第3話 無許可配信クズ野郎。

そいつは赤髪長身の男だった。

スラっと伸びた四肢はモデルのように細く、スタイルの良さを際立たせている。


「誰だよお前」

「俺をしらないのかい? トレンドに疎いな君」


無遠慮にそうのたまう男の近くには小型のドローンが飛行している。

しかもあのドローン、魔道ギアコーポレーションの、見たら分かる高いやつやん。

てことは、金持ちのボンボン?

ハッ、余計にイラつくな。

決めた。

男をボコボコにしたら、あのドローンもぶっ壊そう。

俺はキザったらしいハンターが世界一嫌いなんだ。家で水素水でも飲んでろよ。


「おい、テンメェー失礼が過ぎるんじゃねーのか、おーーん? 勝手に配信すんのはマナー違反ちゃうんか?」

「シュート君どっちがチンピラがわからなくなってる!」


ドローンが空中ディスプレイを映し出して、そこにコメントが流れる。


『配信すんなとかいつの時代だよwww』

『むしろブスが、超イケメンのケント君の配信に映れてラッキーと思え』

『てか、コイツじゃね? クソ雑魚スキルでスライム狩りしてるのw』


「ケントなんて知らねーよ。迷惑系配信者か?」


『はあ? 開幕暴言キモ。脳みそもネズミ並みじゃね?』

『中身も見た目通りって感じ』

『このパッとしない顔! ドブネズミみたい!』


「テメエらぁぁぁぁぁ!」 


お前等のアカウント名全部覚えたからな!

インプレゾンビのふりして意味のないリプライ100回繰り返してやる、〇ね!


「これだからネットの闇に毒されたゴミ共は嫌いなんだよ!」

「SNS中毒者のシュート君がいうと重みがちがうわね」


しみじみとセイコさんが憐れみの眼差しを向けてくる。


「俺のリスナーに暴言を吐くのはやめてくれるかな? 可哀想じゃないか」


『流石ケント君、ネズミ野郎とは格が違うwww』

『やっぱ朱き雷光スプライト所属ハンターはカッコいいね、どっかのネズミギルド違ってさ』

『つーか、ブスがケント君にたてつくとか千年早いわ。精子から出直してこい』


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」

「お、おちついてシュート君! こら、君もなにしにきたのよ?」

「いやね、ダンジョンの浅いエリアで彼が好き放題モンスターを狩るから、こちらの稼ぎが減って迷惑してるんですよ」


「はあ? モンスターを討伐する制限なんてないだろーが」

「ルールがないからといって、なんでもしていい道理はないだろ? 困ってるんだよ、君が朝一で美味しい場所をもっていくからさ。今後はあそこは俺のもんだから、近づくなって伝えにきたわけ」

「早いもん勝ちがハンターのルールだ。嫌ならテメエが先に起きて行けばいい」

「はっ」


ケントが鼻でわらい馬鹿にする口調でささやく。


「おれ朝苦手なんだ」

「ふっざけんなぁ!」



理不尽な要求にセイコさんも両手の拳を握りしめて抗議する。


「君ね、コメントの感じから朱き雷光スプライト所属なんでしょ? このエリアのエースギルドじゃない。どうして、浅いエリアの取り分まで奪おうとするの?」


「俺は朱き雷光スプライトでも新人なんでね。だから今後は浅いエリアは、この焼原やけはらケントが担当することになりました。だから好き勝手されてはこちらの稼ぎが減って困るんですよ」


ダンジョンの独占行為はダンジョン法で禁止されている。こちらが従う義理はまったくない。


「俺は絶対に従わないからな!」


「へえー、そんなこと言っていいんだ。天下の朱き雷光スプライトに逆らって、この辺で活動できると思ってんの? ウチのギルドクラスはBだ。この底辺ギルドとは規模も実力も違う。街を歩くのだって難しくなるぜ?」


「おどしてるつもりか? 俺は別にいつ襲われても構わないぜ。返り討ちにしてやらぁ」

「おお怖い、怖い。でも、果たして狙われるのは君だけかな?」


そういってケントは、ソファーで寛ぐミチシゲとアンコちゃん、そしてセイコさんを順番に眺める。


「ま、どう受け取るかは君次第だけど」

「……恥ずかしくねえのかよ。自分の実力がないからって、ギルドの権威で脅してエリアを奪おうなんてさ」


俺がそういうと、コメント欄が早い速度で流れ始める。


『ケント君が弱いとか節穴すぎwww』

『ケントのスキルは火の民ヴルカンらしいよ』

『実力でも、ギルドパワーでも負けてるの理解してますかぁ?』


火の民ヴルカン

とても有名なスキルだ。

四大エレメントを司る、炎をあやつる強力な能力。


『イケメンのケントはいずれ最強のハンターになる予定だからさ』

『あの黒鉄の姫もケント相手なら余裕で靡くんじゃね?』


コメントの反応にケントが気持ちよさそうに顔を緩める。


「おいおい、君たち気が早すぎるって。俺はまだ新人だからね。それに、黒鉄の姫も興味ないな。ああいうお高くとまってる女ほど、裏で男遊びしてるからね。いまごろは高位ハンターに股でも開いてんじゃね? まあ向こうからお願いしてきたら、抱いてやってもいいけど」


「おい」


聞き逃せない言葉だった。


「な、なんだよ?」


ケントが一歩引いて下がろうとしたから、俺は無理矢理むなぐらを掴んで、顔を引き寄せる。


「取り消せよ、いまの言葉を」

「はい? 黒鉄の姫のことかい?」

「彼女はそんな子じゃない。取り消せ」


『アホ草、こいつ姫にガチ恋勢かよ』

『彼氏きどりですか?』

『キモ』


「別にあの女のことをどういおうが君に関係ないだろ」

「謝るつもりはないってのか?」

「当然だろ」

「……そうかよ」


俺はむなぐらから手を離して、首にかかっているハリネズミの彫刻が施されたドッグタグをクズ男に投げつけた。


「……本気かい?」

「ああ、俺と勝負しろ」


ドッグタグはハンターが装備することを義務づけられている身分証明だ。

それを投げつける行為は、ハンター同士の決闘を意味する。


「ルールはDリーグ形式だ。どちらが制限時間内でよりモンスターを倒してポイントを集められるか勝負だ。負けた方が配信上で土下座で謝罪する」

「ふふふ、別に構わないけど、君のスキルって弱いんだろ? 俺に有利すぎないか?」

「俺はスキルとかステータスとか、そういうのを言い訳にするのが大嫌いなんだ。全力でテメエをぶっ潰す。そんで、彼女への謝罪をさせる」

「……いいだろう、乗った。あははは、君の吠えずらをみるのが楽しみだ!」



ふん、吠えずらをかくのはお前の方だ。

愛する幼馴染を馬鹿にする奴を俺は絶対に許さない。

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