変身後の衣装は、脱ぐ→可能 重ね着→罰があるらしい
5層にある草原。小川のせせらぎを感じられるここには俺、璃砂、朔美の姿があった。
「あのぉ……わざわざ確認する必要はないと思いますよ?」
「そういう訳にいかないでしょ? このダンジョンで生活していくからには、必ず戦闘になるのよ? 現に、ダンジョンが生まれた初日に朔美たちが侵入してきたじゃないのよ」
「それはそうなんですけど……」
明らかに気が進まないといった様子の朔美と、それはもう楽しそうな璃砂。対象的だが、俺はもちろん璃砂側だ。それを理解しているから朔美も俺に助けを求めてこない。
どうしてこうなったかというと、朔美が寝てる間に生成されていた彼女用のタブレットとデバイスを確認したときに気づいてしまったのだ……変身ボタンがあることに。
「私と透は最初から魔法少女だってわかってたけど、最初に確認したのよ? ……朔美はどうなの? 私たちと違って何に変身するかもわからないんだから、先に確認しておかないと」
璃砂の本音はイジりたいだけだろ……。内心では俺や璃砂みたいにツッコミどころのある格好であってくれと願っているのが丸わかりだ。
「今じゃなくてもよくないですか? あと疑問なんですけど、どうしておふたりは朝から魔法少女の姿になっているんですか?」
それを察している朔美もなるべくなら変身をしたくないはず。そして話題を自分から逸らすように俺たちに疑問をぶつけてくる。ただ今回に関しては悪手なんだよなぁ……。
「魔力の最大量を伸ばすためよ? 変身していると常に維持費として魔力を持っていかれるの。それが今の自然回復量から考えると、成長するのに効率がいいんだって邪神が言ってたわ。そうだ、朔美も変身した姿で居れば魔力が伸びるんじゃない?」
「……透くん?」
これから変身するどころか極力その姿で居る必要性まで知ってしまい、絶望したように俺に顔を向けてくる朔美。
「璃砂の言った通りだ。じゃなきゃ戦闘以外でこんな格好してない」
俺としても頷くしかない。決して仲間を増やそうとか思ってないぞ? 璃砂と目が合って「こんな感じか?」「いいと思うわ」なんて視線でやり取りもしていない。
「…………」
肩を落として黙り込む朔美。ここまで来ると逆に不思議だよな。
「朔美……自分でブルマ姿とか平気で見せてるのに変身するの嫌なの?」
璃砂も同様だったのかハッキリと聞いていた。
「自分の意思で着る分にはいいんです。わかっていてやってるんですから。でも今回の変身に関しては、どんな格好になるのかわからないじゃないですか。それでいて透ちゃんと璃砂ちゃんの格好を見ているんですよ? これで積極的に行けるのは変人だと思います」
暗にお前らの格好は嫌だって言ってるのに等しいんだが?
「璃砂的にはブルマと今の格好ってどっちが嫌なんだ?」
「ブルマ」
即答だった。
「ちなみに理由は?」
「……胸のラインとお尻のラインだったら、胸のライン晒したほうが何十倍もマシ。朔美は?」
納得。
「うぅ……私はお尻のラインを見られる方がマシです……けど、嫌な予感がするんです」
なんて言いつつも諦めたのか腕のデバイスにある変身ボタンに指を伸ばす朔美。触れる寸前に動きが止まったものの、えいっ! とボタンを押した。次の瞬間、眩い光に包まれる朔美、光の色は白だった。真っ白。
「「……」」
やがて現れた朔美の姿は……普通ではないけど、普通だった。
「ど、どうですか?」
恐る恐る自身を見下ろして自らの格好を確認していく朔美。まず髪は変化ない。癖で髪先が跳ねている茶髪。視線を下ろしていくと白衣と赤袴を模したと思われる……コスプレ巫女服って感じだった。武器もセットなのか薙刀を持っている。
ノースリーブだったり、ミニスカだったりと巫女服と言い張るには露出が高い気がする。だからコスプレ巫女服。付け加えるならアイドル風と言ってもいいかもしれない。スカートの裾から黒いスパッツがチラ見えしているのが、コスプレ巫女衣装よりもアイドル衣装感を強めている。
「なんかズルい!」
「だよなぁ」
璃砂の文句に速攻で賛同する俺。
「よかった……腋が見えちゃうのは微妙ですけど、これなら魔法少女と違って恥ずかしくないです。巫女姿ってことはスキルが影響しているんですかね?」
「恥ずかしい魔法少女で悪かったわね! 私は制服風だし、これでもそっちのスク水ロリ巨乳よりはマシだと思ってるわ!」
「うるせえよ!」
好きで着てるんじゃねえっての!
「え……そのインナーってやっぱりスク水なんですか?」
そりゃわかるか……女子ならタイプの差はあっても着る機会あるもんな……スク水。
「そうよ」
なんで璃砂が頷くんですかね? 俺が認めるのも嫌だけどさ!
「あの璃砂ちゃん、ひとつ気になったんですけど……」
「どうしたの?」
「透ちゃんはスカートの下がスク水。わたしはスパッツじゃないですか。璃砂ちゃんはどうなってるんですか? スカート結構短いですよね?」
短さで言ったら、朔美のが短いように見えるけどな。その分のスパッツなのかもしれない。
「璃砂のスカートの下は生パンだぞ」
お返しに俺が答えてやった。チュートリアルのときにバッチリ見ちゃってるのよな……。
「……どんまいです」
朔美と出会ってからの言動を知っていると、彼女に同情されるのはかなりクるモノがありそうだ。
「納得いかない!!」
璃砂の魂の叫びが草原に響き渡るのだった。メンドイからスルーしよ。
「朔美」
「はい」
「その薙刀は?」
「……さぁ? 自前のじゃないんですよね」
「気のせいじゃなければ、妙な神々しさを感じるんだが?」
「奇遇ですね。わたしもです。ちなみにですけど……夜中に変な夢を視ました」
「夢?」
「はい……『この武器を朔美に授ける。透と璃砂の助けになってあげて』なんて言われました。何もない空間で、姿もわからない相手でしたけど……女の子の声でした。雰囲気は、日本担当の邪神に似ていた気がします」
朔美も邪神呼びなんだ……彼女視点だと、選択肢もくれた良い神様では? と思うも……俺と璃砂の記憶が原因かもな。あのときの会話から、俺たちの記憶を消した張本人だと判断ついてるはずだし。
ってどうでもいいか。にしても邪神に似ている、ね……。
「朔美って巫女だし、神託とかだったりな」
「あー……そういえば、こっちの世界に来てから神託は何度かありましたね。でもそのときは神様の姿がちゃんと視えたんですけど……謎ですね」
首を傾げる朔美。
「朔美! 今日だけでいいからスパッツ脱ぎましょうか!」
「は?」
「え?」
見つめ合う朔美と璃砂。俺も思わず朔美を見てしまった。なんかすごい声が聞こえたような……? 璃砂が本気で切れたときに出す低い声にそっくりだった。
「いきなりスパッツを脱げとか言われても嫌に決まってるじゃないですか。こんなに短いスカートじゃ、少しでも油断したら下着が見えちゃいます」
「透には見られたことあるんでしょ?」
何事もなかったかのように会話を続ける朔美と璃砂。女同士だからこそ触れないのかもな……。
「自分で意図して見せるのと、不意に見られるのじゃ全然違います! 璃砂ちゃんだってわかりますよね?」
「もちろんわかるわよ? でもひとりだけ生パン披露の危険があるって理不尽だと思わない?」
「わたしが脱ぐんじゃなくて、璃砂ちゃんが重ね履きすればいいじゃないですか」
「ごもっともなんだけどさ……もう試したのよ。無理だった」
「え? 脱げるのに上に着れないのかよ?」
黙っているつもりだったけど、つい口を挟んでしまった。
「ええ……この変身姿以外のモノを着るとね? 全身を見えない何かにくすぐられるわ。足裏と脇腹と腋を入念にね。それが脱ぐまで続くのよ? 絶対にやめたほうがいいわ」
そんな目に遭っておきながら、俺や朔美を巻き込まずに警告してくるとか……洒落にならないくらい辛かったんだろうな……しっかり覚えておこう。
「わたし……くすぐり苦手なんですよね……絶対に気をつけます」
あーもしかしてさっき腋を気にしていたのって、そういうことか? 見られるのが嫌じゃなくて、直接触られる可能性があるのが嫌だと。
「はぁ……私だけパンチラどころかパンモロのリスクあるのなんとかしたいわ……」
戦闘中に意識してしまって動きが鈍るとか自殺行為だもんな……璃砂、頑張れ。幸い後衛だし、なんとかなるだろ。ん? 前に飛んでただろ! ってツッコミは入れちゃダメだってことくらい俺にだってわかるさ。
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