苦戦
リッカによる一撃。完全な不意打ちだったのにもかかわらず、男はチェンソーを避けていた。正確にはリッカが俺の予想通り、チェンソーの重さに振り回され気味で制御できていない。
「わわっ!」
バランスを崩したところで蔦を鞭のように使った反撃まで受けていた。幸いなことにチェンソーの刃に当たってダメージはなさそうだけど、大きな隙でしかない。自在に襲ってくる蔦に防御で精一杯になってしまうリッカ。これに関しては小柄な身体に対して大きなチェンソーがいい方向に作用したと思われる。チェンソーは頑丈だし、切断可能な物相手の防御にも便利と。盾代わりに使うなら振り回されないしな。
俺もリッカを援護するために氷柱を撃ち込むも、飛んできた水矢で軌道を変えられてしまった。その頃には見るからにタンク役の大盾持ちが前に出てきて、俺、ケンシン、璃砂とリッカ、あの娘を分断するような位置取りに。その左右にはしっかりと大剣使いと槍使いが武器を構えていると。これじゃ璃砂があの娘を連れて転移するのも難しい。
一瞬、ここからあの娘のとこまで転移できないだろうか? リッカは近くに現れたし可能では? と考えるも……無理か。できるなら既にケンシンが提案しているはずだ。これまでもケンシンがポイントを設定してから飛んでたからな……。奴らが設定する時間をくれるとも思えない。仮に設定できても移動されたら終わりだ。
なんとか目の前の連中を突破するしかない。3人はパッと見では前衛に思えるが、俺と同じように魔法で武器を生成している時点で魔法師だ。つまり敵は全員が魔法を使える。強いて言えば弓矢使いは後衛と判断してもいいかもだけど……そう思って近づいたら、実は接近戦が得意って可能性を否定できない。
「――しっ」
ケンシンが魔法刀を鞘から抜くと同時に飛んでいく水刃。成果は大盾を浅く傷つけるだけ。てっきり退くかと思いきや、ケンシンは刀を鞘に納めて前に出ていく。どうやらひとりで3人を相手取るつもりらしい。
今までの侵入者なら問題ないだろうけど、今回は流石に無理だろ!
「うおっ!?」
俺もあとに続こうと踏み出すも、足元に異変を感じて横っ飛び。直前まで立っていた場所に氷柱が生えていた。しかも先端に返しがついている。あっぶね! 明らかに足を縫い付けるためじゃんかよ! 受け身を取ってそのままの流れで立ち上がった自分を褒めてあげたいくらいだ。
一息つく間もなく、魔法を発動させる。同じ氷魔法だからな、パクらせてもらう! 狙うは大剣使いだ。魔法を使って外した直後だし、隙がありそうだからって思ったんだが……ちっ、あてが外れたらしい。後ろに飛び退いて躱されてしまった。ただ、ケンシンが急に進路を変更して追撃。魔法刀で斬りかかると、流石に大剣で防御する。
そのまま1対1になるかと思いきや、大盾持ちと槍使いが加勢して1対3になってしまう。敵さんはよっぽどケンシンを警戒しているらしい。
そして当のケンシンは3人を相手取って魔法刀1本で対等に――いや、ケンシンが若干押してるように見えるか? ――戦えているのだから、向こうの判断は正しいのだろう……ここは任せて大丈夫そうか?
魔法刀で斬りつけ大盾で防がれる。大剣の振り下ろしを回転するようにして躱し、反撃の一閃。追撃したところを槍使いに邪魔されるも、その槍はしっかり両断。これはケンシンの魔法刀が水属性だし、相性の問題だろうな。それを見た大盾使いが慌てて割り込むが、ケンシンは相手にせず大剣使いに向けて魔法刀を振るって水刃を飛ばしている。
そんなケンシンの戦いぶりを見ていると、援護すら躊躇ってしまう。ぶっちゃけ邪魔にしかならない気がする。
「透、今のうちにあの娘を」
璃砂に促されて駆け出す。そうだよな、さっさと動くべきだ。すぐに璃砂が並んでくる。当然、弓矢使いが俺と璃砂の動きを見逃してくれる訳もなく水矢が飛んできた。璃砂は俺が防ぐと信じているのか、一切の防御や回避行動を取らずにいる。ただ反撃は任せろとばかりに頷いてきた。
「ほいっと」
足を止めて氷の盾を生成。すぐに璃砂が入り込むスペースを開けると、直後滑り込んでくる。
カツカツカツ! そんな音が盾から聞こえてくる。貫通はしないけど、削られてるな……同じとこを連続で狙われるとマズいか? 都度補修しなくちゃだめか。
「いっけぇ!」
水矢を防ぎきったのを確認し、璃砂が右手を銃のようにして伸ばす。それに合わせて俺も盾をずらすと、彼女が反撃の炎弾を放った。俺が作る盾のサイズ。璃砂が炎弾を放つ始点。互いに言葉にしなくてもなんとなく察している。以心伝心と言ってもいい。ただ調子に乗りすぎるとやらかすのも俺と璃砂だ。自覚はあるから、注意しないと。
炎弾は簡単に水矢で簡単に相殺されてしまった。
「ケンシンとは逆だもんな。こうなるか――っと」
おまけとばかりに水矢が複数本飛んでくるせいで、盾を構える俺は足止めを食らってしまう。盾を片腕で扱えるような小さいモノに変えればいいんだろうけど、璃砂も守らないとならないし……なにより、水矢の軌道を見極める自信がない。地味にカーブして飛んでくるんだよな……盾を回り込むまではいかないけど、動きづらい。
下手なことして怪我するくらいなら、確実性を求めるべきだ。そんな考えで全身を隠せるサイズの盾にしたんだけど……失敗だったか?
「ちっ、相性悪すぎ!」
璃砂もタイミングを見て反撃しているが、速度重視の火矢も、威力重視の炎弾も通用していない。だからって逆になるのもな……璃砂の防御をあてにして魔力切れになったら目も当てられない。本人も言ってる通り相性の問題もある。
「璃砂、熱くなるなよ? お前が魔力切れになったら終わるぞ?」
「わかってる」
現状ではリッカが蔦使い。俺、璃砂が弓矢使い。ケンシンが残り3人と戦っているんだ。数で負けているのに更に減るのは痛すぎる。
果たしてひとりで3人を相手しているケンシンが凄いのか、後衛ひとりに足止めされている俺と璃砂が情けないのか……両方だろうな。
そういえば、あっちはどうなってる? リッカの方を見ると、相変わらずチェンソーを振り回していた。苦戦しているのかあの娘のすぐ近くまで追い込まれているものの、怪我をしている様子がないことに安堵する。
いっそなんとか隙を作って、あの娘を拘束している蔦を処理してくれれば……チェンソーじゃキツいか。リッカの制御的にも。いくらあの娘が自己再生可能だからって、チェンソーで傷つけるのは良心が痛むなんてものじゃない。仮にショックで失神したら自己再生も無理だろうし。
そこでふと疑問が。あれなにで動いてるんだろうな……混合燃料? 魔力? どっちにしろ、時間制限あるよな? と。
ヤバい。急に心配になってきた。こんなことならリッカの武器を知ったときに確認しておけば……。
なんて思ったのがフラグになったのだろうか。リッカのチェンソーがプスンと嫌な音を鳴らして停止してしまう。おいおい! 嘘だろ!?
ペタンと座り込んだリッカの姿には既視感がある。魔力切れだ。転移して逃げることも可能だろうに、あの娘の近くから離れない。どうやら自分の身を使ってでも庇うつもりらしい。蔦使いもすぐに気づいたのか、リッカを見下ろすようにして舌なめずりしている。どういたぶってやろうか。そんなことを考えているだろうことが見て取れた。
「……ねえ、思ったんだけどさ」
「ん?」
「魔法少女って、空を飛べるパターン結構あるわよね?」
「……マジか?」
思わず璃砂を見てしまう。彼女の表情は本気だった。
「水を相手にするのは相性悪いけど、蔦なら有利よね? 邪神相手にも通用したんだし」
「……確かに――っ!」
水矢の威力が段々と上がって来てるな……これ以上盾に頼るのは危険か?
「……盾の強度上げられる?」
「……自信ない」
もし盾を抜かれたら回避に意識を割かれるな……状況が悪化する。
「……ならワンチャンに賭けてみてもいい? あの様子なら完全に油断してるでしょ? 問題は高確率で私も魔力切れになっちゃうことね……。でも転移は元の姿でもできたんだから、無理すれば行けるはず」
「……」
「最悪、私がふたりを連れて転移すれば……透とケンシンも転移して逃げられるわよね?」
ハッキリ言って気が進まない。でも璃砂はもうやる気だ。止めようにも、他の方法がすぐに浮かぶとは思えない。そうこうしているうちにもリッカとあの娘が危ない。
「…………わかった」
頷くしかなかった。
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