第11話 やられ役の牢番、ガッツポーズする





「逃げずに来たようですわね!!」



 数日後。


 俺は魔王城の一角にある決闘場まで足を運び、ラーシアと対峙していた。


 ラーシアは相変わらずエロい格好だ。


 しかし、その手にはラーシアの身の丈よりも大きな鎌を持っており、凄まじいプレッシャーを放っている。


 対する俺は狩りに出る時と同じ機動力を重視した軽装とスリングショットだ。


 腰のポーチには厳選した飛ばしやすい形の石ころが沢山詰まっているので弾切れを起こす心配はない、はず。


 いや、それよりも気にすべきことがあるな。



「……随分と観客を集めたんですね」


「このワタクシが戦うんですもの、当然ですわ」



 決闘場には沢山の観客がいた。


 ラーシアは美少女だし、何よりルシフェールの側近に選ばれるほど強い。


 彼女の戦う姿を見たいファンは多いのだ。



「ワタクシが勝ったら、もう二度とルシフェール様には近づかないこと。約束していただけますわよね?」


「いいですよ。その代わり俺が勝ったら、二度と食べ物を粗末にしないでください」



 決闘で勝った者は負けた者を従わせることができる。

 契約魔法を使うため、それを違えることもできない。



「では、ルシフェール様。ワタクシの戦い、どうかご覧くださいまし」



 そう言ってラーシアは決闘場の高い位置にある豪華な観客席に座るルシフェールに一礼した。


 なお、ルシフェールは俺が作ってやったポテチをポリポリ食べている。


 完全に観戦気分のようだ。



「うむ、二人とも程々に頑張るのじゃぞ」


「はい!! ルシフェール様のご期待に応えて見せますわ!!」



 そうして決闘が始まった。


 真っ先に動いたのはラーシアで、目にも止まらぬ速さで襲いかかってきた。


 本当に速い。


 瞬きする間に大鎌が俺の首を狩り取ろうと迫ってきたのだ。


 完全に殺す気の攻撃である。


 俺は大鎌の刃が首に食い込む寸前で身体を大きく捻って回避する。

 あと少し回避が遅れていたら胴体と首がさよならだった。



「あっぶな!?」


「ふん。下級魔族と言えど、最低限は動けるようですわね!!」


「っ」



 怒涛の連続攻撃。


 それもラーシアは全く本気を出していないようで、完全に俺をおちょくっていた。


 ……舐めやがって。


 俺はスリングショット用の石ころが入っているポーチとは別の雑嚢から手のひらサイズの玉を取り出す。


 それを地面に勢いよく叩きつけた。



「っ、煙幕ですの!?」



 ラーシアの言う通り、俺が使ったのは目眩まし用の煙幕を発生させる使い捨て魔法具だ。


 エレットにお願いして作ってもらった。



「小賢しい真似ですわね!! このようなものがワタクシに通じるわけ――」


「ないでしょうね」


「!?」



 俺は煙幕に紛れてラーシアの背後に回り込み、スリングショットを放つ。


 狙いは頭。


 常人なら骨が砕けて脳髄をぶち撒ける羽目になるだろうが、ラーシアは魔王軍幹部。


 まともに食らっても死ぬことはないだろう。



「がっ!? っ、な、なんですの、今のは!?」



 どういう攻撃を食らったのか、ラーシアは分かっていないらしい。


 ならば混乱してるうちに畳み掛ける。


 走りながら位置を変えてはスリングショットで小石を撃つ。


 こうやって確実にダメージを与える作戦だ。


 我ながら卑怯だと思うが、これは俺みたいな弱い魔族が強い魔族と戦う時に使うれっきとした作戦なのだ。


 世の中には勝てば官軍、負ければ賊軍という言葉がある。


 勝った方が正義なのさ!!



「くっ、ちまちま鬱陶しいですわね!!」



 ラーシアが大鎌を振り回し、暴風を発生させて視界を遮る煙幕を無理やり晴らせた。


 俺は一瞬で見つかってしまう。


 さっきまでの作戦がラーシアを苛立たせていたのだろう。


 ラーシアは大鎌を大きく振りかぶってきた。



「ぐっ!?」


「ざまあないですわね!! どんどん行きますわよ!!」



 大鎌を器用に扱い、嬲るように少しずつ身体を切り裂いてくる。


 痛い。超痛い。


 それでも俺は辛うじて致命傷だけは避けて、ラーシアと距離を取った。



「あら、まだ始まって間もないというのに随分とボロボロですわね。ワタクシをボコボコにすると仰ったのはどの口だったかしら?」


「いきなり煽ってくるとか余裕っすね。魔王軍幹部(笑)は舌戦も得意なようで」


「……減らず口を」


「うわー、レスバ弱っ。もう少し語彙力鍛えたらどうっすか?」



 俺の物言いに更なる苛立ちを見せるラーシア。


 その隙に俺は雑嚢から小瓶を取り出し、その中身を呷った。


 正直、これは使いたくなかったが……。


 やはり俺のようなやられ役の牢番に魔王軍幹部の相手など務まらない。


 ならば勝つために何でも使う。



「ふっ」


「……あら?」


「ひひっ、あひひひっ!!!! あー、キタキタァ!! 頭がスッキリしてきたぁ!! この何でもできそうな感覚!! 最高にハイッて奴だあ!!」



 俺が飲み干したのは、以前エレットに作ってもらった特製のポーションだ。


 テンションが上がる上がる。ブチ上がる。



「い、いったい何を飲みましたの? まるで別人のような……」


「どうだっていいだろォ、クソツインテール!!

俺ァお前に食事のありがたさを教えてやりてぇだけだからよぉ!!」


「!?」



 俺はナイフを片手に駆け出し、ラーシアに襲いかかった。


 今まで距離を取って戦っていた俺が接近してきたことに驚いたのか、ラーシアはギョッとした様子で迎え撃つ。


 ラーシアが大鎌でナイフを弾くが、それが大きな隙を作った。


 俺はラーシアの懐に潜り込み、至近距離でスリングショットを構え、下顎を的確に狙い撃ってやった。



「あがっ!?」



 一瞬、ラーシアが白目に剥く。軽い脳震盪でも起こしたのだろう。


 今がチャンスッ!!


 俺はラーシアの背後に回り込み、その首に腕を回した。



「ヒャッハァー!! チョークスリーパーだァ!! 覚悟しろォ!! 目が覚めたら俺の料理を死ぬほど食わせてやるからなぁ!!」


「あぐっ、うぎ……」



 そうやって俺はラーシアを絞め落とした。


 唖然とする観客、ポテチをポリポリ食べるルシフェール。


 俺はガッツポーズで勝利を宣言する。



「俺の勝ち!!」



 エレットが作ってくれたスリングショットや煙幕玉、ポーションのお陰だな。


 ん? 何でもかんでもエレット製のアイテムに頼り過ぎだって?


 はっはっはっ、正論はやめてもらおうか。勝てばいいのだよ、勝てば。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「この主人公ヤクキメてて怖い」


ル「書いてるのあんたじゃん……」



「勝てばいいのだよ」「またキメてる……」「むしろ作者がキメてるだろ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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