第4話 彼について分かったこと

 結果、私と雪畑は大いに意気投合した。音楽の趣味も車の趣味も、風情に関するあらゆる趣味も、尽く合致していくものだから、雪畑も私も徐々に面白くなっていって、夜が来る頃には肩を組んでいたし、朝日を見る頃にはギターを奏でながらワハハと笑っていた。


 そして、私はその雪畑所に足繁く通うようになった。そこでわかったことがある。雪畑は、フルネームを「雪畑錦四郎きんしろう」と言い、好きな食べ物は喫茶「カナリア」に売っている30円のサンドイッチと、同じく15円の珈琲。煙草も葉巻もやらないたちで、鍛えていて、空手と柔道と剣道の達人で銃の扱いにも長けている。人並みから桁が外れた観察眼と、それを最大限発揮できる思考速度を持っている。これだけを聞くと、探偵に向いている職業だが、雪畑いわく──「俺はコソコソ隠れるのが苦手なんだ」──らしい。


「最近は事件もないなあ」


 3月の下旬になって、雪畑は腕時計のベルトを撫でながら、椅子に深く座り込んで言った。


「あの事件は解決したのか? 心臓から石油が見つかったという、不可解な怪事件だ」

「あれか。あれは有り体に言えば、『呪術』だ。俺も呪術に触れたのは初めてだったから、異常に難航してしまった」


 雪畑は、忌々しそうに顔をゆがめてから「でもそのおかげで君と出会えた」と笑みを浮かべた。少し気恥ずかしいこともすんなりと言ってしまうから、雪畑という男は厄介だった。


 私は照れ臭くて頬を掻いた。


「そいで、事件がないと」

「まぁ、そもそも怪異なんて滅多に現れちゃくれないのさ。だから君が来てくれるまでは下の店の手伝いをさせてもらって、なんとか機嫌を取っているんだけど、しかし、しかしこうもなんにも無いっていうのも考えものだな……」

「良いことじゃないか。誰も泣いてない」

「それもそうだ!」


 雪畑は嬉しそうに顔をゆがめた。


 それから私たちは、ブラックジャックの真似事をして、数枚の大きな厚紙を切り抜いて作った紙のコインを賭けて時間を潰したり、雪畑のとっておきの怪談を聞いて背筋を震わせたりして、夜を待った。

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