ケンシンと相談タイム(2)

「方針?」


「はい。まずは4層のモンスターを生成しようと考えておりました」


 なんでそんな中途半端な場所に? 普通に考えるなら順番で3層か、籠城に備えて5層では? と思うのは俺が単純すぎるのだろうか?


「理由があるんだよな?」


「もちろんです。まず現在の魔力では5層で野戦や籠城するのに必要な数のモンスターを生成できません」


 ……あ。納得。山城とか割とあちこちに櫓や狭間を作ってるもんな……。野戦だってそうだ。囲まれてボコられるだけで終わってしまいそうだ。


「……俺が戦場を広くし過ぎたか?」


「いえ、将来的にはかならず必要ですので問題ないかと」


「ならよかった」


 またやらかしてたかと思った。一安心……でいいんだよな?


「そういう訳で、現状では4層の砦で籠城を考えております。繋がる道が細いので、実際に戦う数は少なく済むはず。倒しても倒しても敵が押し寄せてくるとも言いますが。また船を使われたり、魔法等で湖を越えられると一気に不利になります」


 嫌な想定だな……そうならないことを願ってる。


「なるほど。それで先に4層のモンスターってことか」 


「砦内部は最悪歩兵のゴブリンとオークでも大丈夫かと。弓兵と魔法兵として扱えるモンスターも欲しいですが、魔力の関係で見送ります。今回は空戦が可能なモンスターを生成したく。魔法が使えると尚良し――だと考えておりました」


 ん? やけに強調するな。


「『考えておりました』ってことは今は違うのか?」


「先程気付いたのですが……透様は『ダンジョンアプリ』で設置できるモノにモンスター生成陣があるのをご存知で?」


「一応知ってるぞ。名前だけでどういうモノなのかはわかってないけど」


 ケンシン相手に知ったかぶりするほど馬鹿じゃない。素直に聞くさ。


「本来は、特定のモンスターを一定時間ごとに数体ずつ生成する魔法陣です」


「……まるでこのダンジョンの生成陣が本来のモノとは違うみたいな言い方してませんか?」


 つい敬語になってしまう。イレギュラーが色々と起きていることがわかってるんだ。もう勘弁して欲しい。


「こちらを御覧ください」


 ケンシンが司令室の端末を操作して『ダンジョンアプリ』で設置できるモノ一覧を表示させた。が、俺にはどこがおかしいのかがわからない。


「えっと……」


「生成陣の名前を読み上げて頂けますか?」


 目についたモノを読み上げる。



「普通はなのです。普通は1種類のモンスターをひたすら生成し続けます。それに設置や維持に必要な魔力も普通はコレの半分以下です。普通は」


 俺のことをジト目で見ながら『普通は』を繰り返さないでください! 見た目が美人女子大生だから、ものすっごく悪いことをした気分になってくるんだよ!


「……名前から察するに、通常のゴブリンだけじゃなくて上位種とかも出てくるってことか?」


「恐らくは。その場合は普通よりも高い魔力消費が一転してお得になります。迷わず設置すべきかと。ただ、洞窟内での戦闘が苦手なゴブリンが出てくる可能性も……」


「逆に言えば、ゴブリンアーチャーみたいな籠城で役立つモンスターが出てくる可能性もあるんだよな?」


 段々とケンシンの言いたいことがわかって来たぞ……。そりゃ迷う。安定を求めるなら、配置場所を考えて適切なモンスターを自分たちで選んで生成していく。


 それか、賭けにはなるが現状では魔力量的に召喚できないモンスターが生成される可能性もある陣を設置するか。


「正直に申し上げると、ダンジョンマスターに都合の良い結果になるかと」


「……」


 あのセクハラゴブリン共が脳裏を過ったのは何故だろう……確かに侵入者に対しては頼りになるんだろうけどさ……俺とか璃砂、朔美が被害を受けそうな予感がしてならないんだよな……。


「戦力的には、ですが」


「ケンシン……」


 それ付け加える必要あったのかな? 別に要らないよね? 予感が強くなるだけなんだが!?


「そういえば透様たちはまだ2層のオークを直接見てないのでしたな」


 はい! オークもおかしいこと確定! 絶対にひとりでは確認に行かないと胸に刻んでおく。魔法少女と巫女なら、どっちがオークとの組み合わせが悪いだろうか? なんて我ながら最低なことまで考えてしまう。


「……確認しないとダメか?」


「一緒に戦う場面は必ず訪れますからな。いざそのときになってオークの体格や間合いに戸惑ったりしない自信があるなら構いません」


「……あとで璃砂や朔美と確認します」


「それがよろしいかと」


 頷くケンシンの眼差しが真剣そのものだった。


「……このあとすぐに行ってきます」


「で、相談というのはゴブリン系生成陣の設置数と場所です。現在の魔力ですと最大4つまで設置可能です。その場合は4層に生成を考えているハーピィは数体になってしまいます」


 軍勢相手を考えているのに数体じゃな……。


「砦の内部にひとつは確定でいいよな?」


 囲まれていても砦内で戦力が生まれるように。理想は砦の防衛に役立つゴブリンが――


「あのさケンシン。生成陣ってゴブリン系しか無理なのか?」


「いえオークも設置可能です。単にそれがしの好みになってしまうのですが、機動力が欲しいのです。オークは前衛としては優秀なのですが……ゴブリンは透様の出した籠城に向いているアーチャーに加えて、ライダーなどが生成される可能性もありますので」


「なるほど」


「付け加えるとハーピィも生成陣をひとつだけなら作れますが……そうすると籠る際に兵士となるモンスターが不足するので選択肢に入れておりません」


 んー……。


「……なら3つでどうだ? 砦内に2と、1層に1で。残りの魔力は溜めておく。そんで次はハーピィかオークの生成陣を作ろう」


 ケンシンが欲しがっている機動力持ちが生まれることを願いつつ、砦に戦力を集めつつ籠城に備える。余れば上層に送ればいいだけだしな。1層は単純に現状で数が不足しているし、減らされる可能性も高いからだ。


「…………」


 ケンシンが目を瞑った。思考を巡らせて居るんだろうけど、待つ側としてはドキドキしてしまう。軍神的に俺の考えはアリなのか。それともナシか。


「……ですな。今日も侵入者を処分しておりますし、数日で次の生成陣も設置できましょう。流石にその日数で攻略軍が来るとは思えませんし……それでよいかと」


 オッケーらしい。これで決定と。

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