第12話 やられ役の牢番、趣味に走る





 ラーシアとの決闘で勝利した。


 これは下級魔族としては歴史的快挙と言っていいだろう。


 武器や道具に頼り切った戦い方は魔族的にあまり好かれないが、それでも勝利が勝利であることに変わりはない。


 逆に負けた方は悲惨だ。


 今までラーシアを応援していたファンは一斉に手のひらを返した。


 正直、俺としては食べ物を粗末にするラーシアにムカついていたが……。

 観客席にいた魔族たちがあっさりラーシアを見限って嘲笑う様は見ると胸糞が悪くなる。


 そして、それはルシフェールも例外ではない。


 俺とラーシアはルシフェールがヒロインを迎え撃つ大広間で彼女に謁見していた。



「まさかお主が負けるとはな」


「も、申し訳ありません、ルシフェール様!!」



 ラーシアがルシフェールの前で土下座する。


 対するルシフェールはラーシアに関心がないのか、ポテチをパリパリ貪っていた。


 たった一度の敗北で魔族は全てを失う。


 ラーシアは俺に負けてファンを失い、ルシフェールの関心も失った。


 ルシフェールが俺の方を見て笑顔を見せる。



「しかし、見事であったな!! 流石はルガスなのじゃ!! ラーシアを倒したわけじゃし、お主を余の側近にしてやるのじゃ!!」


「そ、そんな、ルシフェール様!?」


「なんじゃ、ラーシア? より強い者が魔王軍の幹部になるのは当然じゃろ?」


「わ、ワタクシはただ貴女様のために――」


「恩着せがましいのう。いつ余がそんなことをお主に頼んだのじゃ?」


「う、うぅ、どうしてこうなりましたの……?」



 あっけらかんと言うルシフェール。


 ラーシアは俺を恨めしそうに睨むが、目に涙を浮かべていた。


 流石に可哀想になってきたな。



「いや、魔王軍幹部とかやらないっすよ?」


「「え?」」



 俺は笑顔で魔王軍の幹部になれと言うルシフェールの申し出を断った。


 目を瞬かせるルシフェール。


 ラーシアも俺が何を言っているのか分かっていないようで、唖然としている。



「な、何故じゃ!? ラーシアに勝ったお主にはその権利があるのじゃぞ!?」


「いや、普通に荷が重いんで。というか幹部って前線行くんでしょう? 無理無理。絶対死にますって。あと魔王様」


「な、なんじゃ?」


「俺、前に言いましたよね? 魔王様が負けたら味方がいなくなるって」


「それがどうしたのじゃ?」



 ……まだ気付かないのか。



「今のラーシア様の立場が、未来の魔王様になることもあるかもしれないんですよ?」


「む」


「自分がされて嫌なこと、悲しいことを人にしちゃダメっすよ。逆にこういう時、自分がしてほしいこと、嬉しいことを考えて行動するべきです」


「む、むぅ……」



 ルシフェールが眉を寄せる。


 そして、涙を流すラーシアの方を改めて見てハッとしたようだ。



「……たしかに、味方がいなくなるのは、辛そうじゃな」


「ル、ルシフェール様?」


「まあ、よかろう。お主の気遣いは全く不要じゃが、余のためを思って行動していたのは事実。このまま余の側近でいることを許す、ラーシア」



 その言葉を聞いた途端、ラーシアはさっきまで涙目だったのが嘘のようにパアッと明るい表情を見せた。


 対するルシフェールは口でそう言ったものの、悩ましそうに唸った。



「しかし、困ったのぅ。負けたラーシアをそのまま幹部の座に座らせておいては周囲に示しがつかぬのじゃ。あ、そうじゃ。いっそルガスを上級魔族に――」


「それもお断りします」


「何故じゃ!?」


「俺みたいな下級魔族がいきなり上級魔族になったら下克上狙ってる中級魔族や下級魔族の格好の的ですよ」


「む、むぅ、しかし、それでは示しが……。おお、そうじゃ!! いっそラーシアをお主の奴隷にしてはどうじゃ?」


「は?」


「え、ル、ルシフェール様……?」



 突拍子のないルシフェールの発案に、俺もラーシアも困惑する。



「ど、奴隷って、ラーシア様を?」


「うむ。母上がまだ魔王だった頃、母上は決闘を仕掛けてきた相手を返り討ちにして奴隷として飼っておったそうじゃぞ」



 マリセラ様が?


 たしかにしたたかな性格だけど、おっとりしてて優しそうなのに……。

 昔はブイブイ言わせていたという話は本当だったのか。


 いや、でも奴隷は少し抵抗がある。


 どうにか断りたいが、かと言って他に妥協案があるわけもなく。


 結局、ラーシアは俺の奴隷となった。



「むっふっふっ、ラーシアがいればルガスの狩りの効率もよくなろう。そうなれば、余はより沢山ルガスの料理を食べられる。流石は余!! 完璧な計画じゃな!!」


「なんだ、ただの食い意地か」



 まあいい。


 俺はただラーシアに食べ物を粗末にするなと約束させたかっただけだし、困ることでもない。


 でもそれはそれ、これはこれ。


 俺の奴隷になった以上は色々と命令させてもらおうじゃないか。


 くっくっくっ。












「な、なんですの、この格好は!!」


「何って、ただのメイド服だけど」



 俺はラーシアにメイド服を着せた。


 スカートの丈が短めな、ちょっと露出度の高いメイド服だ。


 まあ、ラーシアは普段の格好が紐だしな。


 布面積も多いし、ラーシアもそこまで恥ずかしいがることはないだろう。


 そう思っていたのだが……。



「うぅ、は、恥ずかしいですわ、上級魔族にして魔王軍幹部たるワタクシが、このような辱しめを受けるとは……」



 ラーシアはスカートの短さを気にしてもじもじしていた。


 流石は紳士ゲーのキャラ。恥じらう顔がエロい。



「……」


「ちょ、な、何を見ていますの!?」


「いや、なんかいいなって思って」



 最初は人の作った料理を粗末にするクソツインテールと思ったが、中々どうして恥じらう姿が可愛らしい。


 え? どうしてメイド服なのか、だって?


 ……わざわざ言わせるなよ、恥ずかしい。理由なんて一つに決まっている。


 ただの趣味だ。いいじゃん、奴隷メイド。


 




―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「奴隷メイドとかいい趣味してんね」


ル「あんたにだけは言われたくない」



「マリセラの過去が気になる」「メイドスキーだったのか、ルガス……」「あとがきに全力で同意する」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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