第19話

 空き家のそとの道は、人気がなく、寒々しいです。

 心の中に深い霧をただよわせるクロエは、街の中央に向かおうと、歩を進ませます。


 道の先に、その男はいました。


 大工の大男、ドワイトです。


 大工ドワイトは、クロエの行く手を阻むように突っ立っています。

 大男は汚い歯をむき出して品のない笑みを浮かべ、クロエに言います。


「よう、嬢ちゃんよ。ひとの村で、こそこそすんな、っていう、おれのアドバイスは無視か?」


 クロエ・ガーネットの目つきは鋭くなり、ドワイトを睨め付けます。


「あなたのアドバイスを聞き入れて、それが何かわたしの、とくになるの?」


 ……しまった……。人気のない暗い道……挑発された、腕力の塊のような大男……。

 これは、いい状況とは言えないわね……。


 ドワイトは眉間にしわを寄せます。


「おれのアドバイスを聞いて、どうとくになるかは知らねえ。だがな、アドバイスを聞かないとどう悪い目に会うかは知っているぜ。教えてやろうか?」


 ……まずい……。


 そこで、ドワイトは下卑た笑い声をあげました。


「ははは! いま、お前さんの生意気な目つきがよ、怯える目に変わったぜ! こいつは愉快だな! いつも強がってるのによ! 猫に追いかけられるネズミの目だぜ、そりゃ! こいつは笑えるな! ははは!」


 クロエは何も言わず、ただただ立っています。


 道の真ん中に立っていたドワイトが、端へ移動しました。


「さあ、臆病者の嬢ちゃんよ、どこへでも行っていいぜ! また、おっかねぇ目に会いたくなかったらよ、二度とこの村にくんなよ! あー、こりゃけっさくだぜ! はっはっは!」


 クロエは、冬の砂のように冷たい目つきで、ドワイトの横を通り過ぎていきます。


 大男は、いつまでいつまでも、心底おかしそうに笑っていました。

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