第2話 大好きな幼馴染のためなら男の子は頑張れる。
ガランゴロンと大量の魔石をカウンターにのせる。
おせんべいを食べながらテレビをみていたセイコさんが目を丸くして固まった。
「はっや、もう帰って来たの? まだお昼前だけど」
「ええ、スライムなんて雑魚なんでね」
ついでに買ってきたハリネズミ用のおやつをキューちゃんにあげる。
鶏ささみスティックの高級品だ。
「きゅっ!」
ちいさなお口でモグモグと美味しそうに咀嚼する。
かわいいね。
俺も持参したカップラーメンに湯(水道水)を注ぐ。
大手スーパーのオリジナルブランド、モストバリューの格安で美味いやつ。
俺達が食事を始めたので、セイコさんもお弁当箱を広げて仲良くランチタイム。
「スライムが雑魚って、一般人からしたら十分危険なはずだけど」
「スキルやハンターってのは、モンスターを倒すほど強くなりますから。びびってらんないすよ」
スキルには覚醒という概念がある。
滅多に起きないらしいが、あるときを境に急激に強くなる事例がいくつか確認されている。
「がんばるね~、あ、魔石の査定はごはんたべたらするね。これだけあればキャバ嬢にも勝ったんじゃない」
「……」
「ど、どうしたの深刻な顔して」
「い、いや、いまソイツのアカウント覗いたら一昨日、50万のシャンパンタワーいれたらしくて」
「ねえSNSやめよ? 心の病だよ」
「無理なんです、定期的にSNS巡回しないと疎外感で落ちつかなくて」
「もう立派なネット中毒者じゃん。あ、唐揚げ食べる?」
「ありがとうございます!」
セイコさんの手作り唐揚げをもらいパクっと一口。
これが家庭の味か。泣ける。
間違いねえ。
この女、サ〇ゼで喜ぶ系彼女だ。
「シュート君て凄いよね、普通スキルが弱かったら皆ハンターは諦めるのに。どうしてそんなに頑張れるの?」
「俺はいつか
「
「笑いますか?」
「ふふふ、人の夢をわらうやつは馬鹿野郎よ」
セイコさんは垂れ目を細めて微笑んだ。
優しくて美人で家庭的とか最高かよ。
それは全世界のハンターで、たった一人のみに送られる称号。
「俺は
「彼女って、この子よね」
セイコさんは垂れ流しにされているTVの生中継へ視線を移す。
筋骨隆々のオネエ系おっさんが、黒髪の美少女にインタビューをしていた。
『あっらーん、サクラちゃん、今年こそジャパン
『……別に興味ないんで』
陽気なオエネさんを、塩対応で彼女はさらりとかわす。
「この子、いつもクールだよね。なんか感情がないっていうか」
「まあ、それが人気の一因になってるみたいですけどね」
生中継にはライブコメントが次々とながれてくる。
『さすがサクラ様、今日も塩対応でwww』
『だがそれがいい!』
『はあ、ふつくしい」
『こんな綺麗な子が、日本最強の一角とか漫画の主人公かよ』
『ボンキュッボンのなのもいいよね。はかどるわ』
『きも、黒鉄の姫を汚すな』
絹糸みたいな艶やかな髪は、夜を連想するほどの美しい黒。
その容姿はゾッとするほど冷たく、どんなときも表情を崩さない。
鉄のごとき冷たい印象を抱かせる相貌から、黒鉄の姫の愛称で知られる。
俺の大好きな幼馴染、天真サクラ。
「彼女って強いんでしょ?」
「ええ、当然! サクラは凄いんですよ! 強いのに顔も女神級に可愛くて、スタイルも完璧だッ」
「ほ、本当に幼馴染なの? コメントと同じことしかいってないけど」
「あんたふざけんなっ! そんなわけないだろッ。俺と彼女は心で繋がってる! あんな冷たそうにしてるけど、たまに見せてくれる笑顔が最強なんだっ! あと子供の頃一緒にお風呂にだって入った!」
「わ、分かったから! ごめんって疑って」
「ふう、まあいいですよ。あ、彼女史上最年少で3等級ハンターになったらしいっす」
「一番重要なところさらっと流さないでね」
現在、日本にいる最高位ハンターは2等級だ。彼女は3等級ハンターの中で最も2等級に近いと評されている。
もし、彼女が今年開催されるDリーグで結果を残せば、間違いなく昇格するだろう。
Dリーグとは、国内最強のギルドを決める年に一度の
高クラス、高ランクほど、税制優遇など様々な特典が受けられる。
Sクラス戦にもなればどの国も祝日になるほど、この祭典は人気が高い。
Sクラス戦で最も活躍したものにはMVPの称号が送られる。
そして、四年に一度、各国のSクラス1位のギルドが集まって最強ギルドを決定する
その最強決定戦で、最も活躍したハンターが
俺はこれを目指している。
幼馴染を振り向かす、そのためだけに……。
それがあの日、俺が自分に課した
ちなみに、我らがヘッジホッグはD級1004位。ぶっちぎりの日本最下位である。
「シュート君は
「いないですね。だから、俺が日本初っすね」
「す、すごい自信ね。D級1004位なのに」
「逆に追い抜く相手が多くていいよね」
ビリから一位とか素敵やん?
男子ってそういうのめっちゃ好っきゃねん。
「割と本気で君のこと尊敬してる」
「人妻が童貞に手ぇだしちゃ駄目っすよ。俺には心にきめた人がいるんで」
「……それを言える神経も含めてギリ尊敬が勝つ。でも、あれよね、
「そうっすね。ギルド戦はMAX10対10のチーム戦ですから。最低でもあと4人はいないと厳しい」
アンコちゃんとミチシゲはあの年齢では無理だろう。戦う前から死んでるみてぇなもんだ(ハンターとして)
見たこともない
こっちは物理的に死んでる可能性すらある。
となると必然的に俺一人での出場を余儀なくされる。
クソゲーかよ。
いや、泣き言は吐いてられない。
はやく、モンスターを沢山倒して俺は彼女に追いつくんだ。
そのために朝から晩までダンジョンに潜り続ける。
「やあやあやあ」
セイコさんと話をしていると、突然ギルドに見知らぬ男が乱入してきた。
しかも、ドローンを飛ばして無許可で配信してやがる。
男は俺を見つけるとニヤリと笑って言った。
「ぷぷぷ、必死にスライム狩りでポイント稼ぎしている、ポイ活ハンターがいるギルドってのはここで合ってるかーい?」
「あ?」
どうやら他ギルドから喧嘩を売りにきたらしい。
いいだろう。俺は売られた喧嘩は買う主義だ。
ぶっ飛ばしてSNSに晒してやろうじゃん。
―――シュートの残高――――
今回の収益 スライムの11等級魔石2個。
手数料を引き +7500円
貯金残高 124875円
合計 132375円
――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます