ケンシンと相談タイム(1)
山城の大広間。司令室でホログラムを眺めながら黄色い点を配置しては弄っているケンシン。モンスター配置を考えている軍神の邪魔をするのは中々に勇気がいることだったが、これから先にもいくらでもあることだ。早く慣れるためにもあえてケンシンに声を掛けることを選んだ。実際、相談したいこともあったしな。
「ケンシンちょっといいか?」
「なんでしょう」
腕を組んだままの姿勢で振り返られると、怒っているのかと心配になってしまう。もちろんそんなことがないのはわかってるけどさ。
「魔力が2割ちょっとまで回復しただろ?」
今朝、タブレットで魔力ゲージを確認した結果が2割ちょいだ。侵入者が来る前は1割を下回っていたことを考えると、少しは使っても大丈夫だと判断した。璃砂も朔美も同意してくれている。
ただダンジョンに足りないモノがいくつもある上に、モンスターも増やしたい現状ではどれから手をつけようか迷ってしまった。
「そのようですね。どう使うかの相談をしたいということで?」
流石だ。俺が言いたいことがわかるらしい。まぁ前にチラっと相談するって言ったことがあったしな。
「本音を言えばケンシンに任せたいんだけどさ。ダンジョンマスターとしてそれはどうかと思って」
「ふっ……『全て任せる』と言われたら苦言を呈するところです」
ケンシンの生真面目な表情に柔らかい笑みが混ざる。正直ホッとした。上杉謙信なんて存在が身内に居るならダンジョンのことを全部任せたくなるもんな。俺も何度思ったことだか。
「モンスターも増やすけど、その前に1層の浅い場所に鉱脈を設置しようと考えているんだけどどう思う? 当然だけど脇道にな」
「ふむ。浅い場所の鉱脈はレベルの低い冒険者を呼び寄せる餌ですな。運悪くゴブリンに出会わなければ比較的安全に採掘可能と」
「現状だと、腕自慢ばっか来そうだからな」
「確かに」
ケンシンが頷いてくれるとホッとする。いや、腕自慢ばっか来るのは勘弁願いたいんだけどさ。
「それで質問なんだけど、ダンジョンの鉱脈ってどういう仕組なんだ? 1度設置すれば無限に掘れるのか。それとも魔力を使って補充する必要があるのか」
『ダンジョンアプリ』で調べてみたけど、産出するモノの種類と設置するのに必要な魔力くらいしか載ってなかったんだよな……今後のアップデートに期待したい。
「後者が近いですな。鉱脈ごとに掘れる量を設定可能で、日付変更と同時に最大量まで補充されます。その際に僅かながら魔力が維持費代わりにかかります」
「なるほど……じゃあやっぱ最初は2箇所くらいにしておくべきか……」
鉱脈でどのくらい侵入者が増えるかわからないし、最初から多く設置するのは怖い。
「維持費と言っても、鉱脈の回復量を考えればダンジョン側が非常に有利かと。何故あの量の魔力で補充されるのか不思議なくらいです」
冒険者が持ち帰って、武具に加工されて戦争が起きるようにだろうなぁ……。ケンシンも当然わかって言ってるんだろうけど。
「もっとも金など希少価値があるモノになりますと、相応に消費量も増えますが」
そりゃそうだ。じゃなきゃ逆に怖い。変な話、金の鉱脈を大量に作って資金稼ぎなんてできちゃうもんな……あ。
「俺たちってダンジョンに住んでるだろ? お金って稼いだほうがいいのか?」
「外に出て食料やポーションなどのアイテムを買う場合は必要ですな。あとは冒険者やギルド職員、騎士等を買収することも可能かと」
「なるほど」
今はともかく、余裕ができたら外に出てみたい気持ちはあるな……やっぱ異世界だし。
「食料やアイテムは魔力でも生成できますが『塵も積もれば山となる』なんて言葉もございます。現状は仕方ありませんが追々考えるべきかと。もちろん緊急時や必要なときには躊躇わず使うべきです」
「……常にある程度は魔力を維持しとかないとマズいってことか」
「御意」
んー……ダンジョンの魔力量が数値じゃなくてゲージなのが地味に嫌だな……そのくせ『ダンジョンアプリ』で設置する設備なんかの消費魔力量や、ダンジョンモンスターの生成に必要な魔力は数字で表示されているという……。
ゲージと消費量の感覚を掴むために色々と試したいけど、それには魔力量が心許ない。やっぱ鉱脈とか作って、侵入者を増やす方向でいくか。
ただそれはそれで不安要素があるんだよな……。
「ケンシン……ぶっちゃけ朔美が言ってたクラスメイト……来ると思うか?」
「情報が少なく判断が難しいですが……恐らく来るのではないかと。このダンジョンは都合が良すぎますので。レベルが10前後の冒険者集団が全滅しているダンジョンの攻略は駆け出し指揮官の実績に丁度良いかと思われます」
「レベル10前後の冒険者……?」
どれだ? 強さの基準がわからない……ただ言い方とタイミングを考えるに――
「朔美殿と居た冒険者です」
――あれがレベル10くらい……ってことは、他はもっとレベルが低かったのか。
「ちなみにこの世界の一般的な兵士のレベルは?」
「10くらいですな。騎士は20前後ですが技量が高いので、ある程度は格上とも戦えるかと」
「ケンシンは?」
「レベルは50です」
「予想はしてたけどレベル高いな」
そりゃ余裕で複数人を相手してられる訳だわ。納得。にしても、ケンシンは自分や相手のレベルを把握しているんだな……ダンジョンマスターでも現状無理なのに。羨ましい。
「この世界のレベルはあくまで目安です。本人の努力でレベル関係なくステータスが伸ばせるので油断はできないかと。更にそのステータスも技量で上回れます」
「技量か……ケンシン――とは流石に早いな。ゴブリンとかと模擬戦してみたほうがいいか?」
「賛成です。ステータスも上がりますので損はありません」
セクハラが待ってるだろうことが難点だけどな……とはケンシンには言わないでおく。ついでにやるときは璃砂と朔美もちゃんと巻き込むことを忘れないようにと。
「わかった。今度やってみる。相談に乗ってくれてありがとな」
「ついでなのでそれがしからもご相談が。朔美殿の話に出ていた例の人物が兵を率いて攻めてくる可能性を考えてモンスターを増やしたいのですが……どういう方針にしましょう?」
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