第24話 勉強会(下)

「ご、ごめんね……きららちゃん……」


 ある程度落ち着いた薫が恥ずかしそうにきららにそう言った。


「ううん。大丈夫だよ薫ちゃん。ちょっとびっくりしたけど薫ちゃんと海斗君が付き合っているのは聞いてるからね。でも薫ちゃんって本当に海斗君の事が好きなんだね」

「う、うん……そうだね」


 きららが笑顔で言うと薫は照れくさそうにそう返事をした。


「それにしてもホントに二人って付き合ってるんだねー。二人って他の人から見たら正反対だしもし皆が知ったら滅茶苦茶驚くんだろうね」

「まぁ、そうかもな。だから皆には内緒にしてる訳だし」

「そうだね……私も海斗君と関わる前と後じゃ180度印象が変わったからね……早く皆も海斗君が良い人って分かってくれればいいんだけど……」


 まぁ、関わった次の日には中身が変わっていた訳だからな……

 薫が少し悲しそうにそう言うときららが慌てて言った。


「でも私から見たら二人って凄くお似合いだと思うよ!」

「そう……かな?」

「うんうん!薫ちゃんも海斗君もお互いがお互いに好きなんだって少しの間だけど今日見てて凄く思ったしね!薫ちゃんも凄く幸せそうだし!」

「そうだね……私は凄く幸せだよ。ありがとうきららちゃん」


 きららのその言葉に薫は嬉しそうにそう言った。


「ううん。私は思った事を言っただけだからねー。それに私は彼氏がいた事がないから良く分からないけど、薫ちゃんが幸せそうで私も嬉しくなっちゃうくらいだしね!」

「きららちゃんも凄く可愛いんだから、いずれは絶対に大好きって思えるような人に出会えるよ」


 薫のその言葉にきららはちょっとだけ間を開けてから微笑んで言った。

 理由を知っている人から見たら辛そうにも見える……そんな微笑み方で……


「そうだね……そうだと良いな……」


 薫がどこまで知っているのか分からないけど恐らくバイトをしている理由は話してないんだろう。薫が聞いていたとしても俺には話さないだろうけど何となくそう思う。

 きららは彼氏を作っている余裕がなくて作らないってのもあるけど、家の事があり常に心に余裕がない状況なので人を好きになった事すらなかったんだよな。

 俺の記憶だと確か、恋人って言う関係に憧れを抱いては居るけど余裕がなくて出来ない……そんな感じだったよな。

 

 まぁ、薫に悪気なんて一切ないしな……少し変な感じになったので俺は空気を変えようと思って話を変えることにした。


「まぁ、それはそうとしてそろそろ勉強を開始しよっか。まだまだ勉強しないとだしな」

「それもそうだね。それじゃあ再開しよっか。きららちゃん!」

「うん。そうだね。私ももっと教えて欲しいからね!」

「いっぱい教えるよ!それじゃ頑張ろうね」

「うん!」


 そうして勉強を再開した。


 ――それから数時間後。


「二人ともそろそろ終わろうか」


 薫がそう言って俺ときららが時計を見ると時刻は7時近くになっていた。


「え!もうこんな時間なの!?」

「そうだよ。きららちゃんは凄く集中してたから早く感じたのかもね」

「そうかな?でも確かに今日だけで結構頭が良くなった気がするよ!」


 そういうきららだが、実際に今日だけでも数学ともう一教科では赤点は取らないだろう。

 元々赤点を取らないを目的にしていたのはきららなのでかなりの成長と言えるだろう。

 

 俺はそう思いきららに言った。


「確かにそうだな。実際に覚えは滅茶苦茶早いし理解力もあるからな」

「ほんと?」

「ほんとだぞ。そうだよな薫?」

「私もそう思うよきららちゃん!海斗君の言うとおりだよ!」

「そっか……ありがとう二人とも!それと勉強会に誘ってくれた事も、二人が私に勉強を教えてくれた事も合わせてありがとうね!」


 きららは笑顔でそう言って来た。


「当然だよ!だって友達だもん!勉強くらいいつでも教えるよ!」

「まぁ、そうだな。俺も勉強を教えるくらいどうって事ないし大丈夫だぞ」


 そうして勉強会を終えた。



 ――勉強会が終わり俺は二人を家まで送っていた。


「それじゃあ今日はありがとうね海斗君!きららちゃん」

「ううん。私の方こそ教えてくれてありがとう薫ちゃん!」

「あぁ、俺の方こそ楽しかったぞ」

「うん!じゃあまた明日ね!海斗君きららちゃんの事を送ってあげてね」

「あぁ分かってるよ、また明日」

「またね」


 そうして薫を先に送り届けた。

 因みに明日はどうしようかって話になって、薫もきららも俺も特に用事がないとの事だったので明日も俺の家で勉強会をしようって話で終わっている。


 薫にはきららも送るとは言ったがその所はどうしようかと思っている。

 まぁ、聞いてみれば良いよな。


「えっと。きららも送っていくぞ?」


 薫が家に入っていったので、俺はきららと二人になってからそう尋ねた。

 実は言うと俺はゲームの知識できららの家を知っているのだが薫の家から結構近くて徒歩10分くらいって事もしっている。


「私は大丈夫だよ」

「そうか?本当に大丈夫か?」

「んー、それじゃあ……少しだけ送って貰おうかな?薫ちゃんにも言われたしね」


 きららは俺の言葉にそう答えた。

 途中までだったらきららの家に行く事もなさそうだし良さそうだな。


「分かった。それじゃあ途中までだな」

「うん!」


 ――それから数分後。


 会話をしながら歩ていたきららが足を止めて言った。


「海斗君!ここら辺で大丈夫だよ!もうすぐ近くだからね」

「そっか。それじゃあここら辺で失礼しようかな」

「うん!送ってくれてありがとう!それと勉強の事も改めてありがとうね」

「あぁ、また明日もよろしくな」

「うん!よろしくね!」


 そう言ってきららと離れて帰ろうとしていた時。


「きらら?」


 俺たちの後ろからそう言う声が聞こえてきた。


 俺たちが振り向くとそこにはお年寄りのおばあさんがいた。


「おばあちゃん……」


 きららがそうつぶやいた。


 あの人がきららのおばあちゃんか……ゲームだと顔までは描かれてなかったので初めて見た。


「どうしたのおばあちゃん?……買い物か……」


 きららのおばあちゃんの手を見るとエコバッグを抱えていて買い物帰りっぽかった。


「そうだよ。まだ暗くなかったから切らしていた牛乳を買って来たんだよ。きららは今帰って来たのかい?」

「うんそうだよ」

「そうかい……それでそこのカッコいい男の子は……もしかしたらきららの彼氏かい?」

「ちっ!違うよおばあちゃん!!彼は友達の海斗君って言うんだよ!」


 きららのおばあちゃんが言ったことにきららが恥ずかしそうにそう言った。


 きららの様子からしてもおばあさんはと俺が会っても焦ってる様子はなさそうだな。

 まぁ、普通に考えてみたら別におばあさんと会ったからと言って貧乏とか分かる訳もないしな。


 そして俺は取り敢えずきららのおばさんに挨拶をすることにした。


「きららさんと同じクラスの王豪海斗って言います。今はきららさん達と勉強会をしていたのでその帰りにきららさんを送っていたところです」

「そうなのね!きららのお友達か!」


 俺がそう言うときららのおばあさんは嬉しそうにそう言って来た。

 一瞬どうしてなのか……そうも思ったけどすぐに思い出した。

 きららは貧乏という事を知られるのが怖かったので今まで家に友達を連れてきたことがなかった。

 それ故にきららのおばあさんはきららに友達が居るのか心配をしてたんだっけな?


「はい。いつも仲良くさせていただいています」

「凄くしっかりとしてるんだね。これからもきららと仲良くしてあげてくれないかい?」

「もちろんそのつもりですよ」

「おばあちゃん!もう行くよ!」


 俺ときららのおばあさんの会話にきららは恥ずかしそうにそう言った。

 そう言えばきららが恥ずかしがる姿は転生してからは初めて見たかも知れない……もしかしたらおばあさんが居るときはこんな感じなのかもな。


「そうだね。それじゃあ海斗君もさようなら」

「はい。さようなら。きららもまたな」

「うん!バイバイ海斗君」


 そう言ってきららときららのおばあさんは歩いて行った。


「凄く優しそうなおばあさんだったな……」


 良くおばあさんやおじいさんは孫を凄く可愛がるって聞いていたのだが本当にそんな感じだったな。

 もう吹っ切れているとはいえ俺には居なかったので分からないがちょっと羨ましいかもな……俺はそんな事を少しだけ思いながら帰っていた。

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