普通に考えたら、説明が先では?
「透ちゃん、ありがと」
ソファに腰掛けた俺の脚に頭を乗せた璃砂の第一声がそれだ。幼馴染は無防備に仰向けになって顔だけを邪神の方へ。膝を立てているのは璃砂の癖みたいなモノだった。
普段なら膝枕なんてすれば「なんで膝枕なのよ!?」と怒るか、「どう? かわいい幼馴染を膝枕できて嬉しい?」なんてからかってきて騒がしくなるだろうに、珍しく素直だ。
もしかしたら見た目以上に魔力切れの症状がキツイのかもしれない。そういえば、中学の頃にインフルエンザか何かで寝込んだときもやけに甘えてきたような? 俺の記憶違いか、夢だと思っていたけれど……この様子だと、現実だったのか?
「……余計なこと思い出すな」
なんて言いながら俺の右胸を下から持ち上げてくる璃砂。これすげーやだ! 屈辱的というか! 馬鹿にされている気がしてならない!
「はい。それじゃあ説明を始めるわね」
ゴロゴロとホワイトボードを引っ張ってくる邪神。いや、ボード自体はいきなり出現したじゃん……。あ、座標をミスったから移動を――
「いだ!?」
――白チョークが額に飛んできた。ホワイトボードなんだから、そこはマジックだろ!?
「演出よ演出。どうせなら会議っぽい感じを出したいじゃない?」
なんて小首を傾げる邪神。これが笑顔ならかわいいって感想になるんだろうけど、無表情だと不気味でしかない。
「会議ならスーツでも着たらどうなんだ?」
和服だからな……しいて似合うモノをあげるとすれば、巻物? なんか違うか?
「それもそうね」
邪神の全身が眩い光に包まれたと思ったら、次の瞬間には……上下ともに赤いジャージ姿になっていた。
「なんでジャージ?」
「――ぷっ」
え? 何故に璃砂が吹き出す? こいつには理由がわかってるのか?
「うん? 説明をする相手の内、ひとりが女性のジャージ姿が好きだからですよ? あぁ、正確には体操服が好きでしたね」
「…………」
これはあれか? 座標ミスとか思った俺への嫌がらせか? ちなみに邪神様。正確に言うなら間違ってるっす。正しくは、長袖ジャージにハーフパンツ姿がグッドです。
「間違ってるわ。透ちゃんが好きなのは長袖ジャージにハーフパンツよ」
「さっすが幼馴染ですね。詳しいです。部屋着をサイズが合わなくなったジャージと体操服にしているだけありますね。理由は知りませんけど」
「「…………」」
璃砂……無言で人の胸に八つ当たりするのやめよっか。なんか俺の身体が璃砂のオモチャになりつつある気がする。
「さてと。ここはとある神が担当している世界なの。ただこの神が問題でね? 人と人を争わせるのが好きなのよ。わざと文明を中世くらいに留めて、剣と魔法の世界にして戦争を推奨している訳なんだけど――」
いきなり説明始まるじゃん。というかさ、本来は拉致って来る前にする説明では? 遅くなってもチュートリアル戦闘の前だと思う。
「――自分の世界で群雄割拠を楽しんでいる分には好きにしろって感じなんだけど。あるときから他の神様が管理する世界にまで干渉するようになったのよ。具体的には他の世界の人間を召喚魔法で勇者とか賢者として呼び寄せて、各国が戦力にすることを可能にね」
うわ……。アニメとかラノベとかでよく見るヤツだ。俺も割と好きなジャンルだし。
「妾はもちろん、他の世界の神々も自分の世界の住人が拉致られるのを黙って見てる訳もなく対策はしたのよ? でも、この世界の神ってね? 妾はもちろん、ほとんどの神々よりも上位の存在というのがねぇ……いくらでも新しい経路を作って干渉が止まらないと」
酷い話だ……。
「大半の神々は災害みたいなものと諦めて、せめて被害が減るように努力している状況なのよ。でも妾みたいに反撃を考えた神々は自分の世界から素質のある人間をダンジョンマスターとして送り込むことにした。彼ら彼女らにダンジョンを運営させてダンジョンモンスターを溢れさせるっていう形でね」
「なんでそんな形になったんだ?」
普通にモンスターを送り込めばいいのでは?
「だって、ここのヤツが見たいのは人間同士の争いなのよ? 人間以外を送ろうとしても弾かれて終わり。人間をそのまま送るのは、結局は拉致してるヤツと同じことになってしまう。だから苦肉の策でダンジョンマスターって形なのよ。ダンジョンマスターは人間だし、ダンジョンモンスターはその人間が扱う戦力として認めて放置してくれているって訳。あくまで現地の人間たちの群雄割拠状態に異世界から送り込まれた人間がダンジョンマスターとして割り込んで、争いを混沌とさせるのが妾たちの目的になるわ。まぁ、色んな世界から送り込まれたダンジョンマスター同士も争うことが多いから見逃してもらえている感もなくはないけどね」
「……ダンジョンマスター同士の協力は?」
「世界を乱して争うことを目的とした人選をしているのよ?」
あー……察したかもしれん。
「そ、透も璃砂も察したみたいね。その通りよ。妾が送り込んだのは、将来的に大犯罪を実行するような人間ばかり。他の神々も同様。結果として話の通じない愉快犯だらけ。正直なとこ、妾たちもこの世界の神を楽しませている一端を担ってしまっている自覚もあるわ」
え、それって俺たちも将来的に――?
「あ、違う違う。透と璃砂は幸せな家庭を築くはずだったって言ったでしょ? ふたりを選んだ理由は、逆に普通の人間を送ってみたらどうなるのかなって好奇心からになるわ」
は?
「ダンジョンマスターになると不老になって寿命がなくなるから孤独な存在になっちゃうのよ。ダンジョンモンスターは居るけど、人との関わりが難しくなるのは当然よね? 犯罪者ならざまぁ! で済むけど、一般人にその仕打ちは罪悪感がね……」
ちょっと待て。
「悩んだ末、相性抜群の男女をペアで送ればいいんじゃ? って思ったのよ。子どもは作れるし? お互いはもちろん、将来的には家族を守るために必死にダンジョンを運営してくれるかなと」
そんな理由で俺たちが選ばれたと!? こ、この――邪神がぁ!
「相性抜群なんだ……私たち」
黙って聞いていた璃砂がポツッとかろうじて俺の耳に届く声で呟いた。
「なんで嬉しそう?」
「ほら、こんなクソ邪神でも神様のお墨付きを貰えたわけじゃない?」
「……確かにそうなるのか」
前向きと言うか、これからのことを考えないように現実逃避していると言うか……。
「告白を邪魔したお詫びに相性抜群の証拠を見せてあげるわ」
邪神がホワイトボードを指し示すと、映像が流れ出す。それは見慣れた俺の部屋で――俺と璃砂がソワソワしながら見つめ合っている場面だった。
「なんだこれ?」
疑問を口に出した直後に気づく。たぶん邪神が現れるちょっと前だ。
「――あ」
璃砂も気づいたらしい。
「妾が現れなかった場合、ふたりがどうなっていたか見せてあげるわね」
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