第42話 きららの仕事(上)

「「お邪魔します」」

「それじゃあとりあえず自分の荷物を部屋に運んで置いてくれ、俺は買った物をしまってくるから。きららは薫と一緒に行ってくれ」

「分かった!それじゃあ置いて来るね」

「うん!私は薫ちゃんに着いていくね」


 家に着いたので俺は早速二人を家の中に入れてそう言う。

 自分の部屋と言ったのは既に薫用の部屋は完成しているのでそう言った。

 きららはちょっと驚いた表情になっていたのだが別に隠す事でもなんでもないしな。まぁ、薫の方から説明してくれるだろう。


 因みに今日は薫に何が食べたいか聞いたのだがオムライスかカレーで迷っていて結局オムライスになった。

 一緒に居て分かったのだが薫はオムライスと唐揚げが好きみたいだな。

 そう言えばカフェに行った時俺と同じのが食べたいと言ってオムライスを食べて居るとき凄く嬉しそうだったのを思い出した。

 そして今日は初日って事もあって買い出しは三人で済ませてある。


 俺はそんな事を考えながら今日買った食材や買い足した飲み物などを冷蔵庫にしまったりしていた。

 


★side:弘識きらら


 私は今薫ちゃんに連れられて海斗君の家を歩いている。

 あの時の私は正気じゃなかったから余り意識していなかったけどやっぱり海斗君のお家って大きいな……私は改めてそう思った。

 友達の家にお邪魔した事は少しくらいならあるけ間違いなく一番大きい。


 私が初めて海斗君のお家に来た数日後に海斗君と薫ちゃんと電話しながら聞いたんだけど海斗君も私と同じようにご両親が居ない……しかも私にはおじいちゃんとおばあちゃんが居たのに海斗君にはいなかったから、小さい頃から独りぼっちだったらしい。

 

 どうやって暮らしてきたのか詳しく聞いたわけじゃなかったが、海斗君はそんな環境下で自分で稼ぐ方法を見つけ出してこの家を購入したと言っていた。

 私はそれを聞いて本当に凄いと思い、素直に尊敬した。

 

 私におじいちゃんとおばあちゃんが居なかったら……そう考えるだけで悲しくて寂しい……だから本当に凄いと思う。


「この部屋に荷物を置いてね」

「うん!」


 私は薫ちゃんにそう言われて部屋に入った。


「そういえばさっき海斗君が薫ちゃんに自分の部屋にって言ってたけど?それって……」


 わたしは部屋に入るとそう聞いてみた。

 この部屋は前に私が来た部屋ではない部屋で、部屋の中はベッドやタンス、机などがあるだけでシンプルな部屋だったが、可愛いぬいぐるみが数個あったりもするので海斗君の部屋って感じではない。

 海斗君がさっき言っていたけど薫ちゃんの部屋って事なんだろうか?

 前に行ったのが海斗君の部屋っぽかったしそうなのだろうと思っている。

 

「きららちゃんには隠す意味もないしこの家で働くわけだから言っちゃうね。この部屋は海斗君が私にって一部屋くれたんだ!」


 薫ちゃんは嬉しそうにそう言って来た。


「ふふふ、二人って本当に仲が良いんだね」


 私はそんな薫ちゃんを見てつい微笑んでいた。

 私から見ても海斗君は本当に薫ちゃんを大切にしているのが分かるし、薫ちゃんは本当に海斗君が好きって事が伝わって来ている。


「うん!そう言われるとちょっと恥ずかしいけどね……それとね。この家にはベッドが海斗君の部屋とこの部屋にしかないからきららちゃんが、休憩するときとかは遠慮なくこの部屋を使って良いからね」

「良いの?薫ちゃんの部屋なんでしょ?」

「当然大丈夫だよ!下にはソファーとかもあるけどこっちの方が休憩しやすいからね!その分頑張ってね!」

「分かった。それじゃあそうさせてもらうね薫ちゃん」

「うん!」

「それじゃあそろそろ行こう薫ちゃん。海斗君も待ってると思うからさ」

「そうだね。それじゃあ行こう」


 二人には本当に感謝しないとな……そう思いながら部屋を出た。



 俺がリビングルームで待っていると薫ときららが一緒に降りてきた。


「お待たせ海斗君!」

「私は準備出来たよ!早速仕事しても大丈夫?とりあえずお米を炊いておきたいんだけど」


 きららは降りて来て早々にそう言って来た。

 凄いやる気だな。


「それじゃあお願いなきらら」

「はい!」


 きららはそう言って元気よく台所へと向かって行った。


「張り切ってるねきららちゃん」

「そうだな。初日だし今日は薫もいるし張り切ってるのかもな」

「そうなのかもね。でも楽しそうで良かったよ」

「まぁ、そうだな。あんな姿を見た後だと尚更そう思うな」

「うん。それにきららちゃんの料理って本当に美味しいから楽しみにしてても大丈夫だよ!」

「薫はきららの料理を食べた事あるのか?」

「きららちゃんって学校に持ってくるお弁当は自分で作っていたみたいだから少しだけね。きららちゃんは簡単にしか作ってないって言ってたけど凄くおいしかったよ。卵焼きとかね。」


 そう言えばきららって食材を安く済ませながらも出来るだけ安っぽいお弁当にならないように中学生の頃から練習してたんだっけな。

 中学は当然給食が出るけど高校になった時の為にってな……まぁ、家ではおばあさんときららが料理を当番してたから、おじいさんとおばあさんにおいしい料理を食べて欲しいってのもあったんだろうけどな。

 

「なるほどな」


 俺たちがその後も雑談しているときららが来た。


「今お米炊いてるんだけど今から料理を作っちゃうとちょっと早いから掃除もしていい?全部屋は無理だと思うけど……」

「それは大丈夫だぞ。掃除は毎日するものでもないしな。使っている部屋は多めに掃除をしてもらうと思うけど使っていない部屋だったら回数は少な目で大丈夫だ。学校がある日はそんな時間に余裕もないだろうしな。日によって掃除をする部屋を変える感じで大丈夫」

「分かった。それじゃあそうするね」

「一応分かりやすいようにどの部屋がどんな部屋でどのくらい使っている部屋なのかはまとめて置いたから渡しておくな」


 俺はそう言って軽く家の部屋に着いてまとめた紙を渡した。

 作るのにかかった時間はわずかだし簡単なものだがないよりあった方が良いと思って作ったものだ。

 大体使ってない部屋の方が多いしな。


「ありがとう」

「あぁ、ていうか今日は掃除しなくても大丈夫だからその紙を持って家の中を確認しても大丈夫だぞ?なんなら俺が案内するけど」

「それじゃあ、今日は家の中を見させてもらおうかな……結構大きいから慣れるまで時間が必要そうだしね。でも案内は大丈夫だよ!二人はゆっくりイチャイチャしてて大丈夫!」

「そっか。それじゃあ入っちゃいけない部屋とかは全くないから自由に見て来てくれ」

「うん!行ってくる!」


 きららは笑顔でそう言って部屋を出て行った。


「気を遣ってくれたのかな?」

「そうかもな」

「大丈夫なのにね。イチャイチャだったら二人っきりの時にずっとしてるし」


 薫の言う通り付き合い始めてから二人っきりになるとずっとくっついているんじゃないかってレベルでイチャイチャはしている。


「まぁ、きららとしてもその方が良いんだろう。頑張りたいって気持ちとか、俺と薫の邪魔をしたくないって想いとか色々とあるんだろうきっとな」


 とは言った物の、既にきららが居る時でもイチャイチャはしているのでたぶんきらら的に一番は俺達に気を遣わせたくないって思いと手を煩わせたくないって思っているんだろうな。

 

「それもそうかもね。でもきららちゃんが働いてるのに私たちだけ遊んでるってちょっと罪悪感があるかもね」

「それは気にしな方が良いな。きららにはお金を払って働いてもらってる訳だしきらら的にも俺たちが遊んでいた方が心置きなく働けると思うぞ。変に気を遣わな方がきららも楽だろうな」

「ふふふ」


 俺がそう言うと薫は嬉しそうに笑った。


「どうしたんだ?」

「ううん。海斗君って本当に優しいなって思ってね」

「そうか?」

「私の時もそうだったけど海斗君って常に相手の気持ちになって物事を考えられる人だからそうだよ。私が大好きになったのはそんな海斗君だからね」


 満面の笑みを浮かべて薫はそう言う。

 

「そっか。ありがとうな」

「うん!」


 大好き……その言葉は薫に何度も言われているがやっぱりいつ言われても嬉しいんだな。

 前世を含めてこんなにも自分を愛してくれた人はいなかった。

 改めて薫と出会えて良かったなと俺は思った。

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