実際にダンジョンを作ってみよう

 俺と璃砂はそれぞれ渡されたタブレットの画面に視線を落とす。既に電源が入っていて、いくつかのアプリが並んでいる。なになに……? ダンジョンアプリ・魔法少女・透&璃砂ライブ……? 本来は前2つを気にするべきなんだろうけど、最後のが気になってしかたない。


「この『透&璃砂ライブ』って何かしら?」


 やっぱり璃砂も気になったらしく邪神に聞いていた。


「それは地球の日本に残ったふたりのコピーのリアルタイム映像ね。本当は、日本での生活のことなんて忘れてダンジョン運営に集中しなさい。って言いたいんだけど、無理だろうしね。いちいち質問されるのも嫌だから、ならばいっそのこと自分たちの好きなタイミングで確認できるようにしちゃえ♪ って訳ね」


「へぇ……」


 璃砂さん? 興味がない風を装っているが、本心は真逆なのバレバレだぞ。


「悪いけどそっちは後回しにしてもらえる? ダンジョンの作成だけは先にしておかないと、今日寝る場所にも困ることになるわ」


「それは嫌ね……ベッドなんて贅沢は言わないけど、せめて暖かく眠りたいわ」


 同感。


「今居るこの場所は?」


「初期設定のダンジョンよ。入口からダンジョンコアまでの洞窟一本道」


「ダンジョンコア?」


 説明には出てこなかった単語だ。なんとなく想像はつくけど。


「ダンジョンの心臓ね。魔力タンクも兼ねているわ。破壊イコールふたりの死だから、なんとしても守ること。逆に言えば、コアさえ無事なら仮に死んでも蘇生可能ね」


「……」


 すっげー不吉なこと聞いたって! 璃砂が息絶える場面とか見たら発狂する自信あるんだが!


「そんな心配そうな顔しなくても、魔法少女は戦闘職として頑丈で精神耐性も高いからそうそう見ることにならないと思うわよ」


「…………そっすか」


 魔法少女って職業なんだ!? ――ん? 待った。頑丈。精神耐性が高い。本来は安心要素のはずなのに、邪神が言うからなのか不安を煽ってるんよなぁ。


「ダンジョンアプリをタッチしてもらうと、メニューが出てくるわ」


「どれどれ」


 言われた通りにタッチすると、ウインドウが開いて『ダンジョン配置』『魔力』『住人リスト』『モンスターリスト』『生産』……なんて項目が現れた。スクロールすると下にもまだありそうだ。


「なんとなく項目ごとにできることが想像つくでしょ? それの『ダンジョン配置』を選んでもらえる? そうするとダンジョン内を好きに弄れるわ。もっとも、変更には魔力を消費するから無限には無理だけど」


 邪神の言葉に従って『ダンジョン配置』を開いてみる。表示されたのは一本道だった。なるほど、これが今いるダンジョンってことか。よく見ると、タブ切り替えが可能で、現在は1層だった。他にも小さな別ウインドウにツールが並んでいるようだ。ツールのアイコンが結構わかりやすい。道・壁・罠・建造物・設備などなど、見たまんまっぽい。所持魔力と、必要魔力、維持に必要な魔力の数値まで表示されているし……似たようなゲームやったことあるな。街の市長になるやつとか。これなら操作に迷わないで済みそうだ。



「試しにふたりでダンジョンを作ってみて。同時に起動して同じ層を弄れるから。迷路に関しては自分たちで全部作っても良いわ。面倒ならツールリストの中にある迷路を選んで、入口と出口に範囲と難易度を設定すれば自動で生成してくれるわ。それと追加ギミックから定期的な順路変更とかも設定可能よ」


 完全にゲーム感覚だな。その分、楽しそうでもある。ぶっちゃけ、その手のゲームは好きだし。


「透、似たようなゲームをやってなかった? 時間泥棒だーっ! なんて言ってた覚えがあるわ」


「璃砂だって好きだろ」


「まあね」


「あ、魔力配分だけ気をつけてね。初期の魔力である程度の数のモンスターまで作らないとならないから。特に4層の水棲と飛行系モンスターには魔力が掛かっちゃうはず。だからダンジョンの構造に使える魔力の目安は全体の7割くらいまで。ふたりが考えていたダンジョンだと、3層のギミックと、5層の山城に結構な魔力が掛かるから。逆に1層2層は安く作れるわ」


「ふたりで1層から順に作ってもいいけど、時間の無駄な気がするのよね。私が簡単そうな上の3つを担当するから、透は5層からお願いしてもいい? 次に4層」


「別にいいけど、なんで5層から?」


「だってあんたの方が山城の設備とか配置に詳しいじゃん。少し前に歴史ゲーにハマってたし、タワーディフェンスゲームとか得意だったでしょ」


「なるほど。そういう理由なら俺が担当するわ」


「いやぁ……今まで送り込んだダンジョンマスターの中でいちばん手が掛からないで楽かも。やっぱ若くてオタク趣味持っていると適応が早いのかしらね…………妾に対する態度は1番酷いけど」


「透、早速始めましょ」


「そうだな」


「…………ホントいい性格してるわ」



☆☆☆



「こんな感じか?」


 ようやく納得できるモノができた。正確には、使える魔力の中では、の話だが。山城は当然ながら、平原部分にも高低差を作るためにいくつかの丘や、足場を乱す小川なんかを追加したせいか魔力が全然足りない。本音を言うと山城にもう少し櫓なんかを増やしたいし、山中に奇襲ポイントを作りたい。後半は他にもアレもコレもと、考えれば考えるほど弄りたい箇所が浮かんでくるという状態だった。


「あ、終わったのね」


 タブレットから目を上げた俺に気づいた邪神が声を掛けてきた。最初は防衛施設だからと俺にアドバイスをしてくれていたけど、問題ないと判断したのか途中からは璃砂と一緒に作業していたみたいだけど……とっくに終わっていたっぽい。俺がどんだけ集中してたんだって話だ。


「そっちは?」


「こっちは4層まで終わってるわ。5層のデータを合わせて全体を確認すると……あら? 想定よりも魔力を食っちゃってるわね」


 困ったように言ってくる邪神。なんか段々と感情を出してくれるようになった気がする。良いことなのか悪いことなのかは判断に迷うが。


 それにしても4層まで終わってるのか。璃砂に申し訳ないな……なにかで埋め合わせしないと。邪神? そっちは別に。


「魔力ってもしかして俺のせい?」


 だいぶ拘ったからな……。


「いえ違うわ。妾と璃砂で1層から4層まで作ることになるとは思わなかったけど」


「いや、本当に申し訳ない」


「妾には別に謝ることないわ。横からマズい点を指摘していただけだし。操作は全部璃砂だから。それに、もしものときは籠城することになるんだから山城に時間を掛けるのは正しい」


「ちなみに魔力を食った理由は?」


「4層に砦を作ったのが原因ね」


「……砦? どうしてそうなった?」


「璃砂ちゃんがー、別荘的なのを作りたいって言い出したからですねー♪ ただの家だと冒険者や攻略軍に荒らされるだけだって言ったら、砦になってましたぁ~」


「璃砂?」


「だ、だって……し、仕方ないじゃない。せっかくの湖なら遊びたくなるかなって……一緒に」


 ボソッと付け加えられた『一緒に』はしっかり聞こえている。


「だそうですよ? 透ちゃん?」


 な、なにも言えねぇ……俺も水遊びできそうとか思ってたし? もちろん璃砂の水着姿が目当てですがなにか? というか、毎年璃砂が新しく買った水着を見るのも楽しみのひとつだったからな……。お披露目のタイミングは毎年夏休みに2家族合同で海とかプールに行ったときだ。まぁ、一緒に買いに行くから試着で見ては居るけどな。でも気分的に違うじゃん? 試着室と海やプールって。


 ちなみに2家族合同の旅行は両親4人が親友同士だからか、物心ついた頃には定番化していた。。年2回で、冬は関東北部のとある温泉地でコテージを借りていたりする。九尾の狐伝説のあるあそこだ。


「まだ確定してないから変更可能ですけど?」


「……そのままで」


「……よしっ」


 もしかしなくても……璃砂の方が、湖で遊びたいって気持ちが強いのかもしれない――なんて思った。

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