色々とおかしいことが発覚・ケンシン&リッカ編

 山城から転移して同じ5層内の草原に移動した俺たち4人は、ピクニック気分で昼食を食べ――終えていた。


「ごちそうさまでした」


 リッカお手製のサンドイッチは――普通に美味だった。どのくらい美味だったかというと、俺以上に警戒して最初のひとくちを食べた璃砂が驚きに目を見開くレベルだ。自分で初めて設定したモンスターを信じてやれよ……いや、それはずるいか。ケンシンは明らかに特殊枠だもんな。俺がモンスターを作っても予想外の結果になる可能性が割とある。


 ……ダンジョンの魔力に余裕ができたら、俺も1体作ってみたいな。ロボットっぽいやつ……ゴーレムとかか? また璃砂に白い目で見られそうだけど……ま、今更だよな! きっと璃砂ももっと色々なタイプのモンスターを作りたいだろうし。


「午後はどうするの?」


 リッカが淹れてくれたお茶で一服しながら璃砂が聞いてくる。


「どうするって言われてもな……まずはダンジョンを見て回りたいだろ?」


「確かに自分の目で見たのは5層だけなのよね」


 頷く璃砂。生活空間のログハウス。山城、今現在居る草原と。付け加えるなら山城も大広間くらいしか見てないんだよな……。櫓とか登ってみたい気持ちもある。


「あと魔法も試しておきたい」


 流石に邪神とのチュートリアルだけで実戦とか不安過ぎる。俺も璃砂みたいに魔力切れの状態を経験しておいたほうがいいだろうしな。その場合、璃砂に負担をかけることになりかねないからよく相談して――俺も膝枕してもらえるか? 以前の俺たちなら完全に璃砂の機嫌次第だったけど、今ならお願いすれば叶えてくれそうな感じもあるし?


「私の透で魔法を撃ち合ってみる?」


「どっちかが魔力切れになるまでか?」


「さぁ?」


 意味深な表情で首を傾げている璃砂。俺も同じ顔をして首を傾げてみせた。


「なにをしているんですかぁ?」


 リッカもニコニコしながら首を傾げ始める。となると、だ。残るひとりは?


「…………」


 全員の視線を感じているだろうに、我関せずと真顔でお茶を啜っているケンシン。うん、ひとりくらいそんな反応してくれると安心感がある。いざというときに場を引き締めてくれそうだし。


「お? ちょうどいいタイミングだったかしら?」


 いきなり現れる等身大日本人形。さも当たり前のように俺と璃砂の近くに座ってくる。ピクニックシートと着物が合わねえ……。


「ちょうどいいタイミング?」


「ええ、最初のモンスターたちが一緒に居るでしょ? 普通じゃない存在だから影響を確認しておかないとと思ったのよ」


 確実にケンシンのことだよな。考えなくてもわかる。案の定、ケンシンをジッと見てるし。そりゃ歴史上の偉人がモンスターになってるんだもんな。邪神がわざわざ直接確認するのもわか――


「越後の龍。女になった感想はどう?」


 ――確認ってそっちかよ!


「あなた様をぶった切りたいくらいですが?」


「でも賭けに負けたのはあなたですよねー? 謙信ちゃん?」


「ん、ぐっ」


 爪が食い込むどころか、皮膚を破って血が出そうなほどに強く拳を握るケンシン。


「諦めて若人たちを守ってあげなさい。そのための能力もあるはずよね?」


「……承知」


 どんな理由があってあの上杉謙信が女性になってダンジョンモンスターなんてやってるんだか。相応の理由があるんだろうけど……なんだろ。すげークダラナイ理由の気がするのは何故だろうなぁ? 賭けって単語のせいか?


「ついでにこっちも――はぁ!? どうなってんのよ!?」


 ケンシンからリッカに視線を移した直後、邪神が立ち上がりリッカをビシッと指差した。


「?」


 差された当の本人はポカンとしている。


「いやいやおかしいでしょ! なんで妾でもクソ野郎でもない別の神の加護が付いてるのよ! ダンジョンモンスターに確率で付く可能性がある加護は、マスターに関係している妾のだけ――なんか妾でも内容を読み取れないスキルまで付いてるんだけど……?」


 この邪神なんか急に怖いこと言い出したぞ!?


「……リッカそんなの知らないですよ?」


 リッカも不安なのか、ニコニコ笑顔が消えていた。邪神の目が、俺を見て、璃砂を見て、俺を見て、璃砂で止まる。そのまま何も言わずにため息をひとつ。


 ……璃砂? 璃砂になにかあるのか? それとも、俺たちにそう思わせたいだけか?


「ま、大丈夫でしょ。妾が知らない神ってことは名前が知れ渡るようなレベルで悪行をしていないってこと。表記も『加護』だし、ダンジョン側にプラスのはず」


 不安要素だけが増えていく……。


「大丈夫なのね? 設定したはずのない『ドジっ娘メイド見習い』って称号があるらしいんだけど」


「……そもそも称号は無条件で『ダンジョンモンスター』になるはずなのよねぇ」


 邪神様? ため息を吐きながら俺と璃砂を見てもなにも知らないから! 恐らく何人、下手したら何十人もダンジョンマスターを送り込んでいるだろう邪神がわからないのに、初心者ダンジョンマスターがわかるはずないだろ!


「越後の龍? ダンジョンモンスターってもう生成したかしら?」


 とうとう俺たちから視線を外してケンシンとやり取り始めるし!


「1層にゴブリン。2層にオークの群れをいくつか」


「生成陣は設置した?」


「まだです。設置しても維持するための魔力の蓄えも収入もありませんので」


「え? いくつか作れるだけの魔力を残しておいたはずよ? それにゴブリンとオークならコスト安いでしょ? もっと数を出してもいいんじゃない? 必要設備が足りてないからそっち用の魔力を溜めたいのも理解するけど、攻略されたら元も子もないわ――」


 ケンシンが無言でタブレットを邪神に見せると、日本人形の目がまた俺たちに向いた。


「……昨日見たときよりも全体的に必要魔力が増えているのはどうしてかしら?」


「「知りません!」」


 きれいにハモる俺と璃砂の叫び。


「ちなみにこれを……」


 ケンシンがなにもない空間から一振りの日本刀を取り出す。リッカもだけど、収納魔法的なのがあるのか? 便利そうなんだよな。俺も使えるようになりたい。それか、ダンジョンの機能にあったりするのか? あとで確認だな。


「…………出来たてほやほやのダンジョンに存在してはいけないレベルの魔法武器に見えるわね。水属性の魔法刀。ここは魔王と呼ばれるマスターが運営するダンジョンだったかしら? それとも高レベルの勇者でも返り討ちにした?」


「それがしの初期装備でした」


 ケンシンが俺と璃砂に対して、邪神と同様の視線を向けてくる。


「全員でこのまま1層に行くわよ! 急いでゴブリンたちの確認! 嫌な予感がするわ!」


 嫌な予感言わないでください!

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