第4話 ニャルラトホテプ、下僕に落ちる件
翌日、またもや予想外の出来事が起こった。
「阿佐間融、お前に会いたいと言っている者がいる。」
学校の帰り、家の玄関を開けた瞬間、ミスカトニックがそう言った。その口調には、どこか不安げな様子が感じられた。俺はすぐに部屋に入り、靴を脱いでから冷静に尋ねた。
「会いたい者? また教団の連中か?」
「いや……それとも、違うかもしれません。」
その言葉を聞いた瞬間、部屋の中にひときわ重い空気が流れた。なんだか嫌な予感がしたが、振り返るとすぐにその「者」が現れた。
扉が音もなく開き、その向こうに現れたのは、まるで人間のような姿をしていたが、どこか異次元から来た存在に思える、いわゆる「邪神」の姿だ。
「こんにちは、阿佐間融。お前と話がしたくて来た。」
その声を聞いた瞬間、俺は思わず背筋が凍りついた。目の前に立っているのは、間違いなくニャルラトホテプ、あのクトゥルフ神話の邪神、暗黒の神だ。
「……ニャルラトホテプ?」
「その通りだ。」
ニャルラトホテプの姿は、人間の形をしているが、どこか神々しい威圧感を放っている。だが、その表情にはどこかおかしみがあった。
「何で俺のところに?」
「お前が思っているほど、私はあなたに関心がないわけではないんだ。」
ニャルラトホテプは俺を見て微笑んだが、その微笑みがどこか冷たいものに感じられる。
「君が欲しいのは、ただの力だけではないだろう?」
その言葉に、俺は少し考え込んだ。確かに、俺はただの力を求めているわけではない。転生してきた世界で、俺はただ退屈しない人生を送りたいと心の中で思っていた。だが、ニャルラトホテプがそれを見透かしているような言い方をされたのは予想外だった。
「何が言いたいんだ?」
「だから、私はお前に力を与えるとともに、お前の下僕として仕えることにした。」
「は?」
その瞬間、俺は完全に理解できなかった。ニャルラトホテプが自分の下僕になる? そんな話、今まで聞いたことがない。
「お前が求める力を与える。それと引き換えに、私はお前の力を使わせてもらう。」
俺は言葉が出なかった。ニャルラトホテプが自ら下僕になるなんて、聞いたことがない。だが、どう考えても、この話には何か裏がありそうだ。
「それに、君の持っているものは、私にとって非常に魅力的だ。」
ニャルラトホテプは、俺の持っている邪神の力を示すように、手を伸ばしてきた。
「俺の力がどうした?」
「君が持っている力、ビヤーキーや邪神を召喚するその能力――あれは私にとって、非常に有用なものだ。」
俺は一瞬、心の中で計算した。ニャルラトホテプが言っていることには一理ある。しかし、あの邪神が自分に従うとなると、それはそれで気味が悪い。だが、もしこの提案を受け入れることで、逆に自分がもっと力を得ることができるなら――
「お前が下僕になるっていうのは、どういう意味だ?」
「つまり、私はお前に従う。指示をくれれば、私はお前のために動く。君が私を使うことで、私はその力を享受するというわけだ。」
「そんな……。」
今度はミスカトニックが口を挟んだ。
「阿佐間君、気をつけて。ニャルラトホテプの言葉には裏があるかもしれません。」
ニャルラトホテプは俺の方を見て、軽く肩をすくめると笑った。
「心配しないで、ミスカトニック。私はこの青年の協力者となるつもりだ。ただし、その協力が有益でなければ、私は簡単に手を引くだろう。」
「……。」
俺は数秒間、黙って考え込んだ。自分の中で矛盾した感情が湧き上がっていた。ニャルラトホテプが自分に従うと言っているが、果たしてその通りなのか?
だが、最後には結局こう思った。
「……仕方ない。お前が本当に俺の下僕になりたいなら、その力、使わせてもらうことにする。」
ニャルラトホテプの顔に満足そうな表情が浮かんだ。
「よし、それで決まりだ。」
その瞬間、俺の体に不思議な感覚が走った。まるで何かが体の中で変化したような、ぞくりとした冷たい感触。ニャルラトホテプの力が俺に流れ込んできたのだ。
「さあ、君の命令を待っているよ、主人。」
ニャルラトホテプの声が、何故か心地よく響いた。
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