第2章 怪奇への誘い

第5話 依頼人

 翌日、カナリアで午前の10時から珈琲を飲みながら、雪畑が好みそうな珈琲を探していると、カランと音がして、雪畑が入ってきた。それたけではなくて、雪畑の後ろには美女がいた。


「雪畑っ。君が女の人を連れているなんて珍しいじゃないか。彼女とはどういう関係?」

「依頼人だよ、依頼人。久保くぼくん。君も乗じるか?」

「俺も?」

「たしか所属していた研究所が潰れたので合間を埋める仕事が欲しいって言ってたろ。仕事が見つかるまでの暇潰しなんてのはどうだい。運が良ければ盛岡市警が拾ってくれるかもしれない」

「それはいい」


 しばらく暇だったので、私はいとも簡単にその話に飛びついたのだった。美女の名前は隅田すみた洋子ようこというらしい。


「私の実家のあるのは、海沿いの小さな村なんですが、その村には非常に恐ろしい伝説があるんです。それは手紙で記したように……」


 雪畑が手紙を渡してくれた。


「……『魚神伝説』っていうものがあって、5月の始めの2週間を『魚神時』って言いまして、その期間、定められたふたりの子供は断食になるんです」

「2週間断食!? 栄養失調に陥ってしまうんじゃないかっ!?」


 私が叫ぶと、隅田洋子さんは「はい」と言った。


「子供っていうのは何歳から何歳までの範囲の子供なんですか?」

「10歳前後です。だから、倒れてしまって、そのまま栄養失調になるっていう事が時折ありまして」

「そして、その子供は次にどうなるので?」

「神社の男が漕ぐ小舟に乗りまして、そこで、海の上で3日過ごすんです。その間は、特別な漬物が配られますので、それを食べることが出来ます」


 しかし、とはいえど、2週間断食をした子供が漬物ひとつで3日間海で過ごせるとは思えなくて、私はその忌々しい習慣について、疑わしい感情を覚えていた。


「今回の依頼は……」


 私がむっとしていると、隅田洋子さんは言う。


「この習慣を壊して欲しいんです」

「いいんですか。神さまが怒るんじゃ?」


 雪畑は尋ねる。


「はい。はっきり言ってこの習慣ってクソだから、壊してもらうと未来が活きるんです」

「ならばそうしよう」

「お金は……」

「後で良いですよ。払うのが惜しくなるかもしれないですから」

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