第12話 なんか、アザトースが接触してきた
その日、普段の静かな日常が突然破られた。何の前触れもなく、突然、俺の意識にアザトースの存在が押し寄せてきた。
「まさか…アザトース…?」
俺は驚きと共に、冷や汗が背中を流れるのを感じた。あの、宇宙の終焉の神。全てを飲み込む存在であり、暴力的な衝動で無秩序を引き起こす恐ろしい存在。だが、どうして俺に接触してきたんだ?あの力を持ってして、俺に何を求めているのか、見当もつかない。
その瞬間、意識の中に強烈な歪みを感じた。まるで、全てが反転し、世界が裏返るかのような感覚。空間そのものがぐにゃりと歪み、まるで異次元から来たような存在の気配が、俺の周りを包み込んでいった。
「う、うわ…」
頭が痛くなり、目の前の世界がぼやけていく。目を閉じようとしても、視界はどこまでも広がり、俺の体はどこにも存在しないかのような不安に襲われた。冷たい汗が全身を伝い、震える手で自分を支える。
そして、彼の声が響いた。
『ああ、あなたか…。』
その声は、まるで宇宙の奥底から響くような、低く、歪んだ声だった。意識が引き裂かれそうな感覚に包まれながらも、俺は必死にその声に耳を澄ませた。
『私はアザトース。お前が望んだ力に応じて、私は触れる。だが、どうしても答えを出さねばならんのだな。』
その言葉に、俺は一瞬何を言われているのか理解できなかった。しかし、すぐにピンときた。これは、アザトースが俺に何かを求めているのだ。それは契約か、それとも他の何かなのか。
「お前が、俺に接触してきた理由は…?」
言葉を絞り出すように、俺は問いかけた。意識がどんどん遠のいていく中で、アザトースの言葉が次々と響く。
『お前が今手にした力。アザトースの力と絡み合っていくだろう。それを使いこなすには、私の存在と共に生きることが必要なのだ。』
その言葉に、俺は胸の奥が重くなるのを感じた。アザトースの力?俺は確かに邪神たちとの契約を結んで、幾つかの力を得ていたが、それがアザトースとも関わるものだとは思ってもみなかった。
「それって…どういうことだ?」
俺は問いかける。アザトースの意図が全く分からなかった。だが、その言葉はすぐに答えに変わった。
『お前の右目の力――それが私の力に近づいている証拠だ。無意識に使っているその力が、私の影響を強めるのだ。』
俺の右目。オッドアイの力。それがアザトースと繋がっている?確かに、右目の緑色には何か異様な力が宿っていた。それがまさか、アザトースに繋がるものだとは。
「じゃあ…俺は、アザトースの一部ってことか?」
その問いかけに、アザトースの声はやや穏やかに答える。
『一部だ。だが、まだ完全に私の力を手に入れたわけではない。お前がその力を完全に引き出すとき、私の真の力が現れるだろう。』
その言葉に、俺の胸の奥で何かが震えた。アザトースの力を引き出す?それは、俺にとっては想像を絶するようなことだ。その力を使いこなせば、どんな事態が待っているのか。俺はそれを考えたくなかった。
だが、同時にその力を手に入れることで、俺は何かを成し遂げることができるかもしれないと思った。どこまでも深い闇の中で、無限の可能性が広がっているようにも感じた。
『お前は選べ。私の力を手に入れ、闇の中に足を踏み入れるのか。それとも、手放し、普通の人間として生きるのか。』
アザトースの声が再び響く。その問いに対して、俺はしばらく黙った。
「選ぶ…?」
その言葉が、俺の頭の中で繰り返し響き渡る。普通の人間として生きる道、そしてアザトースの力を手に入れ、闇の力を使いこなす道。どちらを選ぶか。それは、俺の人生を大きく変える選択だ。
「どうすればいいんだ?」
その問いかけに、アザトースは無言で答えなかった。代わりに、俺の右目が再びひどく痛みだし、その視界に異次元からの扉のようなものが現れる。
「これが…お前の選択肢か。」
そう呟きながら、俺は深い息を吐き、扉をじっと見つめた。その先には、未知の世界が広がっているように感じられた。どんな選択をするにせよ、これからの俺の人生は、確実に変わるだろう。
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