第41話 三人で下校
――薫と一緒にきららと話してから一週間ちょっとが経った。
今は今日最後の授業中だが俺は考え事をしていた。
きらら曰くおじいさんの手術もそこまで難しい物でもなかったらしいとのことでうまくいって今では元気とまでは言わないけど着々と回復の傾向にあるとの事だった。
一カ月は入院が必要だろうけどきららも今では前みたいに元気になっている。
ていうか前よりも楽しそうだ。
いろいろと肩の荷が降りて楽になったからだろう。
きららのおばあさんやおじいさんからもお礼をってきららに言われたのだがお礼を受ける気は特になかったので大丈夫と言った。
まぁ、受けても良いのだろうけどきららにはちゃんと働いてお金を渡しているだけなわけだしな。ただ給料がちょっと多いだけだ。
それからきららは家の事や家族の事、今までバイトばかりしていた事、おじいさんが入院した事など俺たちに話してくれたことは既に仁美にも共有したらしい。
どんなやり取りがあったのかは俺の知るところじゃないが、今まで隠していた秘密をやっと共有出来てスッキリしたのもあるのだろうけどあの三人の絆がより一層深まっているようだった。
薫もきららも本当に楽しそうで良かった。
仁美も仁美で冷たいように見えるけど全然そんな事はなくちゃんと友達を大切にする人間だしな。
それとこれはきららに聞いたのだが、薫の人気が最近上がっているらしい。
いや、元々人気ではあったのだが更にって意味だ。
前に薫に告白してこようとしていた人がいたらしいがきららが阻止したとの事だった。
いやまぁ、今の薫に関しては百パーセント断るってのは分かり切った事ではあるけど、そう言った時にきららや仁美が薫と一緒に居てくれるのはありがたいな。
ていうかそんな事が今後多くなるって考えると、もうそろそろ俺と付き合っている事を公表しても良いんじゃないかと思っている。
まぁ、元々薫の友達から距離を置かれるのが心配って話だったからな。
大体きららと仁美は既に知っていて離れる事は絶対にない訳だし、今では俺を見て怖がる人は多少いるけど嫌悪感を出してくる人はほとんどいない。
多分テストで一位だった事が大きく影響しているのかもな、先生に対してもちゃんと接しているしそれも理由の一つだと思う。
そんな訳で俺の評価はだんだんと良くなってきているしな。
山崎に関してどうなるか分からないが、薫が言い寄られて迷惑を受ける位だったらそうするべきなのかも知れない。
ていうか山崎の事は薫にちょくちょく聞いているし、なんなら俺も宮里の一件から山崎の事をちょっと意識して観察していたのだが、薫ときららと仁美の三人全員を意識しているように見えた。見えただけで確定だとは言えないがそんな感じだった。
いやまぁ、山崎自身誰かと付き合っている訳じゃないし好きな人が複数人居るのは別に悪い事でもなんでもないのだけどな。
それでも薫の心は絶対に動かないし俺も動かさせるつもりはないので諦めてもらうしかないな。
それにほぼ確定で絶対とは言えないが山崎は一応きららを宮里に……そう思っちゃうし。
まぁ、でも公表に関してはきららは私が守るね!って言っていたからもう少し様子見かな。
それに今日からちょっと忙しくもなりそうだしな。
◆
――今日最後の授業が終わって放課後になった後、薫達が先に教室を出て行ってから俺は少し時間を空けてから教室を出た。
いつもの集合場所に行くと薫ときららが居た。
因みに今日からきららが俺の家で掃除や料理を作ってくれる日なのできららが居るのは知っていた。
薫も今日は塾がない。元々仁美も来る予定だったらしいが家の用事で来れないとの事だった。
仁美は俺の家に来たこともないのだが、せっかくきららが働く初日だし皆できららの手料理を食べようって事になっていたので俺がそれを許可した感じだ。
「お待たせ」
「全然待ってないよ海斗君!」
「私たちも今来たばっかりだからね」
「そっか。それじゃあ早速だけど行こうか」
「「うん!」」
そうして俺は薫ときららと一緒に家まで歩き出した。
「改めて今日からよろしくなきらら」
「うん!私の方こそよろしくお願いします!」
「頑張ってねきららちゃん!」
「頑張るよ薫ちゃん!」
そんな二人は笑顔だった。
それから少ししてきららが言った。
「改めてありがとうね二人とも……」
「ううん……私は何もしてないよ……」
きららがそう言うと薫がそう言った。
「そんなことないよ!私はあの時薫ちゃんの声を聞いて……顔を見て本当に安心したんだよ!それにそれからもずっと一緒に居てくれたし優しく声をかけてくれたじゃん!私はそれで本当に救われたんだよ!」
あの時、それは間違いなくあのおじさんに体を売る直前の話の事だろう。
確かにあの時のきららは膝から崩れ落ちてたくらいだしな。
改めて思うと本当に怖かったのだろう……本当に助けられて良かった。
たまたま通りかかっただけだしもし薫の塾が無い日だったらと考えたらかなり俺は後悔していただろう……俺が知っていた期間より早かったとは言え俺が何もしなかった訳だしな。
「そっか……それだったら良かったよ。私もきららちゃんの力になれてたんだね」
「それは当たり前だよ!」
「本当に良かったよ」
「うん!ありがとう!海斗君も本当にありがとうね」
「気にするな。俺に関しては普通にお金を払って雇ってるみたいなものだしお礼を言われる事じゃないって前にも言っただろ」
「そうだったね。じゃあありがとうって言うのはこれで最後にするね!これからは頑張るからよろしくね」
「あぁ、よろしくな……そう言えば薫も今日は夜ご飯を食べていくんだったよな?」
「うん!そのつもりだよ。きららちゃんの負担が増えちゃうのは嫌だなって思ったんだけけどね」
「大丈夫だよ!夜ご飯が一人や二人分増える位だったら全くと言って良いほど労力は変わらないし大変でもないからね。薫ちゃんが来るんだったらそのくらいは当然いつでもするよ!」
「ありがとう!楽しみだな……きららちゃんの手料理!」
「そんなに上出来な物じゃないけど二人に満足してもらえるように頑張るね!」
因みにきららには食費の事は気にするなと言ってある。
基本きららは夕食を俺の家で一緒に食べてから家に帰るって流れになっているのだが、その際にきららが自分で作って食べたいものがあったら自由に作って食べて貰って構わないと言ってある。当然薫が来るときも同じで自由にお金を使ってくれていいと言ってある。
それから買い出しなどもきららがする事になっている。
俺が一緒に行っても良いのだが、ただでさえ給料も多いのでそこらへんは任せきっちゃった方が良いと思ったからだ、てかきららが任せてくれって言っていた。必要以上に手助けしちゃうときららが罪悪感を抱いちゃう可能性もあるしな。
俺の家で夕食を食べるとおじいさんとおばあさんとの時間が減っちゃうと思って大丈夫かなとも思ったがそこらへんはちゃんと話しているし、休みの日もあるし朝ごはんは毎日一緒に食べられるし大丈夫との事だった。
それに給料は前払いにしているのである程度余裕を持った暮らしが出来るようになっているので寧ろ入院しているおじいさんはもちろんおばあさんの方も余裕が出来て嬉しそうにしていたの事だった。
ゲームだとおばあさんとおじいさんはきららに対して申し訳なさを常に感じていたって話だったと思うので、笑顔で楽しそうなきららを見て嬉しいんだろうな。
きららは生活に余裕が出来ておばあさんが笑顔になっていると思っているがたぶんそれよりもきららが楽になって安心しているのだろう。
まぁ、たぶんだけどな……
そんな訳でそう言う感じに最終的に落ち着いた。
俺は二人の話を聞いてそんな事を考えていた。
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