オークを確認しよう
「え、やだ。透に任せるわ」
俺がオークを確認しに2層に行こうって提案したときの璃砂の反応がこれだ。ケンシンとの会話も教えて、自分の目で確認しておく必要性を知って尚拒否してきやがった。
「……オークと巫女って組み合わせ最悪じゃないですか? 襲われそうなんですけど」
ちなみに朔美の反応がこれ。しかし璃砂とは違って、拒絶というよりは気が進まないって雰囲気だ。オークに興味自体はあるっぽい。ただ本人が言った通り、自分が巫女っていうのが大きな不安要素なんだろう。ある意味で定番だもんな……巫女とオークとか。ただなぁ……。
「安心しろ。魔法少女とオークも嫌な予感しかしないから」
そう。ぶっちゃけ俺と璃砂も危険度は大して変わらないと思うんだ。だからこそ被害が分散するようにふたりを巻き込みたいんだけどな!
璃砂も朔美も俺の思考が正確に読めているのでジト目を向けてくる。当然、そんなので怯む俺じゃない。余裕を持って正面から受けとめた。
「……わかった、行くわ」
やがて諦めたようにため息を吐きながら同意したのは璃砂だった。
「……おふたりが行くならわたしも行きます」
「決まりだな」
そうと決まればさっさと終わらせよう。
「まぁ……オークが興味を持つとしたら女性らしい身体つきの璃砂ちゃんと透ちゃんだと思いますしね……」
それフラグじゃね? 璃砂も同じことを思ったのか、チラッと俺を見てくる。頷き返すと、向こうも頷く。さてどうなることやら……。
なんて会話をしたのが数分前だった。今は2層に配置しているオークたちの中でも最大のグループを前にして居る。数にして5体だ。ゲームなんかに出てくる豚頭の獣人。やや太り気味で身長が2メートル近くあるから、背が縮んでいる魔法少女姿の俺だと身長差や体格差が少し怖い。あんなのに力ずくで襲われたらろくな抵抗もできずに終わりそうだ。
幸いなことにダンジョンマスターと配下のモンスターって関係上、命に関わるような襲われ方はないはずだ。問題はどっかのセクハラゴブリン共みたいなのはあり得ることだよなぁ……。
現にオークたちの視線を一身に集めている朔美が居心地悪そうにしている。
「あ、あの……どうしてわたしばっか見られているんですかね?」
「さぁ? ダンジョンの新規住人だからとか?」
今回は助かりそうだと安堵した様子の璃砂がもっともらしい理由を考えて口に出していた。
「……あの目はそういう好奇心の類じゃないと思います」
「奇遇だな。俺もそう思う」
「武器は槍なのね。壁に綺麗に立てかけてあるし、ゴブリンとはだいぶ印象が違うわ」
「だな。なんとなく規律みたいなのを感じる気がする」
「ゴブリンはそれぞれが思うままに戦う感じだったけど、オークは集団で戦うのかしら」
「どうだろうな……そんな雰囲気はあるけど」
オークたちを見ながら言葉を交わす俺と璃砂。
「…………」
そんな俺たちに何か言いたげな顔を向けてくる朔美。
ブヒ、ブヒッ!
真ん中に立っていたオークが言葉を発する。内容はまったくわからないが、朔美を指差している。さてどうなることやら……なんて思っていると、何故か手招きされた。しかも俺だ。この流れで朔美じゃないのはなんでですかね? 行きたくねえなぁ……。
動かない俺に対して、手招きするオークが増えた。全員でこっちに来いと言っている。渋々目の前まで行くことにした。
……こうやって近づくとほんとデカいな。大人と子供ぐらい身長差がある。
「なんだ?」
今度は残っているふたりを指差すオークたち。朔美は「もう帰りましょ?」と訴えてきているし、璃砂もアレ? と首を傾げている。これ自分もマズいか? って警戒しだした感じだ。
ブヒ! ブヒ!
今更ながら言葉がわからないのが不便過ぎる! 普通、ダンジョンマスターと配下モンスターなら会話可能だろうが! これがまだゴブリンなら愛嬌があるっていうか表情や動きからなんとなく言いたいことが想像ついたけど、オークは表情があまり変わらないし身体のサイズの割に動きも大きくなくて読み取りにくい。
ブヒ! ブヒ! ブヒヒ!
俺の内心を察した訳じゃないだろうが、ゆっくり大きくジェスチャーをしてくれるオーク。なんとかして伝えようって頑張ってくれているのを見ると、俺も解読しなくちゃって気になるな。どれどれ……?
地面に転がって、何かを抱きしめるような動き。両腕でしっかりとホールドして、足を絡めている。
「……抱き枕?」
ブヒ!
あ、頷いた。
ブヒ! ブヒ!
続いて璃砂と朔美を指差すオーク。これに関しては全てのオークが参加した。4体が朔美。1体が璃砂を指差している。
そんで一斉に俺を見るオークたち。なるほど、オークたちは見た目が魔法少女でも中身の俺をちゃんと男だと理解して票を入れろってことか。
迷うことなく璃砂に右手の人差し指を向ける。
ブヒ……。
唯一璃砂に票を入れていたオークが悲しそうに肩を落としながら朔美に指を向け直す。
「悪いな。流石に譲れない」
ブヒブヒ。
わかってますぜ……なんて頷いたのは気のせいだろうか。
ブヒ! ブヒ!
5体のオークたちが朔美に「さぁいらっしゃい」とばかりに手招きをする。当然のことながら彼女も俺とオークたちのやり取りをずっと見ていた訳で――
「行く訳ないじゃないですか!! 抱き枕って言ってますけど、絶対に変なことされます!」
「はい質問! 朔美に票が集まった理由は?」
朔美の魂の叫びに璃砂が疑問を被せてきた。それは俺も知りたいかもしれない。
オークたちは顔を見合わせると、まず俺を見る。そんで何かを揉む仕草をしてグッと親指を立てた。他にも誰かを抱っこするような動きをしたり、抱き枕をぎゅーとするような感じのオークも居る。
抱き心地は1番って言われてそうで嫌だ! 嫌過ぎる!
なんて肌を粟立てていると、オークたちが真面目な表情で自分たちを指差した。ん? どういう意味だ? と首を傾げたのは一瞬。答えはすぐにわかった。
「…………抱き心地は1番良さそうだけど、中身が男だから除外と」
俺の言葉に頷くオークたち。
「じゃあ私は?」
オークたちの指が俺と璃砂を行き来する。
「……俺が選んだから譲ってくれたと」
ブヒ! 当然です!
なんか普通に意思疎通できてきてるな……。慣れてくると言葉がわからなくても問題ないかもしれない。向こうは俺たちの言葉をちゃんと理解しているし。
「ふーん? じゃあ朔美は?」
璃砂は機嫌良さそうだな。俺が璃砂を選んだのと、オークたちがあっさり譲ったからか?
「璃砂ちゃん! 別に聞かなくていいですから!」
オークの答えはというと……1体が手のひらを横にして地面に向けた。そんで朔美の身長に合わせる。
「なるほど。サイズが良いのか。俺じゃ小さいし、璃砂でも物足りないと」
頷くオークたち。ただその内1体が何かを揉むような仕草を見せて、朔美を見てため息をついた。残るオークたちも同意するように控えめに頷く。
「………………くす」
感情の籠もらない笑みを零した朔美の手にはいつの間にか薙刀が握られていた。つい最近ゴブリンのとこで見た流れだった。
「「……」」
俺と璃砂? 巻き込まれないように無言で距離を取るに決まってる。
「抱き心地が悪そうで、すみませんね! 陸上やってて筋肉質ですし? おっぱいも小さいですからね! 言われなくてもわかってます! 特にそこのオーク! 人のおっぱい見てため息吐いたあなたです! 覚悟してください! チャーシューにしてあげます!」
なんて薙刀を上段に構えて件のオークに斬りかかる朔美。もうオチも読めている。ただ魔法を撃ちまくる璃砂と違って、長期戦になりそうだよなぁ……。
「ゴブリンが悪ガキ集団で、オークは男子高校生って感じのノリだったわね」
「納得」
璃砂の例えがしっくりきた。
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いつもありがとうございます。現在、更新する時間帯の変更を検討しております。決まりましたら近況ノート等でお知らせさせて頂きます。よろしくお願いいたします。
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