ダンジョンモンスターを選ぼう。そして違和感

「次は最初のモンスターね。透が戦闘時の副官を。璃砂が秘書を選ぶのはどうかしら?」


「わかった」


「わかったわ」


 俺も璃砂も特に異論はない。邪神がそう言うなら、それなりの理由があるんだろうし。


「戦闘時の副官なら能力が高いのを選ぶべきだよな」


「一緒に居る時間が長くなりそうだし、見た目で選ぼっかな」


 きっとかわいい系の女の子になるんだろうな……璃砂のことだし、簡単に想像がつく。まぁ、それはそれで構わないか。


 さて、俺も探しますかね。どれどれ……? ゴブリン軍師にオーク将軍? ……なんか微妙だな……。能力的にも不安だし。いや、ファンタジー作品にはバグみたいに能力の高いゴブリンやオークが出てくることもあるけど、表示されているのが同類とは思えない。それに魔法少女との組み合わせがそこはかとなく嫌な予感がする。ダンジョンに住む一般モンスターならともかく、副官には置きたくない。


 そもそも戦闘時の副官って何を重視するべきだ? 前線での部隊指揮か、後方からの全体的な指揮か。それとも策を考えるのか。色々とあるよな……。


「璃砂。そこはメイドのページよ?」


「私も透も家事とか苦手だから。正直、生活能力の高いのが居ないとマズいわ」


「……そう」


 聞こえなかったことにしよう。任せるって決めたんだしな。璃砂が心配しているんだから本気でマズイのだろう。脳裏に蘇るは、俺手製の焦げたチャーハンと、璃砂お手製の甘いわかめスープが並んだいつだかの昼食。うん、璃砂に賛成かもしれん。


「ん?」


 スクロールして送っていたリストの中にすごい名前を見た気がする。慌てて前のページに戻ると……あるな。念のため目を閉じて深呼吸。消えてない。どうやら見間違えじゃないらしい。


「邪神様? とんでもない名前が乗っているのですが?」


 思わず敬語になってしまった。教科書で見る肖像画とはかけ離れているどころか性別まで違うけど……見た目は長身のスレンダー美女。雑誌モデルをやっていそうな女子大生。そんな姿になった越後の龍が載っていた。


「あ、見つけちゃった? なぜか載ってるのよねー? 性別が違うから別人じゃないかしら? 女性説なんて知らないし?」


 絶対に邪神の仕業じゃん! ありがたいけど! 迷わず選ばせて頂きます! 全体の指揮とか野戦は完全に任せられそうだ。ただこの人って籠城戦はどうなんだ? 


「透決まった?」


「ああ、越後の龍を見つけた」


「越後の龍? ……っ!? 上杉謙信!? なんでそんな人物が居るのよ!?」


 ほんとにな!


「璃砂はどうだ?」


「私も見つけたわ。インパクトはないけど、この子がいいと思う」


 ……この子? 璃砂が操作するタブレットを覗き込むと、表示されていたのは中学生くらいの女の子だった。黒髪で茶色いネコ耳が生えている。ミニスカメイド服を着ていて……胸デカいな……。たわわに実っている。


「猫又?」


 種族にはそう書いてあった。越後の龍みたいに固有名じゃないんだな。普通は種族と見た目だけで選んで、名前は自分たちで付ける形なんだと思われる。ますます『上杉謙信』の異常さが際立つ。


「かわいいでしょ? 抱きしめるとフカフカしそうで、モフモフも可能よ」


 ……完全に璃砂の趣味だった。ってまてよ? 猫又の姿を見る。自分の姿を見下ろす。余計なことに気づいたかもしれん! 俺の格好って璃砂の趣味じゃね!?


「璃砂。ひとつ聞いていいか? お前って魔法少女アニメとか結構好きだよな?」


「ええ」


 俺の目を見て頷く璃砂。


「俺が魔法少女になったら、どんな風になるかな? とか、なって欲しいな、って妄想したことあるか?」


「……黙秘します」


 プイッと視線を逸らされた。


「……そっすか」


 俺がこんな身体になったのって、璃砂の妄想が反映されているってことか! 納得だよ! ってことはだよ? まさか璃砂の格好は――なんか思い当たる節があるなぁ……。


『乳袋って2次元ならいいけど、リアルだと恥ずかしいだけよね』


『1回試しにコス衣装買って着てみたらどうだ? 爆笑してやるから』


『あんたが見たいだけでしょうが』


 なんて会話まで蘇ってきた。


「……ねえ透。私も質問いい? というか、するわね」


 あ、ヤバい! 絶対に同じ会話を思い出してる!


「……どうぞ」


「私が美少女ゲームの制服を着ているのを妄想したことある? あるわよね?」


「…………黙秘権を行使します」


「変態! 幼馴染でどんな妄想してるのよ!」


「お前にだけは言われたくないんだが!」


「これで無事にモンスターも決まったわね。あとは……あ、居住スペースの設定ね。魔力に余裕ないし、璃砂が湖のほとりに望んでいたログハウスでいいわね。安いし。5層の本丸の奥に設置と」


 俺と璃砂がお互いを指差して声を張り上げているのをスルーして、自分のタブレットで設定を進めていく邪神。


「下半身のラインは頑張って出してるでしょ!? 脚とお尻がコンプレックスなの知ってるわよね!? 更に胸のラインまで出せって言うの!?」


「言ってねえよ! むしろ普段はあんま出すな! ふたりのときはいいけどさ! 喜んで見てやるよ! ありがとうございます!」


「……ちなみに、胸のサイズも透の妄想?」


「それに関しては璃砂ちゃんの願望ですよ。CカップからDカップ」


 あ、このタイミングで入ってくるんだ……ようわからん。


「さ、サイズを言う必要ないわよね!?」


 言えない。元からバストサイズを知っているとか言えない――あれ? なんで璃砂のバストサイズなんて知ってんだ俺? 璃砂と水着を買いに行ったときにタグでも見たか? ……たぶん違うな。恐らく誰かに教えてもらったんだろうけど……? 誰だ? 思い出せない? 確かクラスの女子友達――?


 ――ゾクッと背筋に冷たいものが走った。え? なんで思い出せない? おかしいおかしい! 部活の先輩後輩もしっかり覚えているのに、クラスメイトだけ――じゃない! 同じ学年のヤツの顔と名前が思い出せない。


「妾が言わなくても透ちゃんは幼馴染がCカップって知ってたみたいよ」


 邪神が言わなくてもいいことを口に出す。まるで、余計なことに気づくんじゃないと言われているみたいだ。


「はぁ!? まさかスク水みたいに私のブラを無断で――」


 邪神を問い詰めたい。が、今じゃない。璃砂の記憶も抜け落ちているのかが判断つかない。ここはいつも通り返すべきだ。


「んな訳ないだろうが! どういう発想してんだよ!」


「スク水に関しては事実でしょうが!」


「さて、決めること決めたし、あとはダンジョンが生まれるのを待つしかないのよね……ログハウスだけは優先して――はい、完成と。残りは規模的に一晩ってとこね。ふたりともー」


「「この変態がぁ!」」


「両方とも一般人よりも変態だから安心しなさい。それよりも移動するわよー」


 なんて言いながら俺の顔をじーっと見てくる邪神。まるで、俺の記憶の空白部分を確認しているかのようだった。

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