朔美の同居が決まる
あのあとこっちの世界に来た経緯や、ダンジョンに関する情報交換をした。新情報としては、このダンジョンは誕生前から魔力溜まりとして目を付けられていたらしい。そりゃ初日からギルド職員っぽいのが入ってくる訳だなと。調査のために明日以降も冒険者が次々に入ってくるのでは? 募集も出てましたし。と、朔美談。
「なんとなくログハウスに戻って来ちゃったけど……朔美はどうする? これから一緒に暮らしてもいいけど……」
璃砂は気が進まないのか歯切れが悪い。まぁ、気持ちはわからなくもない。俺と璃砂の生活空間として作ってるもんな。リッカはモンスターでメイドだから別枠としても、他にも女が増えるのは内心では嫌なのかもしれない。
「くすっ、そんな心配しなくても透くんを取ったりしませんよ。わたしはお城にお部屋をもらえれば嬉しいです」
「いや、私が心配してるのはそこじゃなくてね? 透が私から離れないでいてくれるって自信はあるし。だから朔美が一緒に暮らすのは別に構わないのよ」
ほお? その信頼は裏切らないようにしないとな。
「……その自信があるにも関わらず今まで付き合っていなかったのが不思議なんですけど……逆にその自信があるせいで先送りになっていたんですかね?」
なんて首を傾げる朔美。俺と璃砂は一瞬だけ視線を合わせて、どちらともなく逸らした。特に意味はない。けど今となっては朔美の言ってることが正解かもしれないな……いつも一緒だし、どうせこれからも一緒だからって思ってたのは否定できない。付き合い始めた今だからこそわかる。
「まぁ私の前で平気な顔して他の女の脚とかお尻を目で追いかけるのは殴りたくなるときもあるけど、諦めてるわ」
璃砂のヤツ、朔美の言葉をなかったことにして続けやがった。
「璃砂ちゃん……月1くらいでその愚痴をわたしにぶつけてますよね……」
ふたりのジト目が俺に向けられた。あのすぐに2対1になるの勘弁してくれませんかね? 結構気まずいんだけど。ちなみに俺が脚と尻フェチに目覚めたのは璃砂が原因だと思うんだが?
「……」
そんなことを正直に言えばからかわれること確実だから黙ってるけどな!
「一緒に暮らすのに心配なのは朔美のことよ」
「わたしですか?」
「今はこんなふざけた姿だけど、コイツ普通に男でしょ? 同じ家で生活してたら事故の可能性だってあるし、気が休まらないんじゃないかって」
「あーそういうことですか」
納得したように頷く朔美。
「わたしは大丈夫ですよ? 既に何回か事故も経験してますし……」
「透」
「知らない!」
怖っ! そんな睨まれても文字通り記憶にねえよ!
「おふたりは元々知っているはずのことなので隠さずに言っちゃいますけど、わたしって高1の冬に両親を事故で亡くして母の姉に引き取られているんです。そこと上手くいかなくて、部活もバイトもない日は璃砂ちゃんの家に入り浸っていてですね?」
そこで一旦言葉を切る朔美。表情が歪んでいるのを見るに、よっぽど親族と合わなかったんだろうな。こっちの世界に残ることを即決したのもそれが大きな理由っぽいし。
「着替え中に透くんがノックもせずに入ってきて、ばっちり下着姿を見られてます」
「透!」
「ごめん! マジでごめん!」
記憶に残ってなくても謝るしかない。土下座する勢いだ。璃砂ならともかく、他の女子相手にそれはアウトだ。
「いえ、透くんは悪くないです。原因は璃砂ちゃんですから」
「「え?」」
「璃砂ちゃんが透くんの来るタイミングに合わせて着替え始めて、下着姿をわざと見せようとしたんです」
「あのぉ……璃砂さん? あの事故ってわざとだったのかよ!?」
「違う違う! そんな痴女みたいなことする訳ないでしょうが!」
その慌てっぷりが答えだよ! バレバレだっつうの!
「上着なんかをちょっと着替えるくらいなら違和感ないですけど、ひとりだけ下着姿になるレベルで着替えてるって不自然じゃないですか。それでわたしも脱ぎました」
うん? 朔美さん? なんだって?
「……私の聞き間違いかしら? 『脱ぎました?』」
よかった。俺の耳がおかしくなったわけじゃなさそうだ。
「事故が何回かあったって言いましたよね? 最初の1回は完全に事故です。学校からの帰りが遅くなったときに璃砂ちゃんと一緒に夕立に遭ってしまって……雨宿りさせてもらったんです。風邪を引くのも嫌なので、取りあえず璃砂ちゃんの部屋で制服を脱いで身体を拭こうとしたタイミングで透くんが来ました。あのときは流石に動揺しましたよ。男の子に下着姿を見られるなんて初めてでしたから」
うわぁ……有り得そうな流れだ。
「……それで?」
璃砂が続きを促す。
「1度経験してしまえば、2度も3度も変わらないってことです。そういう意味では透くんは初めての相手ですね」
言い方よ……そんなだから『ド変態巫女』なんて登録名になるんじゃ? 最初は同情したけど、その気持ちはどんどん薄れてきている。
「だから馬鹿なことしている私に合わせたってこと?」
自分の行動を馬鹿呼ばわりしてるし……。
「はい。透くんはわたしと璃砂ちゃんが下着姿で並んでいても……最初は見比べますけど、どうせすぐ璃砂ちゃんに注目しますから。見比べるのも脚と腰回りなのでわたし的には別にそこまでダメージがないんです……それなら璃砂ちゃんに付き合うのも一興かなと思いまして」
暗に胸は見比べるなよって言ってるよな? 朔美にとっての胸は璃砂のお尻以上に地雷臭い……。わざわざ自分から触れたり匂わせているのは、記憶の欠落している俺と璃砂に越えないで欲しいラインを示している感じがする。
「だから透くんに事故で着替えを覗かれるくらいなら今更と言いますか……気が休まる休まらないに関しては、某親族の家以外ならどこでもゆっくりできます。ですのでお城に部屋をもらえれば十分ありがたいです」
「いや、気にならないなら一緒に暮らせばいいじゃないのよ」
璃砂が頭を抱えているのは事故の真実を暴露されたからなのか、それとも朔美の行動に頭痛がしたからなのか。果たしてどっちやら。
「……えっと、本当にいいんですか?」
こうして朔美がログハウスに同居することも決まるのだった。
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