幕間 その頃の邪神
山城の大広間。透が司令室をイメージしただけあって、ここの設備はダンジョン内の状況を知るのに適していた。
「第2ラウンド開始って感じかしら」
映像の中では、透、越後の龍、猫又メイドの3人が武器を持って駆け出していて璃砂が朔美を守りつつ炎弾で援護している。一時はどうなるかと心配だったけど、もう大丈夫そうね。
「……璃砂は迫撃砲でもイメージしているのかしらね? いや正確には榴弾砲?」
あんなことしてたらせっかく補充してもらった魔力が尽きちゃうでしょうに……。まぁいいわ。今回のことで色々とわかっただろうし、越後の龍が鍛えてくれるはず。
それにしても謙信め……その気になればレベル差からくるステータスの暴力だけで瞬殺可能だろうに。40もレベルが下の相手に遊びやがって……仮にレベルが負けていても、あれくらい瞬殺できる技術も持ってるくせに。透と璃砂、リッカの力を見極めたいのは理解するけどさ。
なんて心の内で愚痴りつつ……つい朔美を見てしまう。引きがいいんだか悪いんだか。初っ端からクラスメイトを引いちゃうとはねぇ……しかも妙なスキルを持っているし。『巫女』ってなによ。この世界には『聖女』は居ても『巫女』は存在しない概念でしょ……つまりあのクソ野郎が作ったスキルじゃない。いつの間にか紛れ込んでいたモノ。果たしてクソ野郎が存在を認識しているのかどうか……。
その効果も半端ない。メインは回復魔法。これはいい。対象が個人はもちろん範囲、状態異常、蘇生まで。更に他人と波長を合わせての魔力譲渡。まぁ……許容範囲内だろう。おまけがおかしい。神との交信が可能、ね。これがどう転ぶかが読めない。神託……ではなくて交信。そこが不安なのねぇ……。
「……おかしなことばかりね、透と璃砂の周囲は」
例えば、バラバラの地点にいた同学年がみんな召喚されたのにふたりだけ魔法を弾いていたりする。それなりに古く強い神であるはずの妾でも対抗不可能な魔法を、だ。
他にも透は妾の記憶操作を自力で解きつつあったりするし。璃砂なんて、妾の読心を弾くことすらある。通じることもあるから、完璧にではない……が、その条件がいまだにわからない。そのせいで記憶操作が効いているんだか怪しいところがある。様子を見る限り、効いてはいそう? でも、それはそれでいつでも解除できる疑惑が出てくる。
まぁ、このくらいなら時たま存在する英雄とか呼ばれる人間たちも可能だろうからまだいい。
問題はそれらの現象を起こしていると思われる――
「……妾も知らない神の加護と、名前を読み取ることすらできないスキルね」
間違いなく、このふたつがあのふたりを異常な存在としている。
「召喚魔法を弾いておきながら、妾がこの世界に送り込むことは可能だった。加護というより、意志を感じるのよね」
恐らく、その神は妾の敵ではない。むしろクソ野郎に敵意を持っているような感じだ。
「意志。あるいは、遺志かもね。死んで存在が消滅した神なら、妾の記憶にないことも辻褄が合う。消滅して尚、強い思いが加護としてふたりを見守っている」
ただその場合……そんな神が加護を与える透と璃砂は一体なんなのかしら……?
そういえば……透も璃砂も、人を殺して動揺していなかったわね。日本で平和に暮らしていたはずの高校生が……あり得るのかしら?
……平和に暮らしていたはずの高校生? 今も氷の短剣で、同じく氷の大剣と打ち合っている透が? しかもレベルもステータスも上の相手に傷を負わせつつある。
璃砂も相性的に不利なはずの水使いと撃ち合って押し始めていた。どっちも違和感がある。特に透だ。
まるで――体は覚えていないけど、魂に戦闘技術がこびりついているような――っ!?
「…………まさか」
脳裏に過ってしまった仮説。もし件の神が妾よりも上位だったら……有り得てしまう。
「あのふたり……前世は別の世界に居た? そこで死後、現地の神に今世での幸せな人生を約束されて、妾の担当する平和な日本へ送り込まれた? もしくは送り返された? 加護はそのときのモノ?」
困ったことに否定ができない。
「まいったわね……もっと早く気づくべきだったわ。ヒントはあったのに……」
無事に侵入者を絶滅させハイタッチしている透と璃砂。その光景をふたりに加護を与えた神が、微笑みながら見守っているような気がしてしまう。
「…………あのふたりが持っている謎スキル……突き止めないとマズいかもね。可能なら加護を与えている神の正体も」
ただでさえクソ野郎のせいで忙しいのに、余計なタスクが増えていく。でも……透と璃砂。あのふたりはもしかしたら……クソ野郎に対する切り札になるかもしれない。
「……加護。ダンジョン自体にも付いていたりしてね」
そう考えるのならばダンジョンで生成されたモンスターが全て異常な存在なのも頷けてしまう。それどころか、不安要素から一転し、切り札を守るための重要な存在に変化する。
「その場合……妾は完全に利用されてるってことね。……ま、構わないか。クソ野郎をなんとかできるなら別にいいわ」
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