第6話 知識の支配者、授業の天才
その日から、ニャルラトホテプの「教師活動」はどんどん広がりを見せた。数学だけでは終わらず、次に彼は歴史の授業を担当することになった。最初は教師陣も生徒たちも不安げな表情を浮かべていたが、いざ授業が始まると、その圧倒的な知識量と説得力に圧倒されるばかりだった。
「さて、皆の者。今日からは『戦争と文明』について考えよう。」
ニャルラトホテプは黒板に時系列の図を描きながら、戦争がどのように文明を形成し、または滅ぼしたかについて話し始めた。
「例えば、第二次世界大戦。これは単なる戦争ではなく、無数の国家と民族が持ちうるエネルギーと知識がぶつかり合った結果だ。だが、戦争が終わった後にどれほどの革新が生まれたかを見てみよう。原子力やコンピューター技術、そしてその後の宇宙開発が、どれもこの戦争を経て開花したのだ。」
生徒たちはその話に完全に引き込まれ、普段は退屈に感じがちな歴史の授業が、まるで壮大な冒険譚のように感じられた。
「そして、戦争がもたらすものは破壊だけではない。平和もまたその後に生まれる。君たちがどの時代に生き、どんな文明を築くかは、今後の選択にかかっているのだ。」
その言葉に、生徒たちは黙って頷き、これまでにないほど真剣な眼差しを向けていた。まさか、この異世界から来た存在がこれほどまでに人間の歴史を理解し、伝えることができるとは思ってもいなかった。
放課後、俺はまたニャルラトホテプに声をかけた。
「おい、さすがに今日はちょっとやりすぎじゃないか? あんな授業、普通の先生でもできないぞ。」
ニャルラトホテプは静かに微笑んだ。
「いや、これこそが教育というものだ。人々は知識を得ることで、ただの『生きる』ではなく、真に『生きる意味』を見出すのだよ。」
俺はため息をつきながらも、どこか感心してしまう自分がいた。確かに、彼がやることは普通の教師には真似できないようなことばかりだったが、確かに生徒たちを深く引き込んでいるのだ。
「でもさ、今度は何をやるつもりなんだ?」
「次は化学の授業だ。私は化学も得意だ。元素とその反応に関する理論を教えるのは面白いだろう。」
「化学か……お前、ほんとに何でもできるんだな。」
「我々邪神は多くの知識を持っている。そのすべてを伝えることが私の使命だ。」
その言葉に、俺は思わず黙ってしまった。確かに、ニャルラトホテプがやることは常識では測れない。彼が学校に現れてから、俺の学校生活は急速に変わっていった。それは、良くも悪くも、まさに邪神が下僕となった影響だ。
でも、気づけばそんな奇妙な生活にも、少しだけ馴染んでいた自分がいた。
◆
数日後、ニャルラトホテプはさらなる活動を始めることになった。今度は学校の運営にまで手を出し、校長先生と密かに協力して、生徒たちのために新たな教育プログラムを作り上げようとしていた。
「主人が望むような世界を作り出すのが私の使命だ。それに、学校がもっと効率的に運営されるようにするのも、重要な役割の一つだろう。」
その言葉を聞いて、俺は改めて自分の立場を思い出す。あの時、ニャルラトホテプを下僕にしたことで、こんなにも多くの変化が訪れるとは思っていなかった。けれど、それでも、彼がしていることは確かに無駄ではない。
「お前、いつからそんなに教育に熱心になったんだ?」
「私はただ、あなたのために全力を尽くしているだけだ。」
その時、ふと冷静に考えてみると、ニャルラトホテプが「下僕」であるという立場が、あまりにも不自然でないように感じてきた。
彼の存在は、もはや俺にとって欠かせないものになりつつあった。そして、これからどんな未来が待っているのか、ますます興味深くなってきた。
この奇妙で不思議な生活の先に、何が待っているのか――それを考えると、少しばかりワクワクしてきた。
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