なるべく魔法少女姿で生活しろだってさ…
「2層はオークって言ってたわよね? オチが見えてるし確認はまた今度にしましょうか」
ゴブリンを見た結果、オークの確認をする気なくなっただけだよな……俺だってそうだ。
「ごめん、私が後先考えずに全力で魔法を撃ったせいよね……」
魔力切れの症状で一気に冷静さを取り戻した璃砂が申し訳無さそうに謝罪してきた。
「いや、俺が璃砂の立場だったら確実に同じことしてるから気にすんな」
「透の言うとおりね。たまたま今回の被害者が璃砂だっただけ。モンスターの確認をするって目的も半分は達成しているし気にしなくていいわ」
「邪神もこう言ってるし、ほんとに気にすんな」
「わかった。ありがと……ふぅ」
なんか前回よりもツラそうだな。大丈夫か? 地面にペタンと座り込んじゃってるし。
「あ、そうだ。ちょうどいい機会だからふたりに言っておくわね。この世界にはレベルって概念があるのは知ってるわね?」
「ああ」
邪神から聞いたし。
「レベルが上がるとステータスが全体的に伸びるんだけど、それとは別にステータス単体でも伸ばせるのよ。『力』なら筋トレしたり、『知力』なら勉強したり知識をつけるって具合で」
「ふむふむ。それで?」
「ふたりは魔法少女でしょ? 魔法を使うときはもちろん、変身しているだけで魔力を消費しているの。高い防御力と精神耐性の代償だから仕方ないんだけど」
「あ、魔力切れで変身解除されるのってそういう仕組なのか」
理解だ。ってことは、ほんと魔力配分には気をつけないとダメだな。
「それでなんだけど、この世界の魔力って基本的には時間あたりの割合回復なのよ。いまのふたりだと、変身時の基本消費が回復量を上回っているから長期戦は不利と。ならどうするべき?」
そんなの決まってる。
「割合回復なら、最大量を増やせば回復量が上回るだろ」
例えば今が最大量100で、回復量が1時間で1割なら10。
それが最大量150になれば、1時間で15回復するようになると。
「正解。そして魔力の最大量を増やす方法っていうのが、魔力を使うこと。使った分を早く補うために回復量が増すの。結果的に最大量が押し上げられる形ね。魔法をぶっ放して回復を待って、ぶっ放す。これでもいいけど……もっと成長してからの方法ね。まだ魔力量が少ないから、あっという間に尽きてその度にダウンしていたら大変でしょ? 肉体的にも、精神的にも」
「ん?」
なんだか話の方向が怪しくなってきたぞ? 果てしなく嫌な予感がする。
「透、璃砂」
「……はい」
「……なに?」
「常にとは言わないから、普段はなるべく魔法少女の姿でいること。魔法少女姿の維持で使われる魔力消費量がいまのふたりを成長させるのに都合いいわ」
やっぱりかよ! そんなだろうと思ったさ!
「…………わかった」
抵抗したいけど、邪神相手に抵抗したところで無駄なのはわかりきっている。
「…………この状態で戦闘が必要な状況になったら終わりだものね」
確かにな……その状況はかなり怖い。日本で武術でもやっていればともかく、俺と璃砂じゃ無理だ。多少の抵抗すらできずに終わってしまう。ダンジョンマスターとしてさっさと殺してくれればいいけど……違う場合もあるよな? 特に若い女である璃砂は――その可能性を考えたくもない。
「魔法少女姿の維持費を払いながらでも、時間経過で魔力が回復しないとマズいな」
「そうね……せめて維持費とトントンくらいには回復量がないと……」
急に危機感が出てきた。そういう意味じゃ、いつ侵入者が来るかわからないダンジョンの1層にいまの状態の璃砂が居るのも不安になってくる。
「一旦城まで戻るか」
「それがいいわね」
邪神が賛成してくれたなら、あとは動くだけだ。
「む……侵入者ですな」
黙っていたケンシンが不意に言葉を発した。その内容がよろしくない。真剣な顔でタブレットを見ているケンシン。もしかして、結構ヤバいのか?
「侵入者ですって?」
邪神も気になったのかケンシンのタブレットを覗き込む。俺も続く。
「4人組がみっつ、3人組がふたつ、そして6人組がひとつです」
表示されている1層のマップにケンシンが言った通りの赤点が表示され、探索しているのがわかる。バラバラのルートを通り、いまのとこ正解を引いているグループは無し。
「……新しく見つかったダンジョンの偵察って感じね。ただ初っ端から6グループとか、この場所にダンジョンを作った甲斐があるわ」
邪神的にはそうだろうけど! 俺的にはこれっぽっちも嬉しくない!
「魔力の補充に全滅させたいところですが、危険視されていきなり軍勢を送り込まれるのも現状の戦力では問題です」
そっか魔力的には嬉しいのか……サラッと『全滅』って言ったけど、全員殺すってことだろ? 視線を感じたのか、ケンシンが俺を試すように見てくる。
ここはケンシンに任せてしまえば、適切に対処してくれるはず。それが確実だ。でもさ……それってどうなんだ? これから先、この世界の住人として。ダンジョンマスターとして生きていくなら……。最初が肝心な気がする。じゃないと絶対に先送りにする自信があった。
「ケンシン」
「はっ」
「ゴブリンの少ないルートを通っている3人組から片付けよう。手伝ってくれ」
「お任せを」
口元が綻んでいるのを見るに、ケンシンが望んでいた答えらしい。
「リッカ」
「はいですぅ!」
「璃砂と一緒に城に転移してくれるか? 温かいものでも作ってくれると助かる」
「了解ですぅ!」
邪神はどうせ好き勝手に行動するだろうからスルー。
「……透」
俺を呼ぶ璃砂の声が少し震えていたのは、彼女の体調からくるモノ――じゃないな。きっと、俺がヤろうとしていることを察したからだ。
「ん、なんだ?」
自分でも驚くくらい声が固い。もしかしたら止められるか? 魔力切れを起こしていなかったら「私も一緒に行く」って言いたいだろうに。
「――行ってらっしゃい」
その言葉に背中を押されるように、俺はケンシンと共に転移するのだった。
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