第29話 モブ竿役宮里の事

「なぁ薫……あの宮里の噂ってどんな事だ?」

「えっと……そうだね……宮里君は凄く女の子が好きでいろんな人に手を出してるって噂だね」

「他にはあるか?」

「んー、あ!そうだそう言えば宮里君はギャルばっかりに手を出してるって噂もあったね」

「そうか……」


 まぁ、そうだよな。

 あいつ……宮里は自分自身は喧嘩なんて全く出来ないが、不良の兄の威を借りて女子に手を出してるって感じだったよな?

 実際のあいつの兄は確かに不良で喧嘩を良くしているが、弟の事は興味すらないからアイツの兄が弟の為に動く事はまずないんだよな……まぁ、そんな事を知る由の無い人たちは大人しくするしかないって感じだったはずだ。

 中学生の頃も噂で収まっていたのも兄の影響だろう。

 騒いで問題にしたら兄の報復が怖い……そんな理由で被害者たちも表沙汰には出来なかった、そんな感じだったよな?他にも他の人に知られるのが怖いって人も居たとかって話だったけどそんな感じだ。

 それに彼氏がいたのに無理矢理とかも数回あったとかだった気もするな。

 少ししか出てこないモブ竿役の事だからそこまで覚えていないけど確かだけどそんな感じだったと思う……所々違うかも知れないが大差はないだろう。

 まぁ、顔がちょっと良いせいで普通に同意を得てって人も居たけど、そういう女の子も普通に捨てられたっぽいな。

 そんな感じで兄の威を借りるしかない大した事ないやつが宮里って奴だ。


 そんな時俺が薫の方を見ると心配そうな顔をしていた。

 薫だったらそうだよな……いくら好きじゃなくなったとしても幼馴染で昔から一緒に居た事実は変わらないし、薫は山崎の両親とも仲が結構良かったから心配にはなるよな。

 俺が薫と学校で仲良くしていない理由がまさにそれで、きらら以外の薫の友達が同じ事を思うだろうからって理由だからな……


「山崎が心配か?」

「え……う、うん……」


 薫は少し申し訳なさそうにそう言って来た。

 多分俺に他の男子を心配している姿を見られて罪悪感を感じたのかな?

 全くそんな必要ないんだけどな……大体俺は薫のそんな優しい所も大好きだからな。

 それに俺は薫が本気で俺に惚れていてくれてるってちゃんと分かってるしな。


「そんな顔しなくていいぞ薫。俺は薫が優しいって事は誰よりも知ってるし幼馴染なんだから心配するのは当然だろ?」

「うん……ありがとう……」


 これはやっぱり俺が早めに動いておこうか。

 山崎がどんな行動をとるのかは分からないが、もしもの時があったらまずいだろう。

 仮にきららを助けられたとしても、山崎が宮里に従ってしまったら薫が悲しむだろうからな。

 それに前も思ったが俺自身も山崎の事が嫌いなわけじゃないしクラスメイトだから助ける理由には十分だし、放っておこうとも思わないしな。


 俺たちがそんな会話をしているうちに山崎と宮里はもう別々の方向に歩いていた。

 その時俺は一瞬山崎の顔が見えたのだが、凄く怯えている様子だった。

 それを見て俺は間違いないな……そう思った。


「薫?あの宮里ってやつはギャルを狙ってるんだよな?」

「そういう噂だね……」

「そっか……でも一応薫も気を付けてな?宮里が山崎に近づいた理由がたまたまって可能性もない訳ではないけど、もしかしたら山崎と仲のいい人を狙ってるって可能性もあるからな……」

「中の良い人……え……それって……じゃあもしかしたらきららちゃんの可能性も!?」


 俺がそう言うと薫は顔を青くしてそう言った。

 まぁ、気付いてほしくてあえて言ったし気付いてくれて良かったよ。

 でも自分の心配もしようなとは思う。


「山崎ときららが一緒に帰っている時もあったからその可能性はあるかもな……まぁ可能性があるってだけだけどな。薫は明日からは出来るだけきららと一緒に居るようにしてあげて欲しい……でもいつも通りに一緒に居るだけで良いからな。このことは内緒にして」

「え……でも一応きららちゃんには教えた方が良いんじゃ?」


 ゲームでは山崎が宮里のお願いをきっぱり断ると宮里は意外にもあっさりと手を引くんだよな……兄の威を借りても通じない相手だと手を出せないからってな。

 そんな訳できららが事前に宮里の存在を知っているシーンは無かったのでどうなるか分からないが、とにかく教えるべきではないと俺は思っている。

 

 きららはバイトや家の事で精一杯でこんなことを教えちゃうとバイトにも行けなくなるだろうし悩んじゃうだけだろうからな。

 ていうか正直知っている俺が出張れば凄く簡単に解決できちゃう問題でもあるから絶対にきららが被害にあう事もないしな。

 

「いや。俺がこの件は絶対に解決するから薫は信じて待っててくれるだけで良いからな」


 俺は不安そうにしている薫の頭を撫でながらそう言った。


「うん!分かった。海斗君を信じてきららちゃんの近くで待ってるね!」

「あぁ、任せてくれ。でも、無いとは思うが何かあれば絶対に直ぐに連絡してくれよ?あと、どんなことでも良いからきららとはバイトとかで別れた後も連絡を定期的に取ってみると良いかもな。バイト中は無理だとしてもバイト終わりの時間とかにもな。それと薫自身も気をつけてな?」


 まぁ、念には念を入れて無駄になる事はないだろうからな。

 きららだったら薫からの連絡を嫌がるなんてこともないだろうしな……てか寧ろ喜びそうなくらいだ。


「うん!そうするね!」

「じゃあ、もうちょっと遊びに行こうか」

「そうだね!」


 今日は薫とデートの日だし最後まで楽しませないとだしな。

 薫は少し落ち込んでいたし元気も出して欲しいしな。



 ――その日の夜俺は考えていた。


「んーでもやっぱりほぼ確定で良さそうだよな?」

 

 詳しい内容までは覚えていないけど確か宮里は二度目の接触できららと一緒にカラオケで遊びたいから呼んでくれよと山崎に言うんだよな。

 それも当然兄の威を借りてな。

 

「でもあの山崎の表情は明らかにたまたま会ったって感じではなかったよな」


 薫は見ていなかったみたいだが俺の目にはそう映った。

 もしそうであるのならば明日から学校で山崎に変化があるはずだ。

 流石に山崎が宮里の意図を読み取れないって事はあり得ないだろうからな。


「だとしても明日早速誘うって事は無いよな?」


 いやまぁ、その辺は大丈夫か。

 大体きららは予め約束しておかないとほぼ毎日バイトが入ってるから日付を合わせてからじゃないと遊びには行けないだろうからな。

 ゲームでも山崎が聞いてきららが時間を調整するって感じだったもんな。

 それに薫がきららと一緒にいてくれればもし山崎にきららがカラオケに誘われてもその事も知れるだろうしな。


「とにかく俺は出来るだけ早く解決しよう」


 理想は山崎がきららを誘う前に解決する事だから、俺は明日から動いてみようか。

 山崎に俺から話しかけるのは余り良い手とは言えないが、俺が直接宮里と接触して言っちゃえば大丈夫だろう。

 自慢じゃないが俺の名前は同世代の学生の中ではかなり有名だからな。

 それに俺は宮里の兄が宮里の事に興味がないことを知っているし動かない事も知ってる訳だし。


「まぁ、王豪海斗じゃない竿役は基本大したことないんだよな」


 製作者サイドからしたらこれも王豪海斗の強さを目立たせるやり方だったんだろうな。

 あれ?竿役の癖にめっちゃあっさりと解決できるじゃん?

 俺もゲームをプレイしていた当時はそう思っていた一人だったしな……そうだとしても油断をして警戒は怠るつもりはないけど。


「ていうかせっかくテストが終わって薫と楽しい時間を過ごせると思ってたんだけどな……」


 そう思ったら宮里に対してイライラを覚えた。

 

「あんな最低な奴だしきららだけじゃなくて他の人も被害にあわないように徹底的にしないとな」


 暴力の手段を使う気はないがそれでも脅すくらいは絶対にしないとな。

 別に合意の上でなら女遊びをするなとは言わないが無理矢理や元々捨てるつもりで自分勝手に捨てるのは普通に不愉快だしな。

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