第21話 混沌を超える一撃
俺の全身に緊張が走る。暗黒のファラオ団の指導者らしき男が放つ威圧感に、思わず息を飲んだ。だが、その後ろから這い出してきた異形の存在――禁忌の魔物に対し、俺の内なる力が反応し始めた。邪眼の視界が歪み、全てを見通すような感覚が広がる。
「主よ、その力を解放するのです。あの存在を前にしては、封印など意味を成しません。」
ニャルの念話が鋭く響く。だが、その言葉に応える前に、シュブ=ニグラスが前に出た。
「貴様ら、私の弟子に手を出すとは身の程を知らぬな!」
触手が森全体を覆う勢いで伸び、暗黒のファラオ団の魔術師たちを次々と弾き飛ばしていく。禁忌の魔物に対しても、その力を惜しみなく解放し、空間が揺れるほどの衝撃を生み出していた。
しかし――。
「ふふ、その程度では私の召喚した存在には届かぬ。」
暗黒のファラオの男は嘲笑を浮かべた。禁忌の魔物はシュブ=ニグラスの攻撃をものともせず、その巨体をゆっくりとこちらに向けた。
「くそ…!」
俺は咄嗟に邪眼を解放し、魔物の動きを一瞬だけ封じた。だが、その力を完全に抑え込むには足りない。
「融君、後ろを守って!」
ハスターの声が響く。彼の周囲には無数の黄金の光が舞い、黄衣の王としての力が全開になっていた。その光が暗黒のファラオ団の魔術師たちに降り注ぎ、一時的に彼らの術式を妨害している。
「すごいな、お前…」
「ふふ、僕を甘く見ちゃ困るよ。」
ハスターの援護で少しだけ余裕が生まれる。その間に、橘が護符を掲げたまま、祈るように呪文を唱えている。
「お願い…!これで、少しでも時間を稼げますように…!」
彼女の護符が眩い光を放ち、禁忌の魔物の動きがわずかに鈍った。その隙を見逃さず、俺は一歩前に踏み出す。
「シュブ=ニグラス、俺の力をどう使えばいい!?」
「愚問だな。お前自身が考えろ。それが師匠である私の教えだ。」
その厳しい言葉に、一瞬息を呑む。だが同時に、俺の中に眠る力が再び目覚め始めるのを感じた。
「主、恐れることはありません。あなたの邪眼はアザトースの半身たる力――全てを呑み込む混沌そのものです。」
ニャルの言葉が背中を押す。俺は自らの封印を徐々に解き、邪眼の力を完全に開放する決意を固めた。
「……やるしかないか。」
全身に広がる膨大な力。世界そのものを歪める感覚に、かつての恐怖が蘇る。しかし、この力を使わなければ仲間を守れない。
「――これで終わらせる!」
俺の叫びとともに、邪眼から放たれる黒い光が空間を切り裂いた。その光は禁忌の魔物を直撃し、その巨体を一瞬で飲み込んでいく。魔物の呻き声が森全体に響き渡り、やがて完全に消滅した。
暗黒のファラオの男は、初めて表情を歪めた。
「それが…アザトースの力か…。なるほど、これは厄介だ。」
だが、彼はまだ余裕を見せている。
「しかし、これで終わりだと思うなよ。我らは主の意思の下、何度でも甦る――。」
男が再び呪文を唱え始めたその時――橘が彼の前に立ちはだかった。
「これ以上はやらせない…!私は…阿佐間君の味方だから!」
護符を高く掲げた彼女の決死の行動が、男の動きを封じた。
「橘さん!」
「阿佐間君、今がチャンス…!」
彼女の声に応え、俺は再び邪眼に力を込めた。そして、全てを終わらせるために、その力を暗黒のファラオの男へと向けた。
「終わりだ――!」
放たれた一撃が、全てを飲み込む闇となり、男を包み込む。光と闇が交錯する中、彼の姿は消え去った。
静寂が戻った森で、俺は膝をつき、息を整えた。
「融君、無事?」
ハスターが微笑みながら近づいてくる。その後ろでは、シュブ=ニグラスが満足そうにうなずいている。
「橘さん、大丈夫か?」
「うん…。私、少しは役に立てたみたいで良かった。」
彼女の微笑みを見て、胸の奥が少しだけ温かくなった。だが、まだ戦いは終わっていない。この一戦は、混沌の長い戦いのほんの序章に過ぎないのだと、俺は痛感していた。
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