手遅れなら全滅させよう
「…………」
「ケンシン? どうした?」
2つ目の目標である4人組を全滅させたところで、ケンシンがタブレットを見て黙り込んだ。何事かを考えるように顎に手を当てている。
ちなみに、4人組は俺が不意打ちで氷柱を撃ち込んで混乱させて態勢を立て直す前にケンシンが突っ込んで3人を瞬殺。逃げた1人を俺が背中から撃ち抜いたって形だ。
「いえ……残りは全滅させてしまって大丈夫そうだなと」
「そうなのか? 生まれたてのダンジョンが侵入者を全滅させると危険視されるって言ってたよな?」
「はい。もう手遅れかと」
「手遅れ?」
意味がわからずにオウム返しに聞き返してしまう。
「4人組のひとつがゴブリンたちに敗走しております。それも生き残りは1人だけ」
不快な顔をせずに理由を教えてくれるケンシン。言葉が少なくわかりにくいが恐らく――
「要するに、その生き残りが危険なダンジョンだと報告するだろうから、普通の出来たてダンジョンより危険視される可能性が高い。なら、他の侵入者が気づいて逃げる前に魔力にしてしまおうってことで合ってる? モンスターを増やすにしろ、設備を整えるにしろ魔力が必要だから」
「正しくその通りです」
なんだかどんどん悪い方に向かっている気がするな……気のせいならいいけど。
「念のため聞くけど、その4人組が弱かっただけってオチは?」
「これを」
ケンシンがタブレットを見せてくる。その画面に表示されているのは、件の4人組とゴブリンたちの戦闘らしい。
さり気なく起動しているアプリを確認すると『ダンジョンアプリ』だった。便利過ぎるだろ! そんな機能まであるのか! そしてそれを使いこなしているケンシンに驚く。戦国時代出身なのによく対応できるな。ダンジョンモンスターとして知識を詰め込まれているにしても、だ。
「……なんか混ざってるな」
4人組は剣士、槍使い、魔法師。ここまでは良い。最後のひとりが問題だ。なんか派手な紋章が入った腕輪をしている。装備も2本のナイフで防具も布製。明らかに身軽さを重視している感じだった。
「あの紋章は冒険者ギルドのモノですな。ギルド職員かと」
…………あ、手遅れってそういうこと……。
映像の中では槍使いがゴブリンを牽制し、間合いを保つ。距離が詰まりそうなら剣士と入れ替わり、槍使いが間合いを調整し直す。前衛ふたりはそれだけの動きに集中していた。ゴブリンがバランスを崩したり、距離を離すと魔法師が石礫を飛ばす。その戦闘を冷静に眺めているギルド職員。そんな図が数分続き、不意にゴブリンの動きが変わる。
あろうことか、石礫を棍棒で打ち返しやがった。しかも的確に槍使いに、だ。完全に予想外だったのか、槍使いは反応すらできずに頭を潰され即死。孤立した剣士をゴブリンたちがフルボッコ。その段階で逃げ出すギルド職員と、殿として通路を石壁で塞いでゴブリンの追撃を阻止する魔法師。戦闘が終わるまで1分もかからなかったものの、ギルド職員が逃げるには十分な時間だったと。
「もしかしなくても1番マズい相手に逃げられたか?」
「しっかりとゴブリンの異常性を見られてから逃げられましたな」
よりによってギルド職員が直接見てるんじゃ、情報の真偽がどうこうって無駄な時間はかからないだろうしな……めんどくせー。
「…………少しでも多くの魔力を回収しような」
「御意」
それから俺とケンシンは残った3人組。もうひとつの4人組を全滅させた。その頃には、最後の4人組もゴブリンたちによって仕留められたらしい。
残るは最大人数を誇る6人組だ。このまま勢いに乗って戦闘を仕掛けようとしたところで、ふと思う。
俺の魔力残量はどのくらいだ? と。数値やゲージで確認できないせいで、自分の感覚を頼りにするしかないが……正直まったくわからない。まだまだ余裕な気もするし、もうあまり残っていないような気もする。でも身体に異変はないんだよな……まだ大丈夫ってことか?
いや待てよ? そもそも前触れみたいなのがあるなら、璃砂が2回も魔力切れを起こすだろうか? 起こすだろうなぁ……。こういう場合は彼女の超がつくレベルの負けず嫌いが、悪い方向に発揮されるであろうと簡単に想像ついてしまう。意地を張ってギリギリのラインを攻めては魔力切れを起こす姿が頭に浮かんでくるという……思わずため息を吐きそうになった。
「透!」
俺を呼ぶ声は間違いなく璃砂だった。
「ん?」
妙に切羽詰まったような不穏な声色だ。振り返ると魔法少女姿の璃砂が焦った表情で立っていた。
「急いで転移! 最後の6人組なんだけど、女の子がひとり居るのよ! それも日本人みたい! そして今にも他の男たちに襲われそうになってる!」
なんだその状況!? 色々と聞きたいことはあるけど、ダウンしていたはずの璃砂が慌てて来るくらいにマズいらしい。
「わかった! ケンシン!」
「承知!」
「私も行くわ!」
こういうときの璃砂にはなにを言っても無駄だと長年の経験からわかっている。問答している時間ももったいない。璃砂がいくら心配であっても、ひとまず頷くしか選択肢がなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます