第8話 私は私が分からない

★side:笹内薫


「はぁー駄目だな私って……」


 どう考えてもあんなあからさまなナンパをされたらちゃんと断らないといけないのに……結局お父さんとお母さんにも凄く心配をかけっちゃったしな。

 しかもあの場所は一通りが多い訳じゃないけどそれでも誰も居なかった訳でもなかったのになんで断れないんだろう……

 もっと強くなりたいな……


「そうだ……真に連絡してみないとな」


 お母さんとお父さんに今日の事を話したら凄く心配してくれていた。

 それでも今は仕事が凄く重要な時期みたいで迎えに来るのは難しいとの事だった。

 それで提案されたのが幼馴染である真に迎えに来てくれるように頼んでみようかって事だった。

 それも無理だったらどうにかしてお父さんが迎えに来れるようにする、そう結論に至った。

 私としてはお母さんとお父さんに迷惑をかける事だけはしたくないんだけどな……


 そんな訳で私は真に連絡をした。


『真?』

『ん?どうした?』

『実はさ今日塾の帰りに……』


 私は塾の帰りにナンパされて連れて行かれそうな所を親切な人に助けられたと説明した。

 

『マジで?』

『うん。それでねお母さんとお父さんと話し合ってこれからは出来れば真に迎えに来て欲しいなって思ってね……勿論無理にとは言わないけど……ダメかな?』


 そうは言ったけども塾が終わる時間が7時30分と決して早くない時間帯なので正直断られても仕方は無いと思っている。

 実際その意見はお父さんとお母さんも一緒だったしね。

 それでも心配だからと言って受け入れてくれたら凄く嬉しいな……


『でも塾が終わる時間って確か7時過ぎでしょ?』

『う……うん。7時30分かな』

『マジか……俺ってその時間帯だと友達と一緒にパーティー組んでFPSしてる時間なんだよな……それに今はシーズン終わりで追い込んでるしな』

『そ、そうなんだ。勿論無理にとは言わないから駄目そうなら大丈夫だから』

『ごめんな。でも本当に気を付けてな』

『うん。分かった』


 私はそんなやり取りを終えてベッドに寝転んだ。


「そっか……」 


 心配と言いつつも友達とのゲームの方が大切なんだね……

 でも元々予定していた約束っぽいし仕方ないのかな。

 それでも私の迎えに来てくれるって言ってくれたら嬉しかったんだろうな。

 

 それにしても最近の私って真に言われた事に対して落ち込む事が無くなって来てるな。

 勿論それは真の事が好きじゃなくなったわけではないけどどうしてだろう……

 それでも少し気が落ちている事は事実だけどね。


 まぁ、そんな事を気にしてても仕方ないか。


「海斗君だったら来てくれるのかな……」


 私はそんな事をふと思った。

 何故か海斗君だった来てくれる気がする。


「でも駄目だよね」


 流石にそこまで迷惑をかける訳には行かない。

 海斗君だってやる事はあるだろうしね。

 週に数回7時30分過ぎに迎えに来てもらうなんてとてもじゃないけど申し訳なくてお願い出来ないよ……

 

 でもどうしよう……お父さん達にも迷惑はかけたくない……

 仕事が大切な時期って事は少し前から言っていた訳だしね。

 

 やっぱり私が我慢すればいいのかも……でも同じ事があって断られるかな……

 正直今でも海斗君がいなかった時の事を考えると凄く怖い。

 断って暴力でも振るわられたら私は間違いなく動けなくなると思う。


 そんな時先程の海斗君の言葉を思い出した。

 私が心配だと言ってくれた事や頼ってくれと言ってくれたことを。


「聞くだけ聞いてみようかな……」


 私はそう思って海斗君に連絡してみる事にした。


『海斗君起きてる?』

『起きてるぞ。どうかしたか?』

『取り敢えず改めて今日はありがとうございました』

『うん。大丈夫だぞ』

『それでね、今日の事をお母さんとお父さんに話したんですけど……』


 私は先程まであった事を話した。


『なる程な……山崎は私用で無理、でも両親に迷惑は掛けたく無いって事だな?』

『うん……それでね……もし海斗君が迷惑じゃなかったら迎えに来てくれないかな……』


 私が断られても仕方ない事だよねと思いながらそう聞いたらすぐに返信が来た。


『良いぞ』

『え?良いの?』

『勿論。断る理由が無いし大体頼ってくれって言ったのは俺だしな。でも塾がある日は予め教えてくれよ』


 私は考える時間もなく即答する海斗君にたいして自分がドキドキしている事に気が付いた。

 海斗君からしたらメリットなんて無いのにそう言ってくれるなんて……

 お父さん以外の男性にここまで優しくされたのは初めてなので私は少し戸惑いつつも凄く嬉しかった。


『うん……ありがとう。塾がある日は前日には絶対に連絡するようにするね』

『あぁ、よろしくな』

『うん。よろしく』


「はぁ、海斗君か……」


 最初はなし崩しに始まった関係だったが今では間違いなく私の心の支えになっている。

 それに最近は海斗君にドキドキする事すらあるし……

 どうしちゃったんだろう私は……


 私は真が好きなのは間違いない。

 今でも付き合いたいと思っているのに最近の私の心の中には確実に海斗君がいる。


「でも海斗君が来るんだったら凄く心強いな……」


 今日の強そうな男の人たちだって海斗君から逃げるように去って行ったしね。

 確かにそれは海斗君の過去の行いからなのかも知れないけど私からしたらそれでも凄く頼りになる。

 それに過去を償って生きて行こうとしている海斗君を私は応援したいしね……もし私に出来る事があれば協力すらしたいと思っている。


 私は知らない内に真に断られて落ち込んでいた気持ちが海斗君の事を考えて心が温かくなっていた。

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