戦闘を終えて
「はぁーーーっ」
終わったぁ! 安堵の息を吐くとともに、思わず座り込んでしまった。足を伸ばして、そのまま後ろに倒れ込む。視界がもう見慣れた光景になりつつあるダンジョン1層のゴツゴツした岩の天井でいっぱいになった。
「ふぎゅぅ……」
そんな俺の脚に倒れ込んでくるリッカ。また魔力切れを起こしているのか、耳がペタンと萎れているし尻尾も地面に伸びていた。
「リッカ大丈夫か?」
「な、なんとかぁ大丈夫れすぅ……」
「……」
リッカに倣うかのように璃砂まで倒れ込んでくる。こっちはお腹に無言でだ。
「……おい璃砂さん? お前は魔力切れを起こしてないよな?」
「…………リッカと対応違くない?」
どうやら璃砂は不服のようだけどさ……当たり前だと思うんよ。
俺の脚を枕にして仰向けのリッカは普通に疲れたんだろうし……どっかの軍神が1人1殺とか言い出して1番苦労していたのがリッカだし、大変だったんだろうな。大盾をチェンソーで削るような戦いだったし、消耗も激しいんだろう……文字通り再び魔力切れになるまで戦ったんだ。ゆっくり休めよ? って感じだ。
その一方で璃砂は、俺のお腹にうつ伏せだからな? 匂いフェチが発動しただけじゃね? って気がしてならないんだよなぁ……いや、属性的に相性が不利だろう弓矢使いと撃ち合いしてたから消耗しているのも事実だろう。でも前科が多すぎるんだよ……。
「……おいこら」
不満を言葉じゃなくて行動で示してきやがった。揉むな。ついでに嗅ぐな。こっちはインナーが張り付くレベルで汗かいてんだからさ……。
「…………嫌なら抵抗すればいいじゃない」
「…………勝手にしろ」
「……透ちゃん、汗は透と変わらない匂いなのね」
……すごく怖いこと言うじゃん。鳥肌立ったんだけど。
そんな俺たちを静かに見下ろしてくる石上さん。いつの間にか自分の荷物を回収していたのか、右手にリュックを持っていた。ちなみに武器の薙刀は足元に転がっている。敢えて手に持たず敵意がないと示しているのがわかるが、今更必要ないだろうに。
残りのケンシンは? と頭だけで周囲を見渡してみると、侵入者たちが持っていた荷物を漁っていた。小さな瓶に入っている液体を確認して頷いているのを見るに、なにか有用なアイテムを回収できたのか? 取りあえずケンシンの作業が終わるまではこのままかな……。
正直、俺も少し休みたい。連戦だったもんなぁ……。同様に連戦しているはずのケンシンは疲れを一切見せずに余裕そうなんだよな。同じダンジョンモンスターのリッカと比べると、だいぶ差を感じる。
「璃砂ちゃんと……透くん。助けてくれてありがとうございました」
丁寧に頭を下げた石上さん。どことなく育ちの良さを感じる所作だった。ただ俺と璃砂の体勢がアレなので、傍から見るとギャグみたいに映りそうだよな……なんて余計なことを考えてしまう。
「いや、見過ごせなかったし」
「あんな状況で放っておけなかったわ」
流石に顔を上げた璃砂。代わりに手を胸に置く意味を教えて欲しい。
「それでも、です。わたし……あのままだと酷い目に遭っていた可能性が高いですから……本当に感謝してます」
「無事でよかったわ」
「はい。ところで透くん。それに璃砂ちゃん。聞きたいことがたくさんあります」
一転して、膝に手をついて俺の顔を覗き込んでくる石上さん。色々な感情が渦巻いているのがわかるが、表情は柔らかい笑みを浮かべたままなのが純粋にすごいと思う。俺には絶対に無理だ。
「……」
思わず視線を逸らしてしまった。逸らした先が彼女の太ももだったのは完全に無意識だ。……スラッとしているのに、割と鍛えられている感じがするな。運動部所属なのか? 璃砂と比べると、健康的に日焼けもしているし。
「……」
無言で俺の胸を揉んでくる璃砂。はい、すみません……つい脚を見ちゃうのは自分でもどうしようもない癖なんです。
「あの……璃砂ちゃん? わたしは別に気にしてないですよ? 透くんには太ももとかお尻は見られ慣れてますし……クラスの男子たちみたいに、ちっぱいとかイジってこないので全然大丈夫です」
あ、やっぱ胸のサイズは地雷でしたか。しっかり覚えておこう。まぁいくらなんでも璃砂以外にセクハラ発言する勇気なんてないけどな。
そして、璃砂の行動の理由と意味を誤解なく察しているのは本当に友達だったんだなぁと。実感が強くなってくる。璃砂ってあの性格だから、付き合いの薄い人からは誤解されること多いもんな。
「よかったわね透ちゃん? 許可が出たわよ」
この場合なんて返すのが正解なんだよ! 返答をミスったら現在進行系で揉まれている胸を、ぎゅむ! とか握られそうで怖えよ! あの痛みはマジで無理!
「お待たせしました。アイテムの回収が終わりましたので城に戻りましょう。そのほうがゆっくりとお話できるかと」
ナイスタイミングだケンシン! 言いたいことだけ言ってさっさとひとりで転移していくのはどうかと思うけどな!
「――確かにケンシンの言う通りか。侵入者も居なくなったことだし、さっさと帰ろう」
「……逃げたわね。それで誤魔化せると思ってる?」
「誤魔化す? なんのことやら」
「「……」」
睨み合う俺と璃砂。
「移動するんですね」
そんな俺たちをスルーして自分の荷物や装備のチェックを始める石上さん。俺たちが睨み合っているのなんて、わざわざ触れることでもないと言わんばかりの反応だった。
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