第9話 やられ役の牢番、からあげを作る
「ヘッショ!! ヘッショ!! 空飛ぶ鳥も!! 走るイノシシも!! ヘッショッ!!」
俺は自分でもよく分からないテンションで魔物狩りをしてた。
本来の俺の実力なら鳥型の魔物を一、二匹狩れたらいい方だが、今回は十数匹も獲物を仕留めることができた。
きっとエレットの作ったスリングショットやポーションのお陰だろう。
次々と獲物をヘッドショットする。
「今晩はからあげ!! からあげにしよう!! 楽しみだなあ!! あはははは!!」
大量の魔物を狩った俺は、そのまま獲物を引きずって魔王城の厨房に向かった。
そして、狂ったように笑い声を上げながら包丁を振り回して魔物を解体する。
自分でも驚くくらい手際よく解体が進み、下ごしらえが終わった。
「お、おい、なんだ、あいつ?」
「あいつだよ、魔王様をぶん殴って、魔王様の気に入ったものをぶっ壊したやべー奴」
「強い、のか? 大したことなさそうだが」
「頭がイッてんだよ。見ろ、あの狂ったように包丁を振り回す様」
「怖っ。近寄らんとこ」
厨房室の前を通りがかった魔族たちが廊下からこちらを覗きながら小声で話している。
俺は包丁を片手に彼らを手招きした。
「くっくっくっ、お前らにもからあげを食わせてやろう。美味くてトブぞ」
「「「「「ひぃ!? す、すみませんでしたー!!」」」」」
「ん? おい、どこに行く?」
せっかくからあげを食べさせてやろうと思ったのに……。
と、そこまで考えてから気付いた。
俺は魔物を解体したせいで、服が全身真っ赤に染まっている。
しかも片手には包丁。
笑いながら動物を解体しているとか、冷静に考えなくてもホラーだ。
「……なんか、急に落ち着いてきたな」
エレットの作ったポーションの効果が切れたのか、テンションが元に戻った。
俺は一口サイズに切った肉を醤油やらニンニクやらを混ぜて作った液に浸し、しばらくして小麦粉をまぶして揚げる。
二度揚げもしたので絶対に美味いはずだ。
「おい、何を作っておるのじゃ?」
「からあげだよ。……え、魔王様?」
急に声をかけられたので咄嗟に答えたが、いつの間にか厨房にルシフェールが立っていた。
興味深そうに油で揚げている最中のからあげを見つめている。
「何故ここに?」
「厨房の前を通ったら妙に香ばしい匂いがしたのじゃ。それで、からあげとはなんなのじゃ?」
「からあげはからあげですよ。からっと揚げるもんです。美味いですよ」
「……どれ、余が一つ味見を――」
皿の上のからあげに手を伸ばそうとしたルシフェール。
俺はその手をぺちっと叩いた。
「痛っ、な、何をするのじゃ!?」
「摘まみ食いは厳禁です。あと手掴みも行儀が悪い」
「よ、余に命令するでない!! 何様のつもりじゃ!!」
「ただの牢番ですが?」
「何故お主はそうも堂々としておるのじゃ!! 余に刃向かうな!! 死刑にするぞ!!」
「おっと、いいんですか? そういうこと言っちゃって。もう二度とお菓子とか食べられなくなりますけど」
「!? そ、それは困るのじゃ!!」
ルシフェールの反応がチョロくて少し可愛く思えてきたな。
「ま、それなりに量がありますし、一つくらいならいいですよ」
「っ、そ、そうか!! むふふ、お主も話が分かるではないか!!」
「ちゃんとフォークなり箸なり使って食べてくださいよ」
「分かっておる!!」
そう言ってルシフェールが戸棚からフォークを持ち出してきて、からあげを一つ頬張る。
まだ熱かったのだろう。
口に入れた途端にルシフェールは「あふ!?」と悲鳴を上げた。
「はふ、あふっ、むぐっ、ごくん。……な、なんじゃ、これは!? じゅわーっとするのじゃ!! なんか凄いのがじゅわーっと口の中に広がったのじゃ!!」
「語彙力絶命してますね」
いやまあ、普段からロクな料理を食べてないから余計に美味しく感じるのだろう。
「おい!! 母上にも食べさせたいから幾つか寄越すのじゃ!!」
「了解っす。適当に皿に盛って持ってってください」
「むふふ、母上も気に入るはずなのじゃ!!」
そう言って皿に大量のからあげを盛り、厨房を後にしたルシフェール。
……あんな量、マリセラは食べられないと思うが。
俺は調理したからあげを地下牢に持って行く。
「昼食の時間ですよー。今日はからあげっす」
「む、なんだ? やたらいい匂いがするな」
「からあげ? 聞いたことない料理だが、随分と香ばしい匂いだね。食欲をそそられるよ」
そう言ってからあげを食べるカティアナとエレット。
先輩は菜食主義になったらしいので、お断りされてしまった。
「う、美味い!! なんだこれは!?」
「……ふむ。肉に小麦粉をまぶして、大量の油を熱した中に入れたのか。これは中々美味しいね。」
二人からも好評なようで何よりだ。
「しかし、美味いは美味いが、多いな……」
「……たしかに。テンションに任せて作ってたら作りすぎちゃいましたわ」
「これほどのものを腐らせるのは勿体無いね。どうにか食料を保存できないものか……」
「あ、そうだ。エレット嬢、ちょいとお耳を拝借」
「なんだね?」
俺はエレットの呟きにピンと来て、彼女にこっそり耳打ちした。
すると、エレットは目を輝かせ始めた。
「作れます?」
「ああ、作るとも。なるほど、そういう代物があればたしかに便利だ。私に任せたまえ。明日には完成品を用意しよう」
「わー、早い」
明日が待ち遠しいな。
あ、ちなみに余ったからあげはルシフェールに持って行ったら嬉しそうに平らげてしまった。
流石は魔王。
大量のからあげを全て収めてしまう胃袋の大きさが恐ろしい。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ルシフェール調教されてて草なんだ」
ル「躾けと言え」
「狂ってて草」「ルシフェールかわいい」「調教呼ばわりするな笑」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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