第38話 きららとのお話(下)

「そうじゃなくてな、俺が入院費やその他諸々を払うって事。もちろん俺に体を許せなんて言うつもりはない」

「え?」


 俺がそう言うときららは意味がわからなそうに戸惑っていた。


「まぁ、簡単に言うと俺って自慢に聞こえるかも知れないけどお金に余裕があるし、きららたちの代わりに入院費や手術代を払うって事。でも勿論ただでって訳には行かないからその辺はどうしようかって事を今から話し合いたいかな。薫はどう思う?」


 俺は当然ただだとは言わない、そう言った。

 意味があるかは分からないが少しでもきららが受け入れやすくするためだ。

 

「そうだね……海斗君がそう言うんだったら私もいい案だと思うかな。私がお金を出す訳じゃないけど、きららちゃんが自分の体を売るなんて私かしても凄く悲しいからね」

「そうだよな。流石に俺も友達が体を売るなんて言ってるのに放っておくとか無理だし薫もそうした方が嬉しいならそうしようか。でも条件はどうしようか?そこが問題だよな」

「それだったら……」


 薫が何かを言おうとしていた時きららが遮った。


「ちょっと待って……どういう事なの?全然分からないんだけど……二人は当然のように話してるけど……」


 きららはきょとんと首を傾げてそう聞いてきた。


「今言ったとおりだけど……そうだな俺って割と稼いでいるって言うか生活に余裕があるからきららがそこまでしなくても代わりに払ってあげるってだけなんだが……さっきと同じ事を言っているけどまぁ、そう言う事なんだ」

「きららちゃん。海斗君って本当にお金持ちだし、海斗君がそう言うんだったら私もきららちゃんには海斗君の提案を受け入れて欲しいの……」


 俺と薫がそう言うときららは困惑しつつも涙目になっていた。


「お金持ちなのは分かったけど……でもそんなの悪いよ……海斗君にさ……」

「でもさ。考えてみて欲しいんだけどそうするのが皆幸せだろ?俺はきららを助けたいからそうするだけだし、きららも自分を売らなくていい。それでいておじいさんも助けられるんだしな。何より薫が喜ぶ」

「そうだよきららちゃん。海斗君の言うとおりだよ!」


 俺と薫が優しくそう言うときららは泣き出した。


「うぅ……ありがとうっ……ふ、二人とも……っ!」


 再び泣き出してそう言うきららに対して薫がまた慰める形になった。

 

 多分だけど状況が違ったらきららはこの提案を受け入れていなかっただろう。

 というのも、今はおじいさんの命がかかっていたり自分の事もあったりと本当に追い詰められている状況だからだ。

 仮にちょっと欲しいものがあって急遽お金が欲しいからとかの状況だったら断るんだろうな……まぁ、予想だけどな。

 俺はそう思いながら俺はきららが落ち着くのを待っていた。


 ――それからまた暫く経った後。


「もう大丈夫だよ薫ちゃん!」

「そっか。良かったよ」


 沢山泣いたきららは今は笑顔になってそう言っていた。

 俺の提案もあって心がかなり楽になったのだろう。


「それで……私はどうすればいいのかな……海斗君……」


 きららは俺に対してゆっくとそう聞いてきた。

 

「どうしようかな……そう言えば薫ってさっき何か言いかけてなかったか?」

「その事だったらちょっと提案してみようかなって思ったの」

「提案?なんだそれ。言ってみてくれ」

「うん。値段とかは特にイメージしてないんだけどね。海斗君ってさ、綺麗好きだけど掃除が大変って言ってたでしょ?それに自分じゃ料理もそんなにできないともね」

「まぁ、家は綺麗であって欲しいな、料理に関してはそんなにじゃなくて全然出来ないな。それがどうかしたのか?」

「それでね、きららちゃんって前にちょっとだけ話したけど家事が得意なんだよね?」


 俺はここまで聞けば流石に薫が何を言いたのかは理解できていた。

 正直俺もきららが家事が得意って事はゲーム知識として分かっていたので同じ事を思ってはいたのだが流石にそれは大丈夫なのかな?そう思い俺の中で消していた選択肢だった。


「そうだね……前は家の状況まで話してなかったけどおじいちゃんとおばあちゃんとの三人暮らしだから家事は私も沢山やって来てたからね」

「だよね。だったらさ、海斗君がきららちゃんを家政婦みたいな感じで雇ってあげれば良いと思うの」


 俺の思った通り薫は笑顔でそう言った。

 俺としては家政婦として家に入れるにしても異性だし同級生だからと言って薫としてもいい気はしないんじゃないかと思ったんだけど、そんな感じはなさそうだな。


 俺がそんな事を思っていたらきららが薫に尋ねた。


「え……でもその時って薫ちゃんも海斗君のお家に居るの?」

「ううん。いないよ。もちろん居るときもあるとは思うけど私がいるとかは関係なしだよ」

「前に聞いたと思うんだけど海斗君って……その、一人暮らしだよね?」

「そうだよ。海斗君は一人暮らしだね。だから家政婦さんが必要なんだよ」


 別に必要と言うわけではなくいたらいたで便利だなってだけなんだよな。

 ただ知らない人が家を出入りするのが気分悪かっただけだ、その点で言ったらきららだったら薫が許すなら是非って感じではある。


「それって……海斗君と私が家で二人っきりになるけど……良いの?……もちろん変な事を考えている訳じゃないからね!!」


 きららはそう良いのか聞いた後に慌ててそう言った。

 まぁ、でもそれは俺もきららと同じ意見ではある。


「大丈夫だよ?二人が変な事をするなんて思ってないしね。それにこの際だから言っちゃうけど、何でか分かんないけど私って海斗君が他の女子とイチャイチャするって考えたら凄く嫌な気持ちになるんだけど、その相手がきららちゃんって考えた時は何故か嬉しいって思えちゃうんだよね……どっちの事も好きだからかな?大体二人に仲良くしてほしくて勉強会とかも一緒にしようって言ったんだしね」


 薫はそう言うが……やっぱりこれもゲームの影響を受けているって事なのだろうか?ゲームでのハーレムエンドでも三人はお互いに嫉妬をする事がなかったはず。

 それでいて三人以外の女性が相手だと嫉妬しちゃう……まさにゲームと一緒の展開だ。

 この感じだときららを安心させてあげたいから嘘を言っているって感じでもなさそうだ。

 

「そ、そうなの?」

「うん!それにこれからは海斗君のお家に来れば三人で遊べるって事だしね!」

「まぁ、俺としても薫が良いって言うなら大丈夫かな」

「それじゃあ、そうさせてもらおうかな……掃除とか洗濯とか料理とかだよね!私は得意だから任せてね海斗君!」

「あぁ、お願いな。取り敢えずお金は先払いって事で一括で渡すけど大丈夫か?それと俺の方からきららのおばあちゃんに説明した方が良いとかはあるか?」

「そうだね……私の方からおばあちゃんに説明して海斗君の説明が必要そうだったらお願いするね」

「分かった。じゃあそれでな」

「それで、どのくらいの頻度で家政婦として来れるんだ?」

「そうだね……それ以外にもバイトはあるから……」

 

 バイトか……正直止めて貰って俺が給料として多めに払うってのも良いと思うんだけどな……そんな事を思いつつ話をつづけた。

 

 それから俺ときららと薫で話し合って結局きららは家政婦を週で5回、火曜日と日曜日以外の日で来ることとなった。

 それでいて給料はめちゃくちゃ多めに設定させてもらったのだが、当然きららは反対していた、多すぎるよ!ってね。まぁ、その通り普通の社会人の給料と比べてもかなり多いのだが結局納得してもらった……大変だったけどな。

 

 まぁ、俺としては借金もある訳だし何よりバイトを止めてもらって学生らしく生きてもらいたかったからな。

 ゲームでは良く知っていたのだが、きららは小学生の頃からちゃんとした青春を送ってきていなかったから、俺としては折角の高校生活を楽しんで欲しい。

 そうすれば薫とも遊ぶ時間が増えるだろうし、薫も嬉しいだろうってのもある。


 そんな感じで話し合いを終えた俺は薫と一緒にきららを家まで送ることにした。

 因みに薫は俺の家に泊まっていくらしい。

 

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