第34話 地下533階
神崎は
「渋谷ダンジョン地下533階? ……
二人で青梅ダンジョンの
神崎は、ついさっきの記憶すらあやふやだ。
翔吾は首を左右に振ってそれに答えた。
「ちっ……。信号自体は出せるのか……音声操作切り替え、現在地点及び信号発信状況」
『現在地点は渋谷ダンジョン地下533階です。緊急信号は送信されていますが、管理局よりの応答反応はありません。従って日本国ダンジョン法第十条三項、緊急時総則により、配信回線経由に切り替え緊急信号を発信中です』
「壊れてやがるっ!」
響子達に危機が降りかかっているかもしれない。どうにかして先へ行く方法を。
あの時のような助言が貰えれば、打開策が見出せるかも……。
だが、普通に配信しても上手くいく気がしない。
どうやればあの人たちとまた連絡が取れるだろうかと考える横で、神崎がなにやら動き出す——翔吾は、何か嫌な予感がして岩陰に隠れた。
「くそがっ、でも配信しているなら……きたっ!」
神崎の表情は希望を見出したのか、明るいものに変わりつつあった。
「いいぞ、昨日の配信のおかげで同接が……」
だがそれは、一瞬のうちに絶望を滲ませるものへとすぐに変わってしまった。
『ナニコレ? 地下533階? あー、フェイクね。お疲れさん』
『どうせ、反ダンジョン派の仕業だろ。WD画面のみとか』
『管理局に違反通報しました』
『同上』
『あれ? 昨日に試験の配信してた、期待の新人アカウントじゃん? まさか反ダンジョン派の片棒担いでんの?』
『いや、AIフェイクじゃねえか? 昨日の同接数、話題性ありそうだし。なんか標的にされそうじゃね?』
『この反ダンジョン派の技術って地味に凄えよな。遠藤重工管理AIの各種防壁すり抜けて謎配信してるんだろ?』
ウォッチデバイスから照射された光が、湖面にテキストチャットを映し出している。
神崎は想像してもいない展開に焦った。
反ダンジョン派と呼ばれる組織は、階層表記を書き換えた配信や、限定的な視界で犯行現場を隠蔽する手法を用いることが一般にも知られている。
そういったことから、地下533階という表記は反ダンジョン派の工作動画だと、視聴者たちが判断する材料になってしまった。
加えて、昨日神崎が出した同接数は、試験配信としては驚異的な数字で話題性ありだ。
反ダンジョン派が注目を集める標的として、いかにも狙いそうでもある。
そして、反ダンジョン派が行うテロ行為は、拷問ショーと呼ばれるほど残酷なものが多い。
動画を拡散しても罪に問われることもあるため、見かけたら通報は自然な反応でもある。
「ち、ちがっ! 違うんだっ! 穴に飲み込まれてここにっ!」
一瞬で増えた同接はみるみると数を減らし、ついには。
『通報しました』
『配信不可の危険な場所で命かけてる人達に謝れ馬鹿。通報』
『通報』
『AI《アイ》ちゃん、こっちやでー』
『反ダンくたばれ』
『早くこういうのなくなればいいのにね。通報』
『反ダンなんか糞以下。通報』
——
——
【管理AI】:『動画配信規定違反報告が一定件数に達したため、日本国ダンジョン法三条二項の規定に従い公開配信の一時停止措置を取ります。措置に対する不服等の申し出は日本ダンジョンハンター協会から配布されている配信についての注意事項及び配信マニュアルに記載された方法で申し立てをしてください』
「違うんだっ! 助けてくれっ!」
【管理AI】:『現地へは管理局の対応部隊が出動しますので、接触の際は抵抗の意思がないことをはっきりと示すよう推奨します。——それでは配信を停止します。なお、緊急信号についてのみ継続して発信が許可されています』
テキストが湖面から消え失せた。
「まって助けて! たす……」
神崎は力なくへたり込んだ。
岩陰から出てきた翔吾は、あの時こういったことまで見越してくれていたんだなと、改めて彼らに感謝の思いを抱いた。
「たすけ……はっ、はは……たす……」
壊れた玩具のようにうわ言を繰り返す神崎を放置して、翔吾は自身の
「確か……限定配信ができたはず……。これだ。入室パスは……」
神崎が分かりやすいほどに失敗したおかげで、翔吾は別の方法で外部とコンタクトする方法を思いだせた。
『限定配信の入室パスを設定して下さい』
「音声入力、パスは質問回答形式」
『質問内容をどうぞ』
「質問。翁の面、
『パス設定完了。配信題名をどうぞ』
「地下533階」
『限定配信を開始します』
翔吾はこの方法ならば会えると考えた。
ハンターウォッチャーと呼ばれる人種は、視聴したい配信のキーワードを予め登録しておくことで目当ての配信を探し出すという。
彼らならきっと。
もう翔吾だけでは打開策が浮かばない。神崎のこともあって、取り乱すことはないが、本当は泣き叫びたいほどに焦っていた。
青梅ダンジョンからここに来るなんて、訳がわからなさすぎるし、響子達の安否に心が削られ続けている。
精神の限界、その一歩手前を自覚しながら、翔吾は
1秒が長い。
「頼むっ……」
通りすがりの田中:『お久しぶりです。またですか』
夜の主砲:『お久しぶりです。またですね』
翔吾は唐突に湖面へと映し出されたテキストチャットをみて、大きく息を吸いゆっくりと吐いた。
「……お久しぶりです。何故かまた、ここに来てしまいました。青梅ダンジョンにいたはずだったのですが……ところで、ケモメチョさんは来られませんでしたか」
「——! どういうことだ中村っ!? やっぱりお前っ!? ぐぁっ?!」
「落ち着いてくれ神崎」
翔吾は神崎をスキルで包みこみ半ば強引に黙らせた。
通りすがりの田中:『彼女は立て込んでいるようなので今回は来ないでしょう。それにしても賑やかなお連れさんですね』
夜の主砲:『顔色が悪いです。
翔吾は既視感のあるチャットのやりとりに、口の端を
「……ありがとうございます。連れは彼だけじゃなくて、一緒に落ちた人があと四人いるんです。だからなんとか探して合流したいんですが、これを」
右手にはめた
「わかりますか? あったはずの横穴がなくなっているんです」
通りすがりの田中:『……なるほど。青梅ダンジョンからここに来たと仰る時点で何でもありですが、これはなんとも……』
夜の主砲:『マップ見ます?』
「マップ!? そんなのがあるんですか?!」
夜の主砲:『前回の動画から3Dマップデータを作りました』
通りすがりの田中:『素晴らしく趣味人ですねぇ』
「見ます、見せて下さい」
夜の主砲:『映像出力許可を』
翔吾は要請に従って
そして湖面に映し出されたのは、この洞窟の立体地図だ。
「す、凄い……」
響子から、夜の主砲は遠藤重工のエンジニアだと聞いていた翔吾だったが、それでも
「完全再現ですね……なら、まずはこの位置。やっぱり横穴がなくなっている……。ああそうだ、これを見てください」
翔吾は、削ってもすぐに再生をはじめる岩肌へと移動し、スキルをまとわせた拳を叩きつける。
通りすがりの田中:『ふむ。力技では通れないと』
翔吾がスキルで壁を打ちつけ壊してもすぐ元通りになっていく。
夜の主砲:『少し前回の動画を見ましょう。もしかするとですが、抜け道があるかもしれません』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます