ゆきをとめ

 わたしのはは は

 さっていった ゆきをんなだそうです

 ちち は

 ずっとしずかにうつむいているひとでした


それは、あの大雪の年にわたしが知った母の本当と、どうやらいとこであるらしい白すぎる手をしたすきとおるような声のひとりの少女との出会いからでした。


「ゆきをんなのいのちは、ひとのあたたかさにとけてしまうから」

「ほんとうは、いつかくるそのひをしっていたから」


ゆきをんなは、わたしをつれていきませんでした。そのとき父のいのちをとりませんでした。


「だれかに話すなら、じぶんに話してほしいとねがってかなってしまったから」


そうおしえてくれた少女へ、「おまえゆきをんなだろう」と、いうと

「まだゆきをとめなの」

と、いったのでした。


 はげしく

 かぜが

 ふきました

 こなゆきが

 いちめんにまいちり

 それから

 まっしろに

 なってしまいました


 きがつけば

 ぶなのもりで

 たっていたのです

 ゆきなんて

 どこにもありませんでした

 かっこうがないていました

 はだかのこずえを

 かぜがからからならしました


そんなことがあったのです。

それからというもの、目をとじればあのふぶきがふきあれています。

しずかになれば少女のといきがきこえます。

とおい後ろのほうから、ほんの小さなわたしをだいた、母と父のなかむつまじかったころのまなざしがやって来て、わたしと雪であるわたしとのあいだをやるせなくとうりぬけていきました。


 いまもなお

 わたしのめのなかには

 ゆきがふっています


 ゆきはめのそこでとけて

 つめたいみずになって

 なみだのように

 ながれます


 ちっとも かなしくなんかないのに

 ちっとも うれしくなんかないのに

 ちっとも くやしくなんかないのに

 ちっとも なんにもないのに

 

 でも

 つめたい

 なみだは

 ひとすじ

 ふたすじ

 とまることなく

 ながれます


おちついた冬のけしきが、なみだでぼやけます。こんなにはっきりした、すきとおったけしきがぼやけていきます。とおいとおいむかしのように、なきじゃくっていた赤ちゃんだったころのけしきのように、みえるすべてがぼやけていくのでした。


(おわり)

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