第23話 勉強会

「そろそろ来る時間だな」


 土曜日の昼、俺は近くのコンビニで飲み物などを買ってきてからそう呟いた。


 今日の午後13時から、薫ときららが二人で俺の家に勉強をしに来るのでその準備をしていた。


「それにしても勉強会なんていつぶりだろうな……」


 前世でも一応はしたことはあるが小学生の頃とかそのレベルだ。

 両親を亡くしてからは、しばらく俺は自分の殻にこもっていて友達付き合いとかもなくなってたからな。

 しかも大学生になってからもどこかその気持ちを引きずっていたんだろうな……心の底から好きって思える人や、信頼できるって思える人が出来なかった。


「そう考えるとちょっと不思議かもな」


 この世界に来て薫に出会ってからはその事が嘘のように信頼出来るようになったし、心の底から好きだと言えるようになっていた。

 薫の事はゲームで知っていた、それも大きいのかも知れないけどな……それ程薫が素敵な女性だったって事だ。


「まぁ、前世とか関係なしで薫とはこれからも楽しく過ごしたいな」


 俺がこの世界に転生した意味も理由もいまだに分からないしたぶんこの先も分かる事は無いんだと思う。

 でもそんな事を気にしたってきりがないからな。

 薫とは一緒に居たいから一緒に居る。

 好きだから一緒に居る……ただそれで良いよな。


 俺はそんな事を思いつつも薫ときららが来るのを待っていた。



 ――それから時間が経ちチャイムが鳴った。


(ピーンポーン)


「来たかな」


 俺はそんな音を聞いて玄関まで行く事にした。


 玄関の扉を開けるとそこには薫ときららが居た。


「いらっしゃい薫、きらら」

「こんにちは海斗君!」

「海斗君、こんにちは……それと私まで参加させてくれてありがとう」


 きららは少し申し訳なさそうにそう言って来た。

 既に俺と薫が付き合っている事を知っているだろうから、自分が邪魔じゃないかなとか思ってるんだろうな。

 勿論俺も薫もそんな事は全く思ってないんだけど、きららの性格だとそう思っちゃうのも仕方ないんだろう。


「うん。とりあえず二人とも家の中に入って良いぞ」

「そうだね。お邪魔します」

「お邪魔します」


 そうして俺は二人を俺の部屋に案内した。


 因みにきららもいるから俺の部屋じゃない方が良いかな?そうも思ったのだがこの家は俺の部屋以外だと勉強に適している部屋が全くと言って良いほどない。

 俺の部屋以外の部屋には、物があるとしても広めの自分で使う小さめのジムみたいな部屋と、洗濯物を部屋干しするために乾燥機などがある部屋とかで机があるのはこの部屋だけで勉強に向いているのがこの部屋以外にはない。

 まぁ、王豪海斗は一人暮らしで家に人を呼ぶとしても体だけの関係しかない女性のみだったので必要性がなかったんだろうな……それに全く使ってない部屋もいくつかあるしな。



 ――そうして二人と俺の部屋に座っていた。


「海斗君の家って大きいんだね……」


 部屋に座るときららがそう言った。


「私も最初に見た時はびっくりしたよ」

「まぁ、そうかもな」


 俺と言うか王豪海斗はお金持ちだったので大きい家を買ったのだが、俺からしたらここまで大きな家はちょっと不便なのだ。 

 前にも思ったが、掃除が大変だしな……

 まぁ、大きいと言っても豪邸みたいな家ではなくて平均的な家よりは全然大きい、その程度だけどね。


「へぇー、凄いんだね……海斗君のご両親ってどんな仕事をしてるの?」

「あ……」


 きららがそう聞いていて薫は気まずそうな顔になった。

 俺としては親の事を聞かれて嫌な気分になるとかはもう全くないのでそんなに気を遣わなくても良いんだけどな。

 それに当然きらら自身も悪気なんてこれっぽっちもない訳だし。


「実は俺、親も居ないし家族も居ないんだよな」

「え……それって……ご、ごめんなさい……」


 俺がそう言うときららは申し訳なさそうにそう言って頭を下げてきた。


「いや、大丈夫だからそんなに気にしなくて良いからな」

「う、うん……」


 それでも余計な事を聞いたと思っているのか、きららは落ち込んでいたので俺はどうするべきなのか……そう思い薫の方を見たら薫と目が合って薫が言った。


「それじゃあきららちゃん。一緒にみんなで勉強しよ?」

「そうだな。折角集まったんだから早速勉強するか」

「そうだね……そうしようっか」


 そうして勉強会が始まった。


 ――それから三十分後、俺と薫が何もなかったようにいつも通り過ごしていたのできららも今ではいつも通りになっていた。


「そうそう!そうやるんだよ」

「なるほど!ありがとう薫ちゃん!凄い分かりやすいよ!」


 今は俺の迎えに薫が座ってその隣にきららが座っている形で薫がきららに勉強を教えている。

 俺が見ている感じだと、きららは本当に勉強が分かっていないみたいだった……いや分かっていないと言うのは家の事があり勉強が出来ていなかっただけで、覚え自体はかなり良い。

 基礎が出来ていないから大変だけど、教えたらちゃんと理解してすぐに身に着けているのでちゃんと勉強をすればかなりのものになると思う。


 それにしても薫がきららと遠目で仲良くしていた姿は見ていたが、近くで見ると二人とも本当に仲が良いんだなと伝わってきて、ちょっと微笑ましいなと思えて来ていた。

 ゲームでもそうだったけど、二人は凄く気が合うんだろうな……それに今は居ない仁美もいずれはこの二人と凄く仲が良くなるのかな?

 勿論ゲームでそうだったからこの世界でもそうなる!そうは言いきれないけどな。


 俺がそんな事を思って薫たちを見ていると何かを思ったのか薫が俺の隣に来た。


「海斗君!私にここを教えて!」


 そう言って数学の応用問題の難しめの問題を見せてきた。


「良いぞ。ここはな、これをこして……」


 そうして俺はその問題を薫に教えた。


「なるほど……凄いね海斗君……」

「いや、そんな事はないけど他に分からない所があれば教えてやるからな。その先の問題も同じようにすれば一応出来るからやってみなよ」

「そうだね!やってみるよ」


 そうして薫は問題に取り組んでいたが、薫がチラッときららを確認したので俺もきららを見てみると、難しい顔で教科書を見ていた。

 見ているのは同じく数学でおそらく分からないけど薫も集中していたから聞けなかったのだろう。

 そんな時薫が俺に小さな声で言った。


「海斗君……もしよかったらきららちゃんにも教えてあげられる?本当は私が教えてあげたいんだけど、今はこの問題をちゃんと理解したいからさ……」

「それは全然大丈夫だぞ」

「ありがとう。それじゃあよろしくね」

「あぁ」


 俺はそんな会話をしてきららの隣に行った。


「大丈夫か?きらら」

「え、あ!うん。ちょっと分からない場所があってね……」

「そっか。じゃあ俺でよければ教えるぞ?薫も自分の勉強に集中してるしな。折角三人で勉強会をしてるんだし」

「良いの?海斗君が頭が良いとは薫ちゃんに聞いてたけど……」

「もちろん教えるくらい良いって。薫にもさっき教えてたしな」

「そっか。それじゃあお願いしようかな」


 ――それからしばらくして


 俺は数個の問題をきららに教えた。


「凄いね……薫ちゃんもそうだったけど海斗君も凄く分かりやすいや」

「そっか。それは良かった」

「うん!ありがとう海斗君!」

「あぁ」


 俺たちがそんな会話をしていると薫も丁度解き終わったみたいだった。


「私の方も終わったよ……」


 薫がつかれた表情でそう言って来た。


「おつかれ薫」

「うん。海斗君が居て本当に良かったよ。私だけだともっと時間がかかっただろうからね」

「薫の力になれたなら良かったよ」


 薫の隣に戻った俺がそう言うと薫はいつものように俺に抱き着いて来ようとした。


「うん。ありがとう海斗君……あ……」


 俺に抱き着く直前になってきららの方を見て止めた。


「えっと……私の事は気にしないで良いからね?」

「……いつもの癖でつい……」

「いつも……」


 薫はそう言った後にきららの声を聞いて顔を真っ赤にした。

 弁明したつもりだったのだろうが、言い方があれだったので逆効果だと感じたのだろう。


「ち、違うの……それは、その……」

 

 薫が余りにも慌てていたので俺が言った。


「薫。落ち着こうな」

「そ、そうだね……」


 それから薫は深く息を吸って落ち着かせていた

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