これからの生活拠点を見てみよう
「じゃあ『ダンジョンアプリ』にある『転移』を選択してもらっていいかしら」
? そんな項目あったか? 見た覚えないんだが。つい首を傾げてしまう。とはいっても自分の記憶を正直、どこまで信用していいんだか。邪神に弄られてるっぽいしな。流石にこっちの世界に来てからは全部本物の記憶だと思うが。
「あ、いつの間にか増えてる」
璃砂の言葉で俺もタブレットに視線を落としてみる。『ダンジョンアプリ』の右上に丸印がついていた。開いてみると、確かに『転移』の項目がある。
「アプリはリアルタイムで更新されるわ。今回は、ダンジョンの一部が生成されたから追加された機能ね」
どれどれ? 早速『転移』を選択してみる。次に出てきたのは転移先のリストだった。もっとも、今の段階では『ログハウス』しか選べないみたいだけどな。
「そういやなんでログハウス?」
気になっていたことを璃砂に聞いてみた。
「えっと……言うのちょっと恥ずかしいけど――」
「ログハウスで恥ずかしがることなんてあるか?」
邪神のせいで俺と璃砂の関係でも割とラインすれすれか、下手したら越えている事柄まで明るみになってしまった気がするんだが。スク水とか彼シャツごっことか。普通に考えたらドン引きされて当然の行為だからな……。
あ、俺のヤツの話な。璃砂の彼シャツごっこに関しては、可愛いなぁ……で済む話だ――訂正。体操服は微妙かもしれない。あの匂いフェチにとって、俺の汗のニオイってどういう認識なんだ? 知りたいような知りたくないような……。
「お城とかはどうでもいいけど、ログハウス生活には憧れがあったり……?」
なんて俺の顔色を窺ってくる璃砂。正直意外だ……。あ、でも2家族合同旅行で泊まったコテージがログハウスだったときが何回かあったな。今にして思えば、そのときは璃砂のテンションが高かった気がしなくもない。でも旅行のときって基本的にテンション高いからなぁ、璃砂。
「そうなんだ?」
「……それだけ?」
「俺も嫌いじゃないし構わないぞ」
「そ、そう?」
なんか俺たちにしては珍しく妙な空気になっちゃったな……なにが原因だ? まぁ、不機嫌どころか逆に嬉しそうだし、別にいいか。
転移先の『ログハウス』を選択すると、俺の足元に魔法陣が広がっていく。色は水色。璃砂もほぼ同時に操作したらしく、魔法陣の色は赤だった。属性の色って感じかな?
……これって座ったままでいいのか? この状態で転移するなら立っていたほうがいいよな? そう考えて立ち上がると、隣でも立ち上がる気配。どうやら璃砂も同じことを思ったらしい。
――今更だけどさ……璃砂は制服姿に戻ってるのに、俺はいつまでこの格好な訳? 揃って魔法少女姿ならともかく、俺だけっていうのはキツい。なにがキツいって璃砂の視線が! 間違っても男に向けるモノじゃないのよ……女同士でもアウトだろうけどな!
「――じゅる」
ひぃ!? 『じゅる』ってなにさ!? 幼馴染が初めて見せる表情。文字にすると可愛いけど、実物は……きしょい。あくまで今回は、だが。念のために心の中で付け加えておく。
「それじゃ転移っと」
邪神はアプリを使わずに自力で転移可能らしい。しかも魔法陣も展開しないのを見るに、魔法とは別の力なのか? ある意味では納得だ。こんなでも神様だしな。チュートリアル戦闘の最中も、瞬間移動していたり不可視の力を使ってたし。
「っ」
いきなり視界が水色に染まった――と思ったら、次の瞬間には屋内に居た。壁の大部分は丸太だ。鼻をくすぐるように仄かな木の香りが漂ってくる。
「うわぁ~、いい感じじゃない」
璃砂が感嘆の声を上げながら周囲を見渡している。
「だな」
素直に同意だ。中央に4人がけのテーブルと椅子が置いてあり、その奥はキッチン。左側は大きな窓があって、外はテラスになっているっぽい。外は夜で、室内の明かりが頼りだから広さまではわからない。この明かりは魔力なんだろうな、きっと。それともまさかの電気か?
次にキッチンとは逆方向に目を向けると廊下が続いていて、奥には玄関の扉が見えた。ん? 脇に階段もあるな。2階もあるってことか。上が寝室なのかもしれない。廊下の途中にあるふたつのドアは恐らくトイレと、洗面所にお風呂場だろうな。
「2階に行ってみましょ」
「わかった」
階段を上がると、廊下が伸びていて左右にふたつずつ扉がある。試しに一番近かった右手前を開けてみると、ガランとなにも置いてない空室だった。なら反対側は? と左手前も覗いてみるがこっちも空室。
「あれ? 私、2階には寝室だけで空室なんて配置しなかったはずなんだけど」
「そうなのか? ってことは邪神がやったのか?」
「ほら、メイドの猫又は一緒に住むわよね? 越後の龍はログハウスじゃなくて城の気がするけど」
「あっ、私そこまで考えてなかったわ」
「仕方ないわ。モンスターを決める前に間取りを考えたでしょ? 順番的にね」
……なら1部屋多くね? まぁ物置代わりとか使い道はいくらでもあるだろうけど。
「奥の部屋はっと」
璃砂の言葉的には寝室らしい。右、左、ときてるから右からいくか。右奥のドアを開くと――ものすっっっっっごく馴染みのある光景が広がっていた。ぶっちゃけ俺の部屋だった。芳香剤の匂いまで同じだ。
「部屋は取りあえず日本のを完全に再現しておいたわ。ちなみに璃砂の希望よ」
「……そっすか」
理由は想像つくんだよなぁ……さっき俺たちのコピーがキスしてるのを見て『……いいなぁ』って漏らしてたもんな。いつか自分たちも部屋で同じように……なんて思ったんだろうな。
「ほら、いきなりこんな異世界に来た訳じゃない? せめて自分の部屋くらいは馴染みのあるモノにしたいなって」
………………恥ずかしっ! これじゃ俺が期待しているみたいじゃんかよ!? いや、期待したのも事実だけどさ!
「透ちゃんどうしましたか?」
読心で全部わかっているだろう邪神がわざとらしく声をかけてくるのがウザい!
「透? ――あ、あぁ……」
そんな俺たちを見て、誤解なく察する璃砂。これだから付き合いの長い幼馴染はさぁ!
「ふたりとも疲れたでしょ? 肉体的にも、精神的にも、ね。特に璃砂は1回魔力切れになってるし夕食を……もう夜中だし夜食ね。適当に食べて今日は休みましょ」
あの、邪神様? この流れでそうきます?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます