第22話 邪神会議
暗黒の森での戦いから数日後――。
俺は奇妙な部屋にいた。壁一面に広がる暗黒の模様は、じっと見つめていると吸い込まれそうなほど不気味だった。天井には無数の目が蠢き、まるでこちらを監視しているようだ。ここはニャルが用意した「邪神会議」のための空間らしい。
「主、もう少し姿勢を正してください。この場では貴方が我らの代表なのですから。」
ニャルが淡々とした口調で念話を送ってくる。彼は俺の隣で完璧な礼儀作法を体現しながらも、どこか愉快そうに微笑んでいた。
「お前が会議を設定したんだろ?もっと分かりやすい場所にしてくれよ。圧がすごいんだよ、この部屋。」
「何を言っているのですか。この空間は邪神たちが心地よいと感じる波動を保つように調整されています。貴方がアザトースの半身たる存在でなければ、即座に精神を破壊されているでしょう。」
「余計な気遣いありがとうな。」
そんなやり取りをしていると、突然部屋の空気が変わった。蠢いていた目が一斉に閉じられ、静寂が訪れる。そして、巨大な門が音もなく開いた。
「久しいな、半身よ。」
低く響く声とともに現れたのは、黄衣を纏ったハスターだった。だが、今回は友人としてではなく、「黄衣の王」としての威厳を纏っている。
「融君、緊張してるのかい?大丈夫、僕は味方だよ。」
そう言って軽くウィンクしてくれるが、この場の雰囲気のせいか、全く気が楽にならない。
その後も次々と邪神たちが現れた。巨大な黒山羊の姿をしたシュブ=ニグラス、無数の顔を持つナイアーラトテップの化身たち、深きものの主ダゴン――全員がそれぞれ異なる空間の歪みから姿を現した。
「これが邪神会議か…。」
圧倒的な存在感を持つ者たちを前に、俺は思わず息を呑む。
「主、彼らは貴方の仲間であると同時に、潜在的な敵でもあります。警戒を怠らないでください。」
ニャルの言葉に小さく頷く。
会議の開始
「さて、阿佐間融よ。」
シュブ=ニグラスが静かに口を開いた。その声は低く、全てを包み込むような響きがある。
「貴様が暗黒のファラオ団の陰謀を阻止したことは評価に値する。だが、彼らの行動は始まりに過ぎない。我らが集まった理由は、これからの対応を話し合うためだ。」
「対応って、具体的に何をするんだ?」
俺が尋ねると、黄衣の王ハスターが答えた。
「暗黒のファラオ団は、アザトースを完全に復活させようとしている。そのためには君の存在が不可欠だ。君が持つ力を狙って、さらに大規模な攻勢を仕掛けてくるだろうね。」
「だからって、邪神たちが集まって会議するのか?普通、こういうのは自分たちで勝手に何とかするんじゃないのか?」
その質問にニャルが笑みを浮かべながら答える。
「主よ、我らがこうして会議を開くのは貴方が特別だからです。貴方がアザトースの半身でありながら人間としての意識を持つ唯一の存在である以上、我らの行動は貴方の意向に大きく左右されるのです。」
「俺の意向…?」
「その通りだ、阿佐間融。」
声を発したのはダゴンだった。深い海を思わせるような低い声が部屋全体に響く。
「貴様の力をどう使うか――それは、この会議で決めるべきことだ。我々がその力を制御できない以上、貴様自身が指針を示す必要がある。」
会議が続く中、突然部屋の隅から人影が現れた。
「……待ってください。」
その声に振り向くと、そこには橘が立っていた。
「橘さん?なんでここに…?」
「阿佐間君が危険な選択をしないか、私も見届けたいと思ったの。」
彼女は緊張した様子ながらも、毅然とした態度で邪神たちを見渡した。
「あなたたち邪神がどれだけ強大であろうと、阿佐間君の決断を利用しようとするなら、私はそれを阻止する。」
橘の言葉に、一瞬、会場の空気が凍り付いた。だが、ハスターが微笑を浮かべながら拍手を送る。
「素晴らしい勇気だね、橘さん。君みたいな人間がいるなら、融君も悪くない決断をするだろう。」
「では、阿佐間融よ。」
シュブ=ニグラスが締めくくるように言った。
「次の一手をどうするか、貴様の答えを聞かせてもらおう。」
全ての視線が俺に集中する中、俺は息を吸い込み、決意を固めた。
(次は、俺が選択する番だ――。)
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