第10話 薫の母親

「それじゃあ私はあっちだからここでお別れだねー」


 三人で一緒に帰っている時にきららはそう言った。


「一人で大丈夫?」

「確かにな……薫の家までここから近いしそこまで行ってからなら送って行くけど……」


 外はもうかなり暗くなっているしな。

 まぁ、そうは言ってもきららはほぼ毎日この位の時間に帰っているんだろうけど……

 そう思うと本当に良く頑張ってるよな。

 友達付き合いもおろそかにしないで、毎日大変なのにそれを表に出す事もしないしな。


「ううん。大丈夫だよ!私の家もそんなに遠くないからね!」

「本当に?でも……」

「ううん!本当に大丈夫だからバイバイ二人とも!また月曜日にね!」

「う、うん。バイバイ」

「あぁ、じゃあな」


 そうしてきららは早めに会話を終わらせる様に一人で去って行った。

 きららが一人で帰りたがってる理由は簡単だ。

 自分の家が……言い方は悪いかも知れないが、ボロ目のアパート暮らしだと知られたくないからだ。自分のイメージを守りたいんだろう。

 そんな訳で俺は流石に無理に送ろうとは言わないでおいた。

 きららからしても困るだろうからな。

 まぁ、それ以前に今の俺的には薫の事が最優先って決めてるしな。


「薫、それじゃあ俺達も帰ろうか」

「そうだね!」


 俺達はそう言ってから足を進めた。


「そういえば意外だったな」

「意外って何が?」

「何て言うか……俺はてっきり薫はきららとは仲が良く無いと思ってたからさ。山崎の事もあったしな」

「そう言う事ね……実は言うと私も最初はちょっと嫌と言うか思う所はあったんだけどね、ちゃんと話してみて分かったんだけど弘識さんって凄く良い人なんだよね……」

「そうなのか?まぁ、何となく分かる気はするけど」


 そうは言ったが実際の所、俺はきららが良い人なんて事は良くしっている。

 でも確かにそう言われれば薫ときららって友達としての相性は凄く良さそうだよな。


「うん。いつも元気だし私にも凄く優しいしね……だから私もちょっと好きになって来てるんだよね。勿論友達としてだけどね」


 笑顔でそう言う薫に嘘は無いんだろう。

 男……山崎の云々の事は置いておいてもきららとは友達で居たいって事だな。


「なる程な……」

「それに弘識さんみたいに自分に自信のある人って凄く素敵だしね……」


 自分に自信か……実はそんな事もないんだけどな。

 きららは薫ほどじゃ無いが家の事もあり実はそこまで自分に自信がある訳じゃないんだよな。

 ただそれを表に出していないってだけでね……

 

「そうだな……」


 それから俺と薫は軽く雑談しながら帰っていた。


 ――それから少しして薫の家に着いた。


「それじゃあな、薫」

「うん。ありがとう海斗君!……それで、またお願いしても良いんだよね?」

「そりゃ勿論いいぞ。基本的にこの時間帯は暇だし家にいるしな」

「そっか。それじゃあまたお願いするね!」


 俺がそう返事をすると薫は嬉しそうに笑顔でそう言った。


 そしてそのタイミングで車のエンジン音が聞こえて来て薫の家の車庫に入って来た。


「あ、お母さん……」

「え?母親が帰って来たのか?」

「そうみたいだね」

「えっと……じゃあ俺はさっさと帰った方が良さそうだな」


 そんな事を言っていると薫のお母さんは車から降りて来ていた。


「えっと……君が海斗君?大きいんだね……」

「そ、そうです。王豪海斗って言います……」


 俺は振り向き薫の母親に挨拶をした。

 薫のお母さんは薫にマジでそっくりだ。

 母子と言うよりは姉妹って言った方がしっくりくるくらいにはね。


「薫?ちょっと海斗君と二人で話したい事があるから先に家に入っててね」

「え……うん。分かった。それじゃあバイバイ海斗君!」

「あぁ、バイバイ」


 薫のお母さんがそう言って薫は家に入っていった。 


「まずは薫の事をありがとうね……今日もそうだし助けてくれた事もね」


 薫のお母さんはそう言って頭を下げた。


「いえいえ!大丈夫ですから頭を下げる必要無いですよ!」

「そう……でも本当に大丈夫?塾の迎えを頼んじゃっても……」

「それは大丈夫ですよ!どうせ暇ですしね」

「そう……ごめんね私達がするべきことなのに」

「いえ。俺も楽しいですし任せて下さい!」


 俺がそう言うと薫のお母さんはクスッと笑った。


「良かったわ……海斗君が良い子でね。薫から男の子の話をされたのはこれで二人目だからちょっと心配だったのよね……」


 一人目は間違いなく山崎だろうな。

 でも母親が心配するのも無理は無い話だよな……いくら娘を信じてるからと言ってもそうなるよな。クラスメイトと言っても出会って間もない男なのは変わらない訳だからな。


「そうですか……」

「ごめんね。助けてくれたのに疑っちゃって……」

「いえ。女の子の母親なら当然の事だと思いますよ。俺も全然気にしてませんしね」

「ありがとうね海斗君。」

「いえいえ」

「良かったらこれからも薫と仲良くしてあげてね……あの子も海斗君の事を凄く信頼しているみたいだからね」

「そうですね。こちらの方こそって感じなのでそのつもりですよ」

「そっか。それじゃあこれからもよろしくね海斗君」

「はい。それでは俺はこの辺で失礼しますね」

「うん。止めちゃってごめんね」

「大丈夫ですよ」


 ――薫の母親との会話を終えた俺は家に帰っていた。


「薫の母親に好印象っぽくて良かったな……」


 高校一年生になってから出あったばっかりの男なのにとか思われてそうで……ちょっと心配だったけど反応的にもそんな事なかったしな。

 いや、思ってたのかも知れないけど最終的には大丈夫そうだったしな。


「それにしてもこの世界にも大分慣れて来たな……」


 転生してからまだ一週間位だがもう既に大分慣れた。

 と言っても転生前と過ごしている環境がほとんど同じだからだよな……


 家では独りぼっち。転生前も友達が多かった訳じゃ無いしな。

 

「まぁ、でも悪くないかもな……」


 ヒロイン達……と言っても薫だけだけど仲良くなれて一緒に居る時間は正直凄く楽しい。

 最初は戸惑いもあったが今では転生して良かったと思っている。

 

「それに折角だし二度目人生は楽しまないとな」


 俺はそんな事を考えながら家に帰った。

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