第37話 きららとのお話(上)
「じゃあ俺は飲みものでも取って来るから二人はここで待っててくれ……と言ってもお茶しかないんだけど大丈夫か?」
俺は薫ときららを部屋に連れて行き座らせてからそう尋ねた。
「私は大丈夫だよ海斗君、きららちゃんも大丈夫?」
薫はそう言ってきららは無言で頷くだけだった。
「そうか。それじゃあ少し待っててな」
――それから俺はお茶を取りに行っていた。
「きららはかなり追い詰められている感じだったな……」
きららの様子を見るにそれは明らかだった。
薫も相当心配そうな顔をしていたし薫の目から見てもそうなのだろう……ていうかあんなことをしようとしていたんだから当然か……
おじいちゃんが倒れて入院、それだけできららからしたら凄く心配だろうにお金の問題もある。
元々余裕がない生活をしていたのにおじいちゃんの入院費や手術費などでまとまったお金が必要って感じだったしきららが追い詰められるのも納得は出来る。
「お金を上げるのは簡単なんだけど……」
俺がきららにお金を上げるのは難しい話ではない、ていうか簡単だ。
金額で言うと確か100万か200万あればどうにかってくらいだったと思うからな。
しかしそれだときららは受け取るとは思うが、その後絶対に無理して返そうとするだろうからな……
「まぁ、とにかく薫と一緒にきららの話を聞いてから考えようか」
◆
「お待たせ二人とも」
「ありがとう海斗君」
「あ、ありがとう……」
きららは先ほどと比べると凄く落ち着いてきてはいるがいつもみたいな元気は当然ない。
そうして俺が座ると薫が早速話し出した。
「それで……きららちゃん……何があったの?私たちに話せる?」
薫は優しい声でそう聞くときららは小さく頷いた。
「それじゃあ、ゆっくりでいいから話してみて」
「う、うん……じ、実は、お、おじいちゃんが……」
きららはそう言ってまた泣き出してしまった。
「きららちゃん!?大丈夫?」
「……っ!お、じいちゃんがっ……」
「一回落ち着こうね。ゆっくりで大丈夫だから……」
泣き出してまともに話せる状態じゃないきららを薫は優しく抱きしめている。
俺はそんなきららを見て思った。
多分おじいちゃんが倒れてから初めてまともに泣いたんだろうなと……
ゲームでもそうだったがきららはおじいちゃんが倒れても自分がどうにかしないと!って気持ちとおばあちゃんが泣いている姿を見て自分は泣いちゃだめだ!そう思って無理やり泣かないように頑張っていたんだよな。
まだ三日目だがそうとう無理をしていたのだろう。
目を見ても隈があるしまともに寝れても居ない様子だしな。
俺は今まで涙を流さないように頑張っていた分も思いっきり泣いているきららとそれを慰めて声をかけている薫の姿を無言で見ていた。
――それから暫くしてきららは泣き止んだ。
泣き止んだと言っても当然元気はないが話せる状態にはなっていた。
「大丈夫?きららちゃん」
「うん……ごめんね。薫ちゃんも海斗君も……迷惑かけちゃって」
きららは俯きながら薫と俺にそう言って来た。
「私たちは大丈夫だよ」
「そうだな。落ち着けたなら良かったよ」
「そうそう、だからきららちゃんは気にしないでね!」
「うん……ありがとう……」
――それから少し無言の時間が続いた後、薫が話し出した。
「きららちゃん?あの時のおじさんって……知り合いなの?」
「ううん……」
薫がそう聞くときららはそう言って首を横に振った。
「それじゃあ……それってやっぱり……」
「ち、違うよ……私は今日が初めて……だったよ……」
おそらく薫にそんな人だって思われたと勘違いしたきららは慌てつつも力のこもっていない声でそう言った。
「まぁ、それは大丈夫だぞ。薫はきららがそんな事はしないって分かってるだろうしな。それに未遂で終わったしな」
「そうだよきららちゃん。大丈夫だよ」
「うん……ありがとう」
「それできらら、何があったのか話せるか?薫も俺も力になるからさ」
俺がそう言うときららは少し間を開けてから小さな声で話し出した。
「私の家ってね……小さい頃からお父さんとお母さんが居なくておじいちゃんとおばあちゃんと私しの三人暮らしなの……それで凄く貧乏でバイトを頑張っていたのもそれが理由なの……」
「そうだったの?凄く頑張ってたんだね……」
「まぁ、いっつも頑張ってたしな。そんな理由があったんだな」
「うん……今まで黙っていてごめんね……」
「そんな事大丈夫だよ。言えない理由があったんでしょ?」
「言いたくない事くらい人だったら一つや二つあってもおかしくないしな」
「ありがとう……二人とも……それでね、そんな中ね……木曜日の夜におじいちゃんが突然倒れちゃったの……」
そう言うきららは凄く悲しそうな顔だった。
「え!?大丈夫なの!?」
「それじゃあ金曜日休んでいたのもそれの事か?」
「うん。おじいちゃんが入院するってなったから色々とやらないといけないことがあったから……薫ちゃんと仁美ちゃんには心配をかけたくなくて言えなかったの……」
「そうだったんだね……」
薫は心配そうにきららの事を見てそう言っていた。
「それでね……おじいちゃんは手術をしないと駄目な状態らしいの……手術自体はそんなに難しい物ではないけど、年齢もあって早めにって……だからどうしてもお金が必要だったの……」
「それで自分の体を使ってでもお金が必要だったんだな……手術代に入院費、生活費だってあるし今のきららの話を聞く限りじゃ本当に切羽詰まった状態だったのか」
「そんな事が……」
俺たちがそう言うときららは微笑んで言って来た。
「だからね……止めてくれた二人には申し訳ないけどね……私がやっぱり頑張らないとだから気にしないで私は大丈夫だからね。でも二人にはこれからも友達でいて欲しいな……」
きららは微笑んでいるが明らかに無理している事は伝わって来る。
大体手が凄く震えているしな。
薫はどうすればいいのか分からずに凄く戸惑っている。
当然薫もお金持ちって訳じゃないし代わりに払ってあげるのは無理。
俺がお金持ちだとは知っているけどそれは俺のお金だし薫から俺に代わりに払ってあげてなんて言えるわけもないしな。
これは俺から言うべきことだな……と言ってもどう言うべきか?
自分の体を売ったりなんかしたらおじいさんが悲しむぞと正論を解いて体を売るのはやめろとかそんな事は追い詰められているきららに言っても尚更苦しむだけだろう……大体そんな事はきらら自身が一番理解しているだろうしな。
まぁ、良いか……詳しい内容は提案出来ないが取り敢えずははっきりと言っちゃおうか。何個か俺の中で候補はあるが、そうすれば薫も意見を言ってくれると思うしな。
そうすればきららを助けられつつ、きららが罪悪感を感じないようにお金を渡せる……そんな所にどうにか落とし込めるだろう。
きららを見てもおじいさんが倒れてからまともに寝れていないだろうって思えるほど隈があり元気がない。そしてそんな中でバイトもしていたんだろうし早く安心させてあげないとだしな。
このままじゃきららも倒れる気がするし。
俺はそう思って直接はっきりという事にした。
「なぁ、きらら。それ俺が払うよ」
「え……でも海斗君には薫ちゃんが居るのに……」
ちょっと言葉足らずだったな……確かに話の脈絡的にを俺がきららの体を買うって聞こえなくもない。
俺はちょっとミスったなと思いつつも薫を見ると薫は微笑んでいた所を見るに、どうやら薫は俺が言いたかった事を理解できていたようだった。
俺は再び視線をきららに戻して言い直す。
「そうじゃなくてな、俺が入院費やその他諸々を払うって事。もちろん俺に体を許せなんて言うつもりはない」
「え?」
俺がそう言うときららは意味がわからなそうに戸惑っていた。
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