ダンジョンに足りないもの
「こちらをご確認ください」
ケンシンがタブレットを操作すると大広間の畳が一部開き、複数の電子機器が現れた。その中央には円形の端末がありダンジョンを立体的に表示可能だ。SFなんかでお馴染みのホログラム投射機。
表示されたのはダンジョンの1層から2層のホログラムだった。こうやって見てみると、各層でも洞窟に微妙な傾斜があったりして同じ層内で重なっている箇所もある。
平面上で作業していた『ダンジョンアプリ』とはまた違った見え方になるな。
「……」
痛い……隣に立っている璃砂の視線が痛い!
違うんです。俺はただ作戦を考えたりするのに、地図上だったり盤面を作って駒を動かしたりするよりも視覚的にわかりやすいと思っただけなんです。あと男の憧れです! ロボットアニメに出てくる艦橋とか、司令室とかをイメージしました! なんて間違っても言えないけど! たとえバレバレでも、言えない。正直、無言が怖い。
「この黄色の点は?」
気になったのは、所々に点があることだ。複数集まっている場所もあれば、単独で置いてある場所もある。その違いはもちろん、点の意味自体がわからない。取りあえず聞いてみた。
「いつこのダンジョンに侵入者が来るかわからない状況なので、2層までのモンスター配置を考えてみました。1層がゴブリン。2層がオークを想定しております」
なるほど。説明されてから改めてホログラムに視線を戻すと、なんとなく意図がわかる配置になっているような……気がしなくもない。それにしても……うん?
「数が随分少ない気がするけど?」
璃砂が俺も気になった箇所を上げている。ダンジョンってもっとたくさんのモンスターが居るイメージだ。
「それは仕方がないかと」
そう言ってケンシンがホログラムの投射機を操作すると、1番上に1本のゲージが現れた。1割ちょっとしかないみたいだけど、何のゲージだ?
「この通り、ダンジョンの魔力が1割程度しか残っておりませんので。それにダンジョン内には畑や鉱脈などがございません。奥のログハウスは水道がありますが、山城には水源もないですしな。生活に必須の物資やモンスター用の武器等はもちろん、素材すら生成するのに魔力頼りの現状ですと……この数が限界かと」
暗に食料や武具の自給自足がある程度できるように考えてダンジョンを作れや! と言われている気がしてならない……。年上の美人さんに真顔で見られるのって心臓に悪いことがよく理解できた。
すみません、ダンジョンの防衛のことしか考えてなかったです、はい……。籠城って単語が出ていたのに、山城に水源も畑も考えてないです!
ぶっちゃけ――やらかしたぁ!! と、リセットしてやり直したいくらいだ。邪神も言ってくれれば良いのに! 絶対にわかってただろ! と、責任転嫁しそうになる自分が嫌になる。
でも邪神の思考もなんとなくわかるんだよな……あとから必須である設備や施設が判明すれば、俺たちが必死になって魔力を集めると思っているんだろうなと。具体的には侵入者をどんどん殺せと。
今になって思うと、俺たちが殺るしかない状況に誘導されていたのは間違いない。
「……自由に使える魔力が増えたら、ダンジョン内に鉱脈作ったりします。山城に鍛冶場とか、畑なんかも」
鉱脈なんて作ると、それを目当てに侵入者増えるよな……でも、ダンジョンモンスターの武具を作るのにも必要と言われたら……モンスターの数は増えていくだろうし、それだけの数の武具を魔力から生成するのが大変なのは考えなくてもわかる。
「幸いなことに山城内の土地は余っておりますので、最悪適したダンジョンモンスターを探して厳選、自分らで開拓していくのも手のひとつですな」
そういうのもアリなのか。
「そのときはアドバイスをお願いします」
上杉謙信って内政もできるもんな……。
「お任せを」
「ほっ……」
ケンシンが微笑みながら頷いてくれたことに心底安堵する。見限られたらどうしようかと……ダンジョンモンスターって忠誠心みたいなステータスないよな? 俺たちには確認できないから怖いな……。
「それがしにダンジョンモンスターを生成する権限を付与願います。取りあえずの防備を整えますので」
「了解」
腕のデバイスにある項目から『ダンジョンモンスター』を選択。ケンシンを選んで、権限付与、ダンジョンモンスター管理権限を――あ、リーダー権限でいいのか。モンスターの生成に魔力を使って物資生成など、いくつもの権限が含まれているモノだ。
「ありがたき幸せ。早速、モンスターを生成して配置します」
あの上杉謙信にお礼を言われるとむず痒くて仕方ない。
「お願いします」
ホログラムを確認しながら隣のPCを操作するケンシン。上杉謙信がパソコンを操作している――と思うと違和感しかないが、見た目が女子大生なのでごく普通の光景に見えてくる。タブレットはそこまで変に思わなかったんだけど不思議だ。
チラッと画面を覗くと、ゴブリンを生成中と表示されていた。やることはえー。
「そうだ。リッカも……」
ついでにリッカにも権限を――と思ったけど、大広間に居なかった。
「リッカなら昼食を用意してくるって言って出ていったけど?」
いつの間に……まったく気づかなかった。声を掛けてくれれば良いのに……と思うけど、俺とケンシンが話してたからだろうな。璃砂にはちゃんと言ってる訳だし。
ちなみに時間的には昼食だけど、実際は朝食だ。
「……台所に行ったところで食材がないかと。魔力から生成するための権限もまだ付与されておりませんし……」
ケンシンがため息を我慢している様子が窺える。
「……あのぉ、透さま璃砂さま。魔力による物資生成とは言いませんので、食品関連の権限を付与頂けますか?」
噂をすればなんとやら。申し訳なさそうに戻ってきたリッカが、先程までの元気はどこに行った? ってレベルの小声で言ってくる。猫耳もペタンとなってるし……。
「ええ、もちろん」
璃砂は俺がしたのと同じように自分のデバイスを操作して、本人が望んだ食品関連の権限を与える。
「ありがとうございますーっ」
リッカはにっこり笑顔を浮かべ一礼すると、そのまま大広間から走り去って行った。メイド服のミニスカートが大きく翻りかけるが、尻尾で押さえている。そんな光景にこの短時間でムクムクと不安が湧き上がってきた。
「璃砂? リッカをドジっ娘って設定したか?」
「あのねぇ……苦手な家事をお願いする相手にそんな属性つけるはずないでしょうが! 自分たちの身の回りの世話を頼むのよ? ドジっ娘とか嫌でしょ」
だよなぁ! よかった安心したわ――
「…………リッカの称号に『ドジっ娘メイド見習い』なる文字がありますが?」
ケンシンがタブレットを見ながら不穏なことを言ってきた。モンスター配置はどうしたんだ? と思ったけど、ホログラムに映っている点の色が黄色から青に変わっていた。つまりもう完了していると……本当に仕事はえーわ。
「「……」」
璃砂と顔を見合わせる。
「璃砂、ひとつ質問。リッカにケンシンと同じリーダー権限を与えなかった理由は?」
「……特に深い理由はない。って言いたいけど、リッカって自分たちに権限を付加してくれって私と透を呼びに来たじゃない?」
「…………そうだったな」
「…………自分のことを名前で呼ぶ女って、ぶりっ子か天然かドジっ娘だと思うのよ、私」
「すげー偏見だな!」
わからなくもないけど! 2次元だとそのパターン多いし! 猫又メイドは果たしてどうなんだろうなぁ……。
「そう思ってる私が設定したのよね……リッカ呼び。一人称……ミスったかなぁ……」
俺も璃砂もミスがどんどん出てきそうで怖いな……。
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