第30話 山崎真と宮里誠二

★side:山崎真


「やっとテストが終わったぜ!」


 俺はテストが終わった金曜日の午後一人で帰っていた。


「それにしてもテスト終わりって皆忙しいんだな……」


 最近遊んでなかったから薫と遊びにでも行こうと思ったんだけど何か用事があるっぽかったしな。

 薫が無理なら弘識さんか南川さんでも良いなって思って二人にも聞いたけど二人も用事あるって言ってたもんな……


「ていうか最近の薫って凄く可愛くなったよな……」

 

 これは俺がよく一緒にゲームをしている男友達も言っていてたし俺も実際に感じていた。


「あと薫って最近よく笑うようになったよな?」


 少し前までの薫は気弱な所があって、笑わない訳ではないけど今よりかは笑顔は少なかったはずだ。

 もしかしたら弘識さんのおかげだったりするのかな?

 最近凄く一緒にいるし弘識さんと話している時の薫は凄く楽しそうだもんな。

 

「それに最近の薫ってなんか違和感がある気がする……」

 

 急に可愛くなったのもそうだし前まではちょっとお節介って感じるくらい俺の事を心配してくれてたのに最近だとそれが全然なくなったんだよな……口うるさく言われなくなったのはちょっと助かるけどそれと同時に寂しさも感じている。

 それにテスト勉強も今回は一回も一緒にしなかったしな。


 もしかしたら俺が何かやったのか?そうも思ったんだけどそうじゃないっぽかったし。

 大体俺と居るときも普通に話してくれてるし、何なら前よりも楽しそうだしな。

 まぁ、スマホをいじる事はちょっと増えてるなって感じたけど何してんだって聞いたら弘識さんや南川さんとやり取りしてるって言ってたしな。

 どうやらその二人、特に弘識さんとは最近LUNEでやり取りする事が増えてるらしい。

 俺が薫と一緒に居る時間も減ってはいるが、薫が弘識さんと一緒に居る時間が増えてる訳だからそれは仕方のないことだろう。


「まぁ、でも薫も変わりたがってた訳だし悪い変化ではないから俺としても気にする事でもないのかもな」

 

 最近の薫は男子人気が前よりも上がってるらしいが、薫は変わったとは言え男子と話してる姿は見た事ないもんな。

 昔から一緒に居る俺が一番分かっているが、薫は男子と話すことが得意じゃないから、男子からは距離を置かれてるって思われがちなんだよな。

 それだから俺も安心出来てるんだけどね。


 俺がそんな事考えて歩いていたら誰かに声をかけられた。


「お!真じゃん!」


 そう言われて振り向くととても会いたいとは思えない同じ中学だった同級生が居た。

 俺をそう呼ぶ男は中学生の頃から余り良い噂を聞かない宮里誠二(みやさとせいじ)だった。

 この宮里はとにかく女好きで有名で捨てられた女子も少なくないっていう噂だ……いや噂というか表沙汰になっていないだけで実際に中学生の頃に被害者がいたとは聞いていた。

 まぁ表沙汰にされなかった理由は、被害者女性からしても大事にしたくはなかったんだろうな。

 それと実際にヤリ捨てられたって広まれば自分も学校に居にくくなると思ってたのだろう。

 それにアイツにはやばい兄がいるしな……それも大きな理由だろう。


 これは噂だが、中学生の頃に転校した女子が二人いたのだが、彼女たちが転校するって事は友達ですら知らなかったのだ。

 そしてその女子達が転校する前に宮里がちょっかいを出していた所を見たって人がいて、そんな事からその二人は無理矢理されたって噂もあったな……その子達の友達も後から連絡しようとしても連絡を取れなくなっていたってのがその噂の信憑性をあげてたとか何とかって話だった。

 その子たちは見た目は派手だが気が弱い方で悩みを抱え込むタイプだっていってたし尚更表沙汰には出来なかったのかもとも言われてたな。


 こいつ自身は少し身長が高いだけで全然怖くないのだが、問題はこいつの兄なのだ。

 こいつの兄はそこそこ有名な不良で凄く喧嘩っ早いんだよな……こいつは喧嘩すらした事無いらしいけどな。

 ていうか実は俺は一度たまたまだが中学生の頃にこいつの兄が喧嘩をしていて、自分より大きい男を倒していた場面に出くわしたんだよな……その時から暫くはこいつの兄を思い出すと震える位怖かったんだよな……

 

 俺はそうも思ったが強気で返事をした。

 

「どうしたんだよ?そんなに話す仲でもなかっただろ?」

「いやいや。たまたま見かけたから話しかけただけじゃん?何か問題ある?」

「問題はないけど、用事がなさそうだったらもう行くぞ?」


 俺がそう言うと宮里はニヤついて言ってきた。


「まぁまぁ、落ち着きなよ真……別に俺は真には何もしてないだろ?」

「だから別に用事は無いんだろ?」


 こいつと関わったっていいことなんて一つもないだろうし俺は早くここから離れたいと思っていた。


「真さぁ……幼馴染の子がいるだろ?」

「だったらなんだよ……」

「俺も同じ中学校だったけどさ……あの時は話せなかったから話せるようにしてくれないか?」


 は?薫と?

 中学生の頃は見向きもしなかったじゃないか?

 

「何で俺に言うんだよ……薫に直接言えば良いんじゃないか?」


 俺がそう言うと宮里は少しイラっとした表情になった。


「まぁとにかくそう言うと事だからよろしくな?断ったらどうなるか分かってるよな?」

 

 こいつが言っている事は兄の事だろう。

 断ったら兄を使って俺をボコボコにしに来る……そう言う事だろう。


 俺が黙っていると宮里が言った。


「まぁ、いいや。もし幼馴染を諦めて欲しかったら明後日の午後に俺が指定した場所に来いよ?」

「俺がか?」

「当たり前だろ?」

「じゃあスマホ出せよ。連絡するために連絡先を追加するからさ」


 断ればあの恐ろしい兄が来る……そう思った俺はとりあえず従う事にした。

 やめて欲しかったら来いって事は俺が行けば薫をあきらめてくれる可能性もあるしな。




 ★side:宮里誠二

 

「ったく!素直に従えばいいのにいちいち気に障る事言ってくんじゃねーよ」


 大体俺が本当にあんな地味な女に興味ある訳ないだろうが。

 何なら名前すら憶えてないし顔も覚えてないわ。

 周りは可愛いって言っていたが俺からしたら黒髪なんてまず論外だ。


 そんな女よりあの子だ。

 なんで真みたいな至って普通の男とあんなに可愛い金髪ギャルが一緒に下校してるんだよ。

 しかもあの子は俺が今まで見た中で一番かわいいしな。

 あの子を見た瞬間から俺は思ったね……真を利用して絶対に抱こうと。


 まず最初に真の幼馴染の事を言ってから、幼馴染はあきらめてやるからその代わり一緒に歩いていた金髪ギャルの子を要求すれば簡単に事が進みそうだなと思ったから俺は幼馴染の事を話にだしたのだ。

 まぁ、そんな事しないで普通に言っても良かったんだが、アイツがぐちぐち悩む時間も勿体ないし決意しやすいようにしてやろうと思ってな。

 幼馴染と、あの金髪ギャル、天秤にかけてどっちが大切かなんて明らかだろ。

 だって中学生の頃のあいつは幼馴染の事を滅茶苦茶見てたしな。


「それにしても強い兄がいるって楽だな」


 今までの女子も兄をちらつかせたら簡単に抱けちゃったしな。

 それに兄を恐れて表沙汰にもしないし俺がバツを受ける事もなかったし。


 実際は兄と俺は仲が悪い……いや悪いと言うよりかは兄からしたら俺はいないも同然なのだろう。

 そんな訳で兄が動くなんて事はまずあり得ないがそんな事は関係ない。

 来るかも……そう思わせるだけで十分だしな。


「まぁ、あの金髪ギャルが俺の兄を知らない可能性は全然あるけどな」


 その時はその時で大丈夫か。

 どうせ一回ヤッたら二度目は興味ないし会う事もないだろう。

 その場合は真が責められるだけだろうしな。

 俺の事は兄の名前を使えば口封じも簡単だろうし。


「楽しみだな……」

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