第8話 やられ役の牢番、最高にハイになる





 魔王城の地下牢に新たなヒロイン、エレットがやってきた。


 彼女は異質なヒロインだ。


 ゲームでも捕まった際、ゴブリンやオークに犯されても顔色一つ変わらないのである。


 むしろ辛辣だ。


 これはつい先日、エレットを捕らえた魔王城の兵士が彼女を犯そうと地下牢にやってきた時の出来事だった。



「ぐへへ。おい、牢番!! この牢屋の鍵を開けろ!!」


「え、いや、それはちょっと――」


「オレに口答えするんじゃねぇ!! 下級魔族風情が!!」


「がふっ」



 止めようとした俺をぶん殴り、鍵を奪い取るゴブリンの中級魔族。


 ゴブリンは最弱のイメージがあるが、普通に俺より強い。

 魔族は強さで全てが決まるため、生まれや種族は関係ないのだ。


 ある意味平等だが、不平等である。



「大丈夫ですか、ルガス君」


「せ、先輩、あの兵士止めてくださいよ」


「……私では彼に敵いませんよ。彼は中級魔族の中でも上位の実力者です」


「ゴブリンなのに?」


「ゴブリンなのに、です」



 同じ中級でもピンキリということか。


 こうなったら先輩を止めた時のようにもので釣って止めるしかない。


 しかし、俺は今何も持っていなかった。


 このままではエレットが、ヒロインが酷い目に遭ってしまう。


 そう、思っていたのだが……。


 ズボンを下ろして息子を晒すゴブリンの中級魔族に対し、エレットはそれを見て興味なさそうに言った。



「なんだね、そのショボい男性器は」


「な、なんだと?」



 俺はそのやり取りを知らなかった。


 少なくともゲームのエレットは、これと言って目立った抵抗もせず、ただ黙々と兵士に犯されるはず。


 それがどういうわけか、ゴブリンのジュニアをディスり始めた。



「短い、細い、弱々しい。生物学的に魅力を感じないね。もう少し自慢できるイチモツを持って生まれてから来たまえ」



 その散々な物言いにゴブリンの中級魔族は涙を流しながら帰って行った。


 いやまあ、未遂で終わってよかったけど。


 流石に同じ男としてあそこまで言われるのは気の毒すぎる。


 同情はしないが。



「おや。どうしたのだね、るがすっす君? まるで恐ろしいものを見るような目で私のことを見て」


「無慈悲だなあ、と」


「あのゴブリンは君を殴ったのだ。あれくらいは言わないと、私の気が済まないというものだよ」



 え、つまり俺のために怒ってたってこと?


 キュン。……いや、キュンじゃない。ときめいてどうする。



「ところでるがすっす君。殴られたところは痛むかね?」


「いや、それは別に大丈夫ですけど……」


「そうか。しかし、念のため私の作ったポーションを使うといい。きっとすぐに治るはずさ」


「あ、どうも」



 俺はエレットからポーションを受け取り、一瞬思考が停止する。



「え、これいつ作ったんです? 牢屋に入れる前に持ち物確認しましたよね?」


「私ほどの天才であれば、夜中にこっそり牢屋を抜け出して魔王城で素材を集めることなど容易いのだよ」


「ちょ!? 何やってんすか!?」



 衝撃の事実が発覚。


 俺が頭を悩ませていると、隣の牢で眠っていたカティアナが目覚めたらしい。



「うるさいぞ、ルガス。何を騒いでいる?」


「あ、カティアナ嬢。実はかくかくしかじかで」


「かく? しっかり説明してくれ」


「ええと……」



 俺はありのまま起こったことを話した。



「な、なるほど。エレット殿は連合軍でも色々やらかしていたからな……諦めた方がいい」


「えぇー、まじっすか」


「酷いね、君たちは。私はただ己の欲望に忠実なだけだよ」



 それがダメなんだって。


 しかし、厚意でポーションを作ってくれたのは事実だろう。


 一応、飲むか。


 俺はポーションの入った小瓶の蓋を開け、一気飲みした。



「……なんか、エナドリの味がする……」



 完全に炭酸の抜けたエナドリだ。


 ポーションってもっとまずいイメージがあったのだが、不思議な味だな。



「な、なんだ? なんか、思考が少しずつクリアになってきたような……?」


「それは私の特製ポーションだからね。一本飲めば怪我は一瞬で治癒し、数十時間は飲まず食わず眠らずでも活動できる代物だよ」


「エレット殿、それは大丈夫なのですか!?」


「安心したまえ。私の身体で試したら死にはしなかったから平気だよ」


「絶対に大丈夫じゃない奴では!?」



 何故だろうか。


 無性に身体を動かしたくなってきた。力も漲ってくる。


 そうか、これが……。



「最高にハイッてやつか!! あはははははははははは!!!!」


「!? 待て、ルガス!! どこに行く!?」


「ちょっとしたハンティングさ!! 美味い肉を捕ってきてやりますよ!! いひひひひひひひひひひひ!!!!」


「おい!! 明らかにおかしくなってるぞ!!」



 カティアナが制止してくるが、牢屋にいる彼女に俺を止める術はない。

 先輩と交代し、俺は魔王城の近くにある森へ魔物狩りに向かった。


 なに、俺にはスリングショットがある。


 大物を獲ってきて美味しく調理してやろうではないか。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「女の子にブツを罵倒されるのって興奮するよね」


ル「こいつ、無敵か?」



「ゴブリンさん気の毒すぎる」「キマってる主人公w」「作者ガチの無敵で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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