魔力の回復は百合キスで♡

「頼んでもいい?」


 他人の魔力を回復する手段を持つ人物。俺や璃砂、それとリッカもか。俺たちにとっては喉から手が出るほど欲しい。そんな力を持つ石上さんを保護するのは問題ない。


 恐らく魔力ポーションみたいなアイテムがこの世界に存在しているとは思う。剣と魔法の世界らしいしな。ただ現状では手元にないし、入手方法も不明。璃砂も同じことを考えたのか、迷わずに頷いていた。


「えっと……璃砂ちゃんからでいいですか?」


 石上さんが璃砂とリッカに視線を行き来させている。璃砂も本日1回目の魔力切れを起こした経緯がアレだから自分を先にとは言い出しにくいらしい。


「はい璃砂さまを先にお願いしますぅ」


 そんな璃砂の内心を察したのか、リッカが先に答えてしまった。まぁ膝立ちの石上さんの目の前で女の子座りしている璃砂って構図だもんな。自然とそんな順番になる。


「……あの、透くん?」


「うん?」


 何故か俺を見てくる石上さん。


「ほんとに透くんなんですね?」


「そうだ」


 まぁ……見た目が完全に別人どころか性別も違うからな……信じるのが難しいのもわかる。変身解除して姿を見せたほうがいいか? でもいくらケンシンに守られているとはいえ、戦闘中だしな……。


「お、怒らないでくださいね?」


 璃砂の両肩に手を置いて深呼吸する石上さん。まるでそれなりに覚悟が必要な行為をする前準備のようで――


「これしか方法を知らないんです。女同士なのでノーカンにしてください。璃砂ちゃんも嫌なら避けてくれていいですから」


 ――更に早口で言い訳のようなモノを並べていた。一通り終えると、顔がゆっくりと近づいていく。誰がどう見てもキスしようとしていた。


 璃砂も察したのか目を見開いた。チラっと俺を見て逡巡する様子を見せるも、意を決したように目を閉じる。


「……ん」


「――!?」


 唇が触れ合った瞬間息を漏らした石上さんと、ビクッと肩を震わせた璃砂。一瞬で終わるのかと思ったら、石上さんが璃砂の身体を抱き寄せた。魔力の回復ってかだもんな。それなりに時間が掛かるのかもしれない。


 璃砂が――幼馴染……一応、もう彼女になるのか? が目の前で俺以外の人間とキスしている光景。不思議と嫌な感情は湧いてこなかった。女の子同士だからだろうか。もちろん、俺もあとで璃砂とキスしたいと思いはするけどな。


「――んん!?」


 なんか璃砂が妙な反応をしたな。原因は? と思ったら、石上さんに舌を入れられたっぽい。あーだもんな。流し込む必要がある訳だ。


「…………」


 璃砂が流石に嫌そうに顔を顰めたけど、自身の魔力が回復しているのを感じたのか抵抗まではしなかった。


「わ、わぁ……」


 リッカが真っ赤な顔をして吐息を漏らしているけど、目を逸らすどころか凝視している。次はリッカの番だもんなぁ……同じことをされると思うと、ああいう反応になるのだろうか。


 やがて一瞬のようで、1分くらいのキスによる魔力補充がおわった。唇が離れた璃砂は真っ赤になっていた。ちょっと涙目なのはどういう意味なんだろうか。


「……初めて会った女の子にベロチューされたんだけど、私」


 あー……璃砂からすればそうなるわな。


「彼氏ともしたことないのに」


 恨めしそうに石上さんを睨む璃砂。


「――え? やっと付き合ったんですか?」


 しかし石上さんの反応は思ってたのと違う。璃砂に睨まれるのは慣れてますとばかりに受け流して、璃砂の『彼氏』発言に食いついていた。


「『やっと』ってどういうこと?」


「だっておふたりとも……わたしに『透に告白したいんだけど』『璃砂に告白しようと思ってるんだけど……』なんて相談しておいて、1年以上なにもなかったじゃないですか」


「「…………」」


 俺たちに記憶がないだけど、石上さんがかなり親しい友達だったのは間違いないらしい。


「……石上さん。リッカの魔力も回復させてあげてくれる?」


「……逃げましたね。別にいいですけど。えっと……リッカさん? こっちに来て貰えますか?」


「わ、わかりましたぁ」


 リッカと入れ替わり、そそくさと俺の隣に逃げてくる璃砂。


「ねえ透……」


「ん?」


「お、怒ってる? キスしたこと」


「別に。女同士だし、魔力の回復って重要な目的もあるしな」


 もうちょっと見ていてもいいかも……なんて思ってしまったことは黙っておく。


「そ」


 どことなく安堵していそうな璃砂。結構気にしていたのかもな。俺の前で他人とキスしたこと。


「それじゃいきますね。もし嫌だったら拒絶してください」


「は、はい」


 リッカの肩に手を置いて顔を近づけていく石上さん。もうちょっとで唇が重なるってところで止まってしまった。


「……やっぱキスは緊張しますね」


 そう呟いた石上さん。璃砂に対して躊躇しなかったことから、てっきり抵抗ないのかと思ってたんだが……これも璃砂が相手だったからか。


「ん! んん~~!」


 あ、リッカの予想よりも早く舌を入れられたのか尻尾がバタバタと暴れている。ブンブンと左右に振られたかと思えば、地面にビタビタと叩きつけている。果たしてどんな感情なんだか。拒絶しないってことは嫌ではないんだろう。きっと。


「あ、終わったな」


 リッカがぽけーとしているのが気になると言えばなるが、すぐに我に返ってチェンソーを拾っているから大丈夫だろ。きっと。


 璃砂も魔法少女に再度変身して、自分の身体の感覚を確かめている。


「これで大丈夫そうですかね? もう少し魔力を譲りたいですけど、これ以上はわたしが魔力切れで意識を失っちゃいそうです」


 言葉の通りなのか、座り込んでしまう石上さん。


「……え? 魔力切れって意識失うことあるの?」


「璃砂ちゃん? 魔力切れって基本的に意識を保っていられないはずですよ?」


 思わず質問した璃砂に常識を語るように返す石上さん。魔法少女ってもしかして……安全装置みたいなのが付いてるのか? あ、リッカもだから、ダンジョン関係者か。


 俺たちを守っていた水のドームが消えたのはそんなときだった。まるで戦えるようになったのなら戦えと言われているみたいだ。みたいではなくて、言われてるんだろうな……。広場からつながる2本の洞窟は水の膜で塞がれてるし。


 これは敵を逃さないためなのか、俺たちに戦わせるためなのか。両方か? ケンシンが自身を囲っていた3人を蹴り飛ばして、俺たちに向かって走ってくる。


 合流しひとこと。


「さ、それがしだけではキツいので協力して倒しましょう」


 いやいや、あなたひとりで余裕ですよね!? もう誤魔化せないから!

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