邪神様の暴露

「「嘘だろ(でしょ)!?」」


 てっきり簡単に無効化されるのがオチだと思ってたんだが!? 聞こえてきた悲鳴に慌てて視線を向ければ着物の所々に穴が空き血を滴らせている等身大日本人形が――ニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「うん? どうしたの? どうせ効かないと思ってた魔法で妾がダメージを受けて驚いたのかしら? そ・れ・と・も? 焦っちゃった? ちょっと悲鳴を上げただけでそんな顔をされると、この先ダンジョンマスターとしてやっていけるのか心配ねぇ」


「ダンジョンマスター……ですか?」


 神様が相手だし、一応は敬語を使った俺。


「なにそれ、聞いてない」


 最早敬語を使う気すらなさそうな璃砂。俺も合わせよ。というか性格悪そうだし、そもそも俺たちを拉致ってる相手だしもう邪神でよくね?


「透ちゃん? 誰が邪神だって?」


 流石神様。読心も可能と。敬語に切り替わったこともそうだけど『ちゃん』付けが不気味で仕方ない。出会ってから僅かなやり取りしかしていないが、さっきまでの呼び捨てのほうが友好度を感じた。


「透ちゃん……透ちゃんか……」


 璃砂? その噛みしめるように繰り返すのにはどういう意味があるので? なんだかこっちはこっちで嫌な予感がするんだが?


「邪神呼びの罰は――その魔法少女姿からセーラー服を外して、スク水魔法少女になってみますか?」


 やっぱこのインナーってスク水かい!


「断固拒否します!」


「ちゃんと透ちゃんの好みに合わせて競スクにしておいたから本望ですよね。通っていた中学の女子の指定水着を完全再現ですよ? 隣の家の女の子の部屋に置きっぱなしになっていたプールバッグからこっそり洗濯前のを取り出して触っていたスク水ですよ? 着られて嬉しいですよね? ね? それとも、高校で璃砂ちゃんが使ってたスク水がいいですか? 交換できますよ? でも高校のはスパッツタイプなんですよね。透ちゃんの好みから外れちゃいますよ?」


 この邪神はなんちゅうことを暴露してくれるんですかね!? それだけはいくら幼馴染でもライン越えだろうと死ぬまで隠し通すつもりだったんだが!


「ぇ……いくら透ちゃんでも――」


 ですよねぇ! 絶対に『透ちゃん』って呼ばれると思ったよ! 本音としては「透ちゃん」呼びを勘弁してほしいところだけど、流れ的に言い出しにくくなってしまった。


「――私のスク水を着せるのはやめてください! 神様、本当に勘弁してください! 土下座でもなんでもします!」


 真っ赤な顔しながら俺を指差して懇願する璃砂。その指先がプルプルと震えているのを見るに本気で恥ずかしいらしい。当然だけどなっ。――って待った。恥ずかしがるだけで、俺に罵倒とかは別に飛んでこないんだな……。これってさ、もしかして……俺は隠れて幼馴染のスク水を触ってるような男だと思われてるってことじゃないよな?  


「なんでも?」


 神様が無表情のまま首を傾げている。あ、璃砂、いまのは失言だって!


「透ちゃん! 私に直接言ってくれればスク水を着て見せてあげるし、触らせることも考えなくもないからさ。ね? 一緒に神様にお願いして! マジでお願い! あ、でも流石に中学の時のは無理だからね? サイズ的に!」


 着てくれるんだ……触る許可が出る可能性まであるんだ……。いざ実際に言ったらキレるパターンだよな、絶対。そして、言ったことは事実だと認めて1度は着てくれるんだろうなという確信もある。


 い、一応、一応な? 記憶の片隅に留めておくとしよう……。


「ちなみに璃砂ちゃんも――」


 え? 


「わああああああ!!!」


 必死に言葉を遮る璃砂。思い当たる節があるとしか思えない速さだ。まさか璃砂も俺が気づいていないところで似たようなことやってるのか? ……否定よりも納得が先に来てしまうのは付き合いが長いからだろうか? あ、璃砂も同じ気持ちだったのか……。


「――妾の言葉を遮るとか不敬ですね。璃砂ちゃんも洗濯前の透の体操服やワイシャツを着て『彼シャツごっこ』をしてますよね? 時間をかけてクンカクンカと。それも、年に1度あるかないかの透ちゃんと違って、月1くらいで。果たして触っていただけの透ちゃんと、実際に着ていた璃砂ちゃん。どっちがマシなんでしょうかね? もちろん、男女の差。水着とシャツの違いはありますけど――んぎゃあああ」


 この悲鳴……やっぱ邪神でいいよ、こいつ。ん? 悲鳴の原因? 璃砂の拳から伸びた火柱だ。それは見事に炎に包まれている邪神様。見た目は日本人形だったし、よく燃えそうだなぁなんて思ってしまうが……ちっ……着物の一部が焦げただけだった。しかも、さっきの攻撃で空いていたはずの穴もなければ、血の跡も残っていない。


「ふぅ。これでそれぞれから1度は攻撃を受けたことになりますね」


 なんて言葉と同時に元通り。なんだかわざと攻撃を受けていたように見える……それも、最初は俺の氷柱だけ。次は璃砂の火柱。いまになって思えば、さっきは璃砂の魔法は無効化してたっぽい? 加えて『それぞれから1度ずつ』ねぇ……邪神は邪神なりに罪悪感みたいなのあったりするのかね? それで1撃づつは受けたと?


「……そりゃ妾にだって、平和に暮らしていて将来的にも幸せな家庭を築いていたはずのふたりをこんな世界に送り込むことに申し訳無さくらいあるに決まってるじゃない」


 ……さり気なく言われたけど、やっぱ俺と璃砂って将来結婚してたんだ。なんとなく璃砂を見ると、照れくさそうな笑みを返された。


「さてと、ダンジョンマスターを始めると確実に戦闘になるのである程度戦えるようになってもらわないと困るのよ。ということで、これからは妾も攻撃するわね。勝敗は単純。透か璃砂どっちかの魔力が切れる前に妾に一撃できるか、できないか」


 なんて言葉と同時に薙刀を構える邪神。和服と薙刀って絵になるよなぁ。


「それってチュートリアルみたいなもん?」


 ゲームとかでよくあるやつ。


「……負けイベじゃないことを祈ってるわ」


 璃砂……嫌な例え出さないでくれないかな?

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