第4話 ダンジョンで危険なボーイミーツガール


 売り言葉に買い言葉で、決闘することになった俺達はいざダンジョンへ。

目的地はこの辺のギルドがメインの活動場所にしている、登坂のぼりざか市跡地ダンジョン。


基本的にダンジョンはゲームみたいな洞窟ではなく、モンスターが占拠している廃墟や山岳地帯などのエリアを指す。今向かってる場所も昔は小さな街として栄えていた場所だったらしい。


ダンジョンはエリア中央に近づくほど魔力が濃くなる。

魔力が濃い場所順で1~10に区分けされており、中央に近いと数字が小さくなるって感じ。魔力が濃いほどモンスターも強くなりドロップする魔石の等級も上がる。


今回俺達が行くのはエリア10。初心者御用達の比較的安全な区域だ。


『でも不思議だよね~どうしてモンスターはダンジョンからでないんだろ?』

『そんことないよ、氾濫スタンピードの例があるから』

氾濫スタンピードって結局なんなの?』

『≪ダンジョン博士≫説明しよう!』

『おっキタ!』

『ダンジョン博士じゃん!』

『博士って、いろんな配信にあらわれてダンジョン知識をひけらかすあの人?』


(マジかよ本物じゃん!)


ダンジョン博士は正体不明の有名人だ。

まさかこんなとこでお会いできるなんて!


『≪ダンジョン博士≫ モンスターというのは、大気中の魔力を吸収して存在を維持してるんだ。だから強力なモンスターほど、ダンジョンの外や適正エリア外でその存在を長時間保つことができない!』

『へえ、知らなかった!』

『学校でならっただろw』

『まあまあキッズの可能性もあるから』

『≪ダンジョン博士≫ しかぁぁし! 氾濫スタンピードが発生すると、ダンジョンを覆う魔力の結界が一時的に広がるぅ!。そうなると、モンスターの活動域が広がって街を襲ってくるというわけ。氾濫スタンピードを阻止しないと、ダンジョンの魔力は濃くなり、より危険なダンジョンに成長する!』

『ありがとう、≪自称ダンジョン博士≫!』

『勉強になったわ』

『≪ダンジョン博士≫ちなみに、モンスターは魔力で防御力を引き上げてるから、銃器などの攻撃は効きづらいのだ。モンスターを倒すなら魔力を含んだ攻撃でないと、難しいんだよ』


(うぉぉぉ生で自称ダンジョン博士の解説みれちゃったよ! 俺もコメントしてぇぇぇ。くそっ、こんなキザ男の配信じゃなかったら速攻連投コメしてるのに!)


癖でスマホに手を伸ばしそうになった手を断腸の思いでひっこめる。

古参リスナーアピして、コメント欄でイキリちらしたかったのに最悪だ!



ともあれ、さっきの博士の解説通り、普通ならモンスターは適正外のエリアには現れない。




…………そう、普通なら。




「ぐぉぉぉぉぉぉん!」


そして、俺達は普通じゃない場面に出くわした。


大きな唸り声をあげる、人型の牛系モンスター、ミノタウルス。

エリア8に生息する怪物。

それがなぜかエリア10に。

その足元には腰をぬかして倒れている女の子。


ミノタウルスが巨大なバトルアックスを振り上げて、いつでも殺せるぞとニヤニヤと醜悪に笑う。


『は?』

『あれヤバくない?』

『死んじゃうって!』

『助けてあげてケント君!』


「はぇ、いやだってあれは……」


ケントが弱弱しい声をつぶやく。

俺は彼女に全力で叫んだ。


「きみ! はやくにげろぉ!」


金髪の女の子は俺に気がついて、こちらに弱弱しい表情をむけて首を横に振った。


「ど、どうしよう。うち、腰がぬけてうごけない」


助けを懇願する瞳からは大粒の涙が溢れて声は震えていた。

ダンジョンでモンスターに襲われている女の子を見つけたら、男の子がするべき仕事は一つだ。


考えるより先に体が動いた。

ケントの腕を引っ張り指示をだす。


「俺があの子を救出する! お前は炎でミノタウルスをけん制してくれ!」


ミノタウロスは格上だ。

倒すことは難しいが、あの子を救出する隙くらいならば意地でもつくってやる。


しかし、ケントは俺の腕を力づくで振り払ってきた。


「ふ、ふざけんじゃねえ! あんなのに勝てる訳ないだろ! 俺は逃げるぞ!」

「テメエ! それでもハンターかよ!」

「し、知るか! 俺は死にたくない!」


『うそでしょ、ケント君にげるの?』

火の民ヴルカンの力ならミノタウロスでも倒せるって!』


「うるさい、俺はまだ新人なんだ! エリア8のモンスターに勝てる訳ないだろ!」

「おい、あの子が死にかけてんだぞ!? 力を貸せ!」

「いやだ! 君も早くにげろ、あの子はもう助からない!!」


そういって、ケントは背中を見せて逃げ出しやがった。

だが、モンスターの本能なのだろうか。

背を向けた相手を許さないとばかりにミノタウルスは咆哮した。


「ぐぉぉぉぉぉぉん!」

「ひいっ」


格上のモンスターの威圧はそれだけで恐怖を植え付ける。

怯えたケントは短い悲鳴を叫び、錯乱して、あろうことか逃げながら炎を繰り出した。


「わぁぁぁぁぁ着火イグニッション着火イグニッション着火イグニッション着火イグニッション!!!」


狙いもなにもあったものじゃない。

炎の塊があちこちに飛翔する。

そのうちの一発が、女の子にすぐ近くに着弾して爆発した。

直撃してたら死んでいたかもしれない。


「おまえぇぇぇぇぇぇ!」


逃げ出しただけじゃなく、自分が助かたるためだけに放たれた魔法。


「すぐに魔法をやめろ!」


ハンターの風上にもおけない悪辣な行為。

注意を呼び掛けても、ケントの軽はずみな逃走劇に歯止めはかからない。

むしろ、追い詰められた袋の鼠のようにあっちこっちと暴走する。


着火イグニッション着火イグニッション着火イグニッション着火イグニッション!!!」


『ヤバコイツ』

『嘘でしょ……』

『……人殺し』

『こんな人だったなんて』

『……でも、ほら勝てないモンスターから逃げるのは仕方ないじゃん』

『そういう問題じゃねえだろ!』


「もういい! 俺一人でやる!」


あんな奴に構ってる暇はねえ。

アイツはあとでぶっとばす。

まずは女の子をたすけるのが先だ……え?


視界の端に赤い光が映る。

ふりかえると、灼熱の炎が眼前に迫っていた。

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