開け、その中のものを齧る。
普段は知的なエレットにしては豪快な食べ方だが、リスが大きなどんぐりを齧っているようで可愛らしい。
「もぐもぐ……。やはり『ばうむくぅへん』は最高だね。このしっとりした食感が素晴らしい」
「な、何ですの、それは?」
「おや、知らないのかね。もぐもぐ。るがすっす君が作ったお菓子だよ」
「お、おかし?」
バウムクーヘンを作るのは実は今回で二回目。
一回目は初めてだったこともあり、少し焦げてしまったのだが……。
これがエレットから好評だった。
煙幕玉やポーションを用意してほしいとお願いした際、然り気無くバウムクーヘンを要求してきたので応えた次第である。
ラーシアは不愉快そうに眉を寄せた。
「またそのようなものを……。しかし、なるほど。そうやってルシフェール様を餌付けしたのですわね!!」
「餌付けって、動物じゃないんですから。まあ、ラーシア様にも別のお菓子用意したんで、よかったらどうぞ」
俺はラーシアにもう一つ用意しておいたお菓子を渡す。
「これは……?」
「マカロンです。ラーシア様ってお育ちのよさそうですし、好きそうかなって」
「ワ、ワタクシは結構ですわ!! そのようなものを食べたら軟弱になってしまいますもの!!」
「また言ってる……」
まあ、美味しいものを食べると弱くなるという考え方は魔族だと割とメジャーだ。
ラーシアがおかしなことを言ってるわけではない。
……お菓子だけに。
「じゃあご主人様からの命令ってことで」
「っ、卑怯ですわ!!」
「あっれー? 奴隷になれってのは魔王様の命令なのに逆らうんですかぁー?」
俺が煽るようにそう言うと、ラーシアが「くっ」と歯噛みした。
いい顔をするじゃあないか。
命令に逆らえないラーシアは屈辱といった様子でマカロンを口にした。
先に言っておこう。
このマカロンは幾つか作ったものの中で、特に出来のいいものを厳選している。
つまり、サクサクで美味いに決まっているのだ。
「っ、こ、これは……」
「ねぇ、今どんな気持ちです? 美味しいでしょ? めっちゃ美味しいでしょ? 今どんな気持ちで食べてます?」
「っ、ぜ、全然大したことありませんわ!!」
俺を睨みながら怒鳴るラーシア。
しかし、その手はたしかに二つ目のマカロンへと伸びていた。
「あ、じゃあもう要らないっすよね?」
「え、あっ」
「いやあ、悲しいっすわー。ラーシア様がこのマカロンで食に対する認識を改めてくれるならって思ってたんですけどねー。俺の腕が足りないせいっすよねー」
「あ、えっと、そ、その……」
「仕方ない。こうなったら先輩か魔王様に、あっ、マリセラ様にお届けしようかな」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!!」
俺を慌てて呼び止めるラーシア。
彼女からは見えないよう、俺は思わずニヤリと笑ってしまう。
「そ、そのようなものをルシフェール様やルシフェール様のお母君のような高貴な方に食べさせるわけにはいきませんわ!!」
「じゃあ先輩は中級魔族なのでセーフっすね」
「あ、いや、だ、だから!!」
「奴隷メイド君、あまり意地を張らずに正直に言った方がいいと思うよ」
「ほ、捕虜は黙っていてくださいまし!! って、もうさっきのお菓子食べ終わりましたの!?」
いつの間にかバウムクーヘンを丸々一つ食べ終わったエレットが掩護射撃してきた。
ラーシアは悔しそうに唸る。
「お、美味し、かった、ですわ。それを、ワタクシに、寄越しなさい!!」
「え? 何? それだけっすか? もうちょっと言うことあるんじゃないんですかぁ?」
「っ、こ、今後は、食べ物を粗末にしたり、しないた誓いますわ!!」
「くっくっくっ、最初からそう言えば――」
と、俺が頷いてラーシアにマカロンを返そうとした、その時だった。
「今後はもう貴方に――いえ、ご主人様にも逆らいませんわ!!」
「――よかっ、えっ?」
「例えご主人様に発情したメス犬の如く泣けと言われても、甘んじて従いますわ!! 他にも何だって致します!! だから、それを、ワタクシに……」
「あ、う、うん、どうぞ」
少し引きながらマカロンを返すと、ラーシアはすぐ頬張った。
一つ食べる度に身体をビクッと震わせて幸せそうに咀嚼している。
……普通のレシピで作ったはずだが、何かヤバイ物質でも混入したのだろうか。
「ま、まあ、何にせよ計画通りだな!!」
これでまた一人、食へのありがたみを理解した魔族が増えた。
今はそれを喜ぼう、うむ。
それから数日後の出来事だった。
「動くな、ルガス殿。可能なら、貴殿を傷つけたくはない」
「ちょ、カティアナ嬢!?」
俺はカティアナに押し倒され、首に食事用のナイフを突きつけられていた。
まさかカティアナは脱獄する気なのか。
しかし、その表情はとても申し訳なさそうで、殺す気は微塵も感じられない。
俺の作戦が成功したということだ。
いや、それは重要なことかも知れないが、今はもっと重要なことがある。
「あ、あの、胸とか、お尻とか、全部当たってるんですけど……」
「っ、こ、細かいことは気にするな!!」
「あっ、ちょ、動かれると余計に!!」
「ん? お、おい!! 何を硬くしている!!」
ふかふかの柔らかくて大きなおっぱいや、肉感的でムチムチなお尻が押し当てられる。
これはアカン。息子も元気百倍だ。
どうしてこんな状況に陥ってしまったのか、俺は冷静に思い出すのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「調教って言われてエッチなこと想像した人、先生怒らないから正直に言いなさい」
ル「いやいや、そんな奴いるわけ――」
作者「スッ」
ル「……」
「リスみたいに食べるエレットかわいい」「勝手に堕ちてて草」「作者が手を挙げるのか」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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