俺はダンジョンマスターで魔法少女~変身すると幼馴染に妖しい目で見られてます~

綾乃姫音真

ふたりの魔法少女

「なんじゃこりゃあああ!」


「だはははははははは!」


 岩肌に囲まれた殺風景な洞窟に響き渡ったのは自分で発したのは間違いないのに初めて聞く少女のような俺の叫びと、聞き慣れて安心感すらある幼なじみの馬鹿笑い。


 脳裏に焼き付いている光景は幻覚だ。そう自分に言い聞かせるように目を閉じて深呼吸してみる。これで目を開けば直前まで着ていた見慣れた高校の制服姿に戻ってるはず。……胸元に感じる苦しさが現実だと訴えているけど無視する。つうか苦しさ以上に、重い……。


 ゆっくりと瞼を開くと、本来男には存在しないはずのふたつの膨らみ。それらに押し上げられた白と水色を基調としたノースリーブのセーラー服が目に入る。下半身は素肌に密着するような生地に包まれていることがわかるが、剥き出しと思われる太ももがスースーと落ち着かない。それでいて膝から下は逆にガッチリと覆われているのがわかる。


 推測するに、スカートにブーツってことなんだろうな! 太ももを撫でるスカートの裾がくすぐったくてたまらない。


 それにしても……セーラー服にしては身体に密着してるような感覚があるんだが? これ、下になにか着てるってことなんだろうけど……確認したくねー……。


 改めて自分の胸を見下ろす……うんデカい。俺の認識では本来異物でしかないはずなのに、徐々に認識を上書きするかのように最初からそうだったように思えてくる。


「そのセーラー服? インナーがなければおヘソが出てる丈だし、チア衣装にも見えるわね。インナーも密着してるし……なんて言うか――」


 正面から口元をニヤけさせながら眺めてくる幼馴染の音月璃砂おとづきりさ。途中で切った言葉の続きも長い付き合いで簡単にわかってしまう。インナーねぇ……間違いなく同じモノを想像しているはずだ。


 無言で正面から見つめ合う俺たち――ん? すぐ違和感の原因に気づいた。いつもは俺が見下ろす形だったのに、逆転している。もっとも、その身長差は大きくないが。これは俺の身長が縮んでるか、璃砂の身長が伸びてるのか。どっちだ? なんて考えていると、彼女が俺のお腹辺りを指差して口が動く。その形が、ス、ク、と変化しているのが読み取れた。


 現実逃避のように目を逸らし、彼女の身体に視線を走らせる。俺がこんな格好なんだからこいつも仲間であってくれと。幼馴染だからこそ思ってしまう。結果――璃砂の格好も中々だった。


 まず最初に目についたのは薄い水色のロングヘア。身体越しだけど、腰くらいまでの長さがありそうに思える。中学で部活に入ってからは伸ばしても肩に掛かるか、わずかに越えるくらいの長さだったから新鮮。あるいは懐かしいかもしれない。小学生の頃はこんな風に髪を伸ばしていた。


 ……あ。つまり俺も髪型が変わってるってことか……考えるのやめよ。いまは璃砂だ。


 服装は2次元の制服かな? が、パッと浮かんだ感想だ。それも美少女ゲームに出てくるような学園系の制服。ピンクを基調としていてノースリーブの上着。何故か胸のとこだけ生地がなくて下に着ているブラウスが露出していて――結果として胸を強調させてしまっているという……いわゆる乳袋とか言われる形だった。どこからどう見てもエロゲー世界の住人と化している。魔法少女とはいったい?


「お前も人のこと笑えない格好してると思うけどな……」


「え?」


 どうやら俺の格好に意識を持っていかれて自分の姿を確認していなかったらしい。璃砂は自分が身に着けているモノを見下ろして、プルプルと震えだす。


「なによこれ!? 乳袋恥っず!」


 漫画だったらガバっという効果音がついてそうな速度で両腕で胸を隠す璃砂。いつもなら素直に目を離すか、逆にからかって璃砂を怒らせて空気を有耶無耶にするところなんだけどな……。


「……」


 今回はついジッと見てしまった。


「ちょ、胸ばっか見るな!」


 自分の胸を抱くように両腕に力を込める璃砂。当然のことながら彼女の膨らみはその2本の腕によって柔らかそうに形を変えている。


 これは間違いない――!


「璃砂……胸盛ったな?」


「なんで見ただけですぐにわかるのよ! どんだけ普段から私の胸を見てるのよ! 変態!」


「毎日一緒にいれば嫌でも目に入るだろうが!」


「嫌でもってなによ! 本当はじっくり見たいくせに!」


「ああ見たいさ! 内心で『太いかも』って気にしてるその太ももをたっぷりとな!」


 ……いや、クラスでも大きいほうらしいお尻含めてコンプレックスなのは知ってるぞ? ただ俺好みなのも事実だった。


 なんとなくスカートから伸びる脚を見てしまう。が――こっちは特に細くなってたりしないのな……。


「な、なによ! 言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!」


 言わなくてもわかるだろうに……。


「平均サイズで大きくしたがってた胸は盛ったのに、あんだけ嫌がってた脚は細くしなかったんだな」


「気にしてるの知ってるんだから言うな馬鹿! 胸もだけど普通にセクハラだからね! 私以外に言ったら面倒いことになっても知らないから!」


「璃砂が言えって言ったんだろうが!」


「ふーん、胸とか脚とかお尻とか……とおるって私の身体に興味津々なのねぇ~?」


 怒り顔から一転してニヤケ顔に戻る璃砂。ただその心情は俺をからかう以上に喜んでいるのが微妙な表情の違いから読めてしまう。


「尻に関してはなにも言ってねえよ!」


 言えない。つい先日体操服で目の前に立たれたときに、ハーパンの上から触ったらどういう反応するんだろうか? なんて思ったなんて言えない。バレバレだからこそ言えない。


 実際触った場合は怒鳴られるか、殴られるか。逆に言えば、それだけで許してくれるだろうとも思える。


「私ばっかイジられてるけど、あんただってロリ巨乳じゃないのよ! 私より小柄でおっぱいおっきいし! 実はそういう性癖だったとか!? ピンク髪の淫乱ピンク! 声も少し幼さを感じるし!」


「違うわ!」


 俺の性癖ならお前がよくわかってるだろうが!


「あのさ透」


「……なんだ?」


 今度は真顔になる璃砂。表情がコロコロと変わるのはかわいいなと素直に思う。別の言い方をすれば感情豊かってことだし? 一緒に居て楽しいのは否定しない。というか、だ。どこかの自称神様が邪魔しなければ今頃告ってたはずなんだけどなぁ……。ようやくタイミングを掴めたと思ったらこんな異世界に連れて来られて魔法少女になってるという……どうしてこうなった?


「本当に女の子の身体になってるの? 確かめていい?」


 どうしてこうなったのかなぁ!  


「……一応聞くが、なにする気だ?」


 俺の質問に璃砂が視線を向けた先。追わなくてもわかる。胸だった。


「おっぱい揉ませて」


 両手で何かを鷲掴みにするようにワシワシしながら前に出てくる璃砂。


「嫌に決まってるだろうが! おい待て、近づいてくんな」


 しかしここは大して広くもない洞窟の中。あっという間に壁際に追い込まれてしまう。それはもう楽しそうな璃砂の両手が俺の胸に着地。文字通り予想通り鷲掴みだった。しかも俺の首筋に鼻を近づけてくるおまけつき。


 ふわっと香ってくる璃砂の甘い匂いに心臓の鼓動が乱れるのと同時に、安心している自分に気づく。


「すんすん……普通に女の子のいい匂いしてるのオモロイ」


 至近距離から覗き込んでくる璃砂。どちらかがその気になれば簡単に唇を触れ合わせることが可能な距離感だ。


「だから揉むなって……くすぐったいっての」


「わぁ、ちゃんとおっぱいだ……」 


「……揉み返してやろうか?」


「へぇ~? できるならやってみれば?」


 挑発するような口調と雰囲気。


「…………」


「いや、できたらとっくに付き合ってるでしょ、あんたたち」


 いきなり割り込んできた第3者の言葉。実はこの空間には俺と璃砂が無視している存在が最初から居たりする。


「「どっかの誰かが邪魔しなければ今頃そういう関係になってたはずなんだけど(な)!!」」


 俺と璃砂の怒りの声が語尾以外揃った。


「いや、まぁ、告白のタイミングで拉致ちゃったのは悪いと思ってるのよ? だからほら妾は黙って見てるから続けなさいな」


「「できるかぁ!」」


 あ、今度は完璧にハモった。


「なんで? お互いの気持ちはわかりあってるんだから言葉にするだけでしょ」


 生まれたときから誕生日が1日違いの幼馴染やってて、幼稚園から現在の高校2年生からずっとクラスが一緒なんだぞ? 毎朝一緒に登校して、授業受けて、部活も一緒。休日も当然のようにふたりで過ごす俺たちだ。相手に恋心を抱いたのはどっちが先なのかわからない。お互いに気持ちを察するのに時間は掛からなかった。俺の場合は高校に入った頃には「ああ、将来は璃砂とこのまま結婚するんだろうな」なんて思っていたくらいだ。


 ただ問題もあった。身近すぎて改めて告白するって空気にならなかった。休日は当たり前のようにどっちかの部屋に泊まってたからな……下手したら平日にも寝落ちすることすらあった。今日、たまたまそんな空気になって――どっちから告白するんだ? と窺い合って、自然と俺が口を開こうとした瞬間――


「ふたりは魔法少女に興味ある? うん、あるのね。なら地球は日本担当の最高位の神様である妾がその願いを叶えてしんぜよう。さぁ、頭の中で自分の魔法少女姿を浮かべてみなさい。しっかり再現してあげるわ」


 ――なんて言いながら、俺と璃砂がこんな格好になっている元凶が現れた訳だ。ちなみに俺が頭に浮かべた魔法少女姿と、いまの格好は完全に別物だった。もっとボーイッシュな感じをイメージしてたんだけどねぇ? こんなサイズの胸は望んでない。


 そして恐らく、璃砂も別物になってるっぽい。ただ、幼馴染の場合は胸のサイズだけは叶えて貰えてるんだろうな……話の流れ的に。ん? もしかして、俺も一箇所だけはイメージ通りになってるってことか? もしかしなくても変な部分なんだろうな……。というか、身長じゃね? 魔法少女っていうくらいだ。俺の頭にパッと思い浮かんだのは中学生くらいの見た目だし……。


「……」


 さっきから俺と璃砂のやりとりを黙って眺めている等身大日本人形をチラッと見る。能面のような無表情に冷めた目つきと、濃い紫色の綺羅びやかな和服のギャップが不気味さを醸し出すとともに、人ではないんだなと思わせてくる存在。


 確かにそこに居ることは認識できるのに、気づくと意識の外に出ているような。にもかかわらず1度見ると記憶に残りそうな存在感があるのに、1晩寝ればすっかり忘れてしまいそうな予感もある。


「……魔法少女っていうんだから、当然魔法を使えるのよね?」


 あ、璃砂が本気でキレてる。間違いなくこの自称神様に撃ち込む気だ。まぁ、俺も同じ事をしたい気分だけどな!


「できるわよ? ちなみに透が氷属性で、璃砂が火属性ね。こっちの世界の人間みたいに修行する時間がもったいないから、頭の中でイメージすれば体内の魔力が勝手に属性変換されるわね。あとは発動! って念じるだけ。まぁ発動後の変更が難しかったり欠点もいくつかあるけど、それは追々ね」


 なんて言いながら離れていく自称神様。さすが下々の考えることはお見通しらしい。


 にしても氷の魔法……氷柱を飛ばすとかか? あとは地面を氷漬けにしたり? 試しに頭の中で目の前の自称神様に氷柱を撃ち込むイメージをしてみる。……数本じゃ告白の邪魔された怒りは収まらないな……20本くらい許されるよな? 俺の身体がしっかり女体化して、魔法少女になっていることや前述の存在そのものの違和感から本物の神様だと認めている。そんな相手に攻撃して大丈夫なのか? と、不安も浮かぶが璃砂と一緒なら構わない。


 俺と璃砂の魔法が発動したのはほぼ同時。20本の氷柱と巨大な1発の炎弾がまっすぐ神様に飛んでいく。


 手数を重視した俺と、一撃の威力を重視したと思われる璃砂の魔法。性格出てるなぁ……。本当に魔法が使えたことの感動以上にそんなことを思ってしまう自分につい笑みが漏れた。


 ふと視線を感じて隣を見ると、微笑みを浮かべている璃砂が目に入る。きっと俺も似たような表情をしているんだろうな。


 なんて思ってる間に魔法が神様に――


「ぐぎゃぁ!」


 ――直撃したらしい。


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俺はダンジョンマスターで魔法少女~変身すると幼馴染に妖しい目で見られてます~ 綾乃姫音真 @ayanohime

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