ダンジョンの説明を聞こう

「……ひとつだけ確認。もし俺たちが断固拒否した場合はどうなるんだ?」


「放置することになるわね。ダンジョンが攻略されようが知らないわ」


「仮に受け入れたらどうなるのよ?」


「生き残っていけるようにサポートするわ。もっとも、そうは言ってもできることは限られちゃうけどね」


 選択肢ないじゃん!


「璃砂どうする?」


 一応、璃砂の意思を確認してみる。勝手に決めてあとから怒られるの嫌だし。それこそ死ぬまで一緒に生きていくことになるっぽいしな。いくら幼馴染だって――幼馴染だからこそ、こういう確認は大切だ。


「受け入れるしかないと思うんだけど? 私に確認するフリして、決定権をなすりつけようとするのやめて」


「違うぞ? ふたりでしっかり相談してから決めようって思っただけだ。俺も受け入れるのに賛成だし」


 いや本当に。璃砂の考えすぎだ。


「そ。ならいいわ」


 声色の感じ的に本気で思ってた訳じゃないな。俺と同じで、ふたりで決めたってことを言葉にしたかったっぽい。


「俺たちダンジョンマスターやってみるよ」


「……感謝するわ」


「ところでサポートって言っても、あんまり邪神が関わるとマズいのでは?」


 さっきの説明だと、人間同士の争いを望まれているみたいだし。


「それに関しては大丈夫。あのクソ野郎、この世界に自分で作った宗教で唯一神として崇められていてね? ダンジョンは異世界の悪魔が作ったことになってるのよ。悪魔に騙された異世界人が運営している、ってね。ダンジョンマスターを悪魔から解放するために戦い殺せ。そのためなら祝福を授けようなんて言って聖剣作ったりノリノリだから。それにダンジョンのモンスターから取れる素材で作られた武器や防具で兵が強化されて、戦争でも起これば万々歳。実際、起こってるし。妾が一緒に戦ったりしなければ問題ないわ」


 本当に人間同士の争いならなんでもいいんだ……。


「それじゃ次にダンジョンの説明をするわね。といっても、オタ趣味を持っているふたりには馴染みある単語でしょ? ダンジョン」


 なんか俺たちを選んだ理由のひとつが透けたな……果たして良いんだか悪いんだか。


「まぁ、ファンタジー系に触れていれば高確率で出てくるし」


 璃砂が邪神の言葉を肯定すると、邪神も頷く。


「そうそのダンジョン。モンスターが徘徊していて、冒険者が素材目的でやってくる。時折、氾濫が起こって周囲の村や街に大きな被害を出すアレね」


 うん、よくあるダンジョンだ。璃砂も頷いたのが感覚で伝わってくるんだが……太ももを撫でる髪が地味にくすぐったい。女体化の影響なのか、感覚が鋭くなってる気がするな……。


「異世界の神々がこの世界に作るダンジョンも基本は同じよ。魔力の貯蓄、増幅、変換用の装置ね。存在するだけで周囲の魔力を乱して、環境を悪化させていく」


 ふむふむ。


「中で人間やモンスターが死ぬと、魔力として吸収して一定以上溜まると成長。要するにレベルアップする訳ね」


「レベルって概念があるの?」


 璃砂が気になったのか質問している。


「ありますよ? もちろんおふたりにも。今はダンジョンマスターとしても、魔法少女としてもレベル1ですけど」


 どうして敬語モードになるんですかね? 説明を遮られて苛ついた?


「自分のステータスを確認できるの?」


「無理ですね。ここはゲームの世界じゃないんですから。もっとも、レベルがいくつか上がっていけば成長を実感できるとも思いますけど」


 なるほど。


「わかったわ」


「ちなみに、璃砂ちゃんは性欲の数値が透ちゃんの1.5倍ありますね」


「ぶふっ!?」


 思わず吹き出した俺は悪くないと思う。


「――んな!?」


 ワンテンポ遅れてガバっと身体を起こす璃砂。真っ赤な顔をして俺を睨んでくる。


「俺を睨むな」


「う、く……この、邪神が……っ」

 

「変態度は同じくらいなのでホントお似合いだと思います」


 怒ってる敬語モードじゃなくて、からかうための敬語モードかい!


「こんなロリ巨乳になってる男と変態度が同じくらいっていうのも納得できない!!」


 立ち上がり、ビシッと俺を指差す璃砂。よかった、立てるくらいに回復したんだ……なら遠慮なく反論できる!


「誰がロリ巨乳だ!」


「自覚あるんじゃないのよ!」


「俺を指差しながら言ったからだろうが!」


「はいはい、続きはあとにしてもらえるかしら? そんでダンジョンは溜めた魔力を使ってモンスターを生成。ある程度増えたら周囲に放って暴れさせるのが目的のひとつね。とは言っても、たぶん透と璃砂は良心が痛んでできないと思うからモンスターの氾濫は期待してないわ」


 場を乱す原因を作るだけ作って説明に戻る邪神。いい性格してるよなぁっ。ただ続けるとどんなネタが飛び出すかわかったものじゃない。璃砂も渋々といった感じで俺の隣に腰を下ろした。


「そんな訳で、ダンジョンってその地域で暮らす人間には邪魔な存在なの。一応、モンスターから取れる素材が生活に役立つけど……基本邪魔よね。周囲の環境を悪化させるのがマイナス面として特に大きいわ。ダンジョンは成長を続けると、周囲に人間が住めない環境にまでなるから。火山地帯とか、氷の大地とか。そこまでいくと魔王って呼ばれるわ。まぁ世界を乱すために作っているんだから当然だけど」


 モンスターの素材なんて与えなきゃ良いのにと思ったけど、それが重要なんだろうな……人間の争いの元になるように。クソ野郎に見逃されるように。


「透たちに期待しているのはダンジョンを防衛して、魔力を溜め込んでいく。レベルを上げて、周囲の環境を破壊する。この世界の人々に魔王って呼ばれる存在を目指すことになるわ。ふたりで末永く生きていくために自衛を頑張りなさいってこと」


 暗に、生き残るためには殺すしかないぞ? 自分から暴れろとは言わない。自己防衛って名目をあげるから。とプレッシャーを掛けられている気がする。


「ダンジョンは生まれた初期は、冒険者やお小遣い稼ぎをしたい力自慢なんかがモンスターの素材目的で集まってくるわ。周囲の環境に影響が出始めると、国が動いて攻略を目指してくる。ただ軍勢を使った攻略に関しては、失敗すると大勢の死体を吸収されるからと慎重になる国もあれば、攻略に成功すれば大量のモンスターの素材と環境が破壊されて人の居なくなった土地を手に入れられると積極的になる国があったり様々ね」


「俺たちのダンジョンの場所は? 周りにヤバい国があったり?」


 目の前の邪神が安全な場所に作ってくれるとは思えないんだよなぁ。


「勇者召喚して積極的にダンジョン攻略している帝国の近くだけど? 勇者のせいで攻略成功率も高くて、下っ端の兵士も他国の騎士並の装備ね。絶賛、周辺の国々に戦争をふっかけてるわ。これだけなら天下統一できそうだけど、軍が力を持ちすぎて内乱が多くてね? 数年ごとに皇帝が代わる情勢が最も不安定な国でもあるわ。それでも周囲の国に滅ぼされないんだから力を持ちすぎよね」


 そんなことだろうと思ったよ! だから勇者召喚を繰り返してるんじゃねえの!?  って――


「待った、勇者召喚してるってことは……下手したら日本人が攻めてくることもあるってことか?」


「ええ。その場合は保護してもらえる? 日本に送り返すから。とは言っても、元の生活には戻れないけどね……関係者を悲しませないために記憶消してるから。本人の意思次第だけど、帰って残りの人生を送るか来世に期待するか選ばせるわ」


「私と透ちゃんが死んだときは?」


「もし奇跡的に魂を回収できたら来世でも幼馴染にしてあげるわ。今回のお詫びに幸せな人生もプレゼント」


 話自体は魅力的だよ? でもさ――基本無理って言ってるのと変わらねえよな!?


「あ、間違ってもクソ野郎に魂を拾われちゃだめよ? 恐らく来世以降、記憶を維持したままで殺し合わさせられるから」


「「そっすか……」」


 俺と璃砂がまったく同じ反応を返した。最悪だよ! 邪神が『クソ野郎』って呼ぶだけあるわな!


「話をダンジョンの位置に戻すわね。周辺には色んな神々がダンジョンを作っているわね。みんな自分の世界の人間を帝国に拉致られているから、反撃とワンチャン被害者の回収を考えて」


 記憶が正しければダンジョンマスターは『話の通じない愉快犯だらけ』って……。これ敵だらけでは?


「邪神様! 質問!」


 璃砂……もう堂々と邪神言ってるし。俺もだけど。


「はい、どうぞ」


 邪神も怒らないという……。


「最寄りのダンジョンマスターはどんな相手? 話がちょっとは通じたり?」


「…………魔法少女は苦労するかもね。ある意味で天敵だし」


「それってどういう意味?」


「地球とは別の世界から送り込まれたダンジョンマスターなんだけど……年齢はふたりと同じ17歳。女性。ガチ百合。触手に捕まっている女の子を眺めるのが好きで、男は速攻殺して女は必ず生きて帰れるダンジョンを運営しているわ。モンスターはスライム系や植物系、軟体生物系ばかり。もちろん、地元の女性冒険者や兵士からは忌み嫌われているわ。ただ命の保証があるから潜る女性もまた多いという感じね」


 なるほど。


「璃砂、行ってこいよ。ご近所付き合いは大切だろ? なにより男は嫌いみたいだし」


「あははははは! 透ちゃん。自分の身体を見下ろしてみなさいよ。私は責任持って留守を守ってるわ!」


「……妾のことを邪神と呼んで、いい性格してるとか思っているみたいだけど……ふたりも中々にいい性格してるわよね」


 呆れた雰囲気を纏った邪神の言葉をまったく否定できない俺と璃砂だった。

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