ダンジョンの方向性を考えよう
「とりあえず必要な説明は終わったかしらね」
邪神がどこからともなく取り出したメモ帳をペラペラとめくりながら頷いている。そういや説明にホワイトボード使わなかったな。今のところスクリーン代わりに使っただけだ。本当に会議っぽさを演出するためだけに出した感が……。
「もしあとから疑問点が出た場合は答えてもらえるのか?」
「それはもちろん――って言いたいところだけど、タイミング次第って感じになっちゃうかしらね。妾がこの分身体に意識を入れているときはすぐに答えられるわ」
「分身体?」
「あ、説明していなかったわね。妾は地球の日本地区を担当している最高神よ。名前は色々とあるから好きに呼んでいいわ。邪神でもいいわよ?」
なんとなく璃砂と顔を見合わせた。恐らく考えていることは同じ――なら遠慮なく邪神で――だ。
「それで分身体って言うのは、妾が現地で活動するための器みたいなモノね。依代人形って言ってもいいわ。日本のあっちこっちの神社で祀られていたり、ごく一部の家系が管理していたり。妾が必要なときに意識を宿して活動可能なようにしているのよ」
あー……目の前にあるのは本人――本神? じゃなくて、文字通り人形な訳だ。
「流石に常にここに居るのは無理。妾は本来、日本を管理するのが仕事だからね。当然だけど。暇なときはなるべくサポートに回るようにはするけど……正直、緊急事態に都合よく居るとは思わないほうがいいわ」
「わかったわ」
「了解」
頷く俺たちを見て、邪神もひとつ頷いた。
「さてと次にやることは、ダンジョンの構造を考えるのと最初のモンスターの召喚ね。このモンスターっていうのはダンジョンに生息するゴブリンとかじゃなくて、透たちの補佐をするための存在よ。戦闘時の副官的なのと、秘書的な感じのを1体ずつね」
なるほど。
「どっちが先とかあるのか?」
「どっちが先でも構わないわ。でもダンジョンを先に考えるのをオススメするわ」
「どうして?」
「ふたりを相手に喋っているのに、息がぴったりすぎてひとりに思えてくるわね……目の前で言い争いされるよりは楽で――って十分していたわね……」
やれやれと首を振る日本人形。すげー人間臭い動きだった。
「んんっ、ダンジョンを先に勧める理由は簡単よ。その方が透と璃砂の思い通りに作れるし、戦いやすい地形に設定できるでしょ? どうしてもあとから弱点とかが出てきちゃうから、それをモンスターで補うのが良いと思うわ」
あー確かに。言われてみるとその通りだ。お気に入りのモンスターを召喚したとして、そのモンスターが能力を発揮できるダンジョンが俺と璃砂にとって戦いやすいかわからないしな……。なら自分たちを優先して弱点を補うことを考えるべきか。生き残っていくためにも。
「逆に私たちの戦闘スタイルと相性が良いモンスターを召喚して、特化させるのはどうなの?」
璃砂の意見もありだとは思うぞ? これが現実じゃなくてゲームならロマンを求める感じで賛成したかもしれないが……。
「それ怖くね? 特効を持った敵が攻めてきたら詰みそう」
「……それもそうね」
璃砂も納得したらしい。これでダンジョンから考えることが決定と。
「もっとも透と璃砂の場合は氷と火でお互いが特効な気もするけど。さっきのチュートリアル戦もお互いの魔法が干渉して何回か失敗してたわよね?」
「設定したの邪神では?」
「いえ、生まれ持った素質よ? ふたりが最初から魔法のある世界に生まれていたら扱えるようになっていたはずの属性」
「そうなのか?」
「なんか意外よね」
だよな。すごく意外だ。もし魔法の素質があったらなんて妄想したこともあるけど、てっきり同じ属性かと思ってた。
「そうかしら? だからこそ相性が良いんじゃない?」
そんな考え方もできるか。
「まぁいいや。今はダンジョンのことを考えよう」
「それもそうね」
「ダンジョンは初期だと全5階層あるわ。どうする?」
どうするって言われてもな……。パッと思い浮かぶのは――。
「取りあえず最初は入り組んだ洞窟だよな?」
「迷路に見えて、入口から続いている真ん中の道が正解で実質1本道とか面白いわよね? 他は全部行き止まり。モンスターハウスにするのもありね。最初はともかくある程度の月日が経てば、素材目的なら脇道に逸れる。下を目指すなら直進してくる。そんな風に区別つきそうじゃない?」
「なら2層目は全部の分岐の正解が右とか? 他の道に入ると迷路に迷い込むって感じか」
「じゃあ3層は逆に完全な迷路ね。しかも可能なら定期的に道順が変わって地図を作っても意味がないようにして……」
璃砂の言葉に邪神を見ると、小さく頷いた。なるほど、定期的な変更も可能と。ってことは、あとから全く別のモノにもできそうだな。
「4層は一気に雰囲気を変えて一面の海は?」
「透、それは無理。階層の移動は階段になるんだけど、ちゃんと道が繋がってないとだめよ」
そうなのか。となると……。
「なら大部分が湖は? 階層の入口から、次に繋がる階段まで湖を迂回する形で細い1本道があればどうだ? 道を進むと、湖や空からモンスターが攻撃する感じで」
「湖なら透の魔法で凍らせられるし、敵が氷上に出たら私の魔法で一気に溶かせばいいもんね。ありだと思うわ」
べ、別に4層くらいになると侵入者も少なそうだし、璃砂と水遊びできそうだなんて思ってないぞ?
「…………」
なんだか邪神の目がジトーと俺を見ているが気づかないフリをする。読心メンドイ。
「5層はどうする? いわゆるボスの居る層になるのよね? 最下層だし」
「その通りね。悪いけど、先に拠点の形を考えて欲しいわ。と言っても、大半のダンジョンマスターは城にするけど。最後は籠城することになるしね」
「お城かぁ――」
お、璃砂も意外とお城とかに憧れが――
「――住みにくそうね。でも籠城するなら一軒家って選択肢は馬鹿だし……」
――ないわな。あったら俺が知らないはずがない。
「質問。その城ってヨーロッパ風なのか? それと俺や璃砂がダンジョン内を移動するのにテレポート的なのは可能だったりするのか? のふたつ」
それにしてもお城ねぇ……ふと、頭に過った考えがある。璃砂の住みにくそうって点もある程度軽減できるはずだ。
「ええ。地球出身のダンジョンマスターはだいたいそうね。たまに例外も居るけど。ちなみに補足すると、この世界のお城もほぼ同じ感じよ。ふたつ目の質問だけど、ダンジョンマスターと、ダンジョンマスターに認められて住人と登録されている人間はテレポート可能よ。どこでもってわけにはいかないけどね」
例外が気になるが……邪神が説明しないってことはオススメしないんだろうな。そのくらいは信用している。
ふたつ目が可能なら、提案してみたいことがある。
「日本の戦国時代みたいな城は作れたり? 山城にして本丸の位置か、更に奥に住みやすい居住スペースを作ればいいかなと。ダンジョン内の移動が楽できるなら山のてっぺんに家があっても問題ない、よな?」
後半は璃砂への確認だ。
「あ、それなら生活の不便さはマシになりそうね」
「だろ? 地形を自由にできるなら山城で、更に川で囲って堀代わりにすれば防御力上がりそうだし。もし勇者なんかが攻めて来ても、日本人なら同郷だって気づいてくれるだろうし」
「ならそこに追加したいのがあるわ。5層の入口から城までは草原にしちゃえば? ダンジョン攻略だと思って軍勢を送ったら野戦になっちゃうの。敵が少人数ならそれはそれで――」
「――草原なら璃砂の火力が活かせるだろうしな。加えて相手に合わせて魔法で火の海にも、氷の地面にもできる。しかも向こう視点だと、仮に野戦で勝っても次は攻城戦が待っている」
「それも山城相手の、ね」
「欠点は軍勢で来られると陣を張られちゃいそうだよな……」
「そこは4層の細道で物資を狙って削るしかないんじゃない?」
「道を無視して湖を進まれたら?」
「あ、そっか……でもダンジョン攻略に船を用意するかしら?」
「そもそも魔法で空を飛んでくる可能性は? 他にも、道を作られたら? 土魔法とか。俺だって氷で道を作れると思うぞ」
まぁ、自身の魔力量すら把握してないんだけどな。実際に可能かは知らん……その辺も確認しなくちゃならないのか。やることがいっぱいありそうだ。
「うーん……そこは考えないとマズけど……ダンジョンの方向性は決まったわね」
「だな」
「こうもスムーズに決まるとは思っていなかったわ。ふたりを選んで正解ね。ならダンジョンを作りましょうか」
そう言って邪神はタブレット端末を取り出すのだった。
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