第4話 笹内薫の気持ち

★side:笹内薫


「でも本当大丈夫だったのか?昨日話を聞いたが好きな奴がいたんだろ?」

「正直に言うとちょっと後悔はしてるかも……昨日は私も正気じゃなかったので……」


 私がそう言うと海斗君は悲しそうな顔になってしまった。


「そっか……ごめんな。俺も薫が可愛すぎて自分を抑えられなくなっちゃってな……」

「か、可愛い……」


 可愛いなんて初めて言われたよ。

 そう言えば昨日は考えてる余裕なかったけど海斗君はずっと可愛いって言ってくれてたっけ……

 それにずっと心配してくれてたしね。

 

 私はそう思い嬉しくなったがそれと同時に凄く恥ずかしくなった。


 そんな事を思っていた私だが海斗君が悲しそうな顔をしていた事を思い出して慌てて言った。

 さっきも思ったが私は海斗君が悪い何て全く思っていない。


「わ、私も拒めたのにそうしなかったから、海斗君は悪くないよ……」

「そっか、ありがとうな……そう言ってくれると気が楽になるよ」


 私の言葉で海斗君が笑顔になったので私は安心した。

 そしてそんな海斗君の笑顔は凄く輝いているような感じがして私は少し見とれしまっていた。


「う……うん。」

「薫?一応俺も薫の事が心配だし何かあれば頼ってくれよ。何があっても助けるからさ」

「……良いの?」

「うん。頼ってくれると嬉しい」


 海斗君は昨日初めて話したのにどうして私に優しくしてくれるのだろうか?

 それに頼っても良いじゃなくて頼ってくれると嬉しいか……

 そんな海斗君に対して私には良い人としか思えないな。


「海斗君って全然噂と違うんだね……」

「まぁ、どうだろうね。実際に中学生の頃は荒れてたからな……全部が嘘って訳でもないけど誇張はされてるかもね……」

「中学生の頃は荒れてたの?」

「あぁ、面白くはないけど俺の過去を聞くか?誰にも話した事は無いんだけど薫にだったら話しても良いかな……」


 気になる……こんなに良い人なのにどうしてあんな噂が?

 海斗君は皆から嫌われてると言ったらちょっと良くないかもだけど怖がられたりととにかく皆近づかない様にしちゃってるし。

 私もそうだったみたいに……何も知りもしないでそう思っていた私自身も嫌だし……


「昨日までは海斗君の事が凄く怖かったけど、話してみると凄く優しいし落ち着くから今はもっと海斗君の事が知りたいって思ってるの……だから聞いても良い?」

「あぁ、実は俺って孤児だったんだ……」


 そうして海斗君は話してくれた。

 海斗君の過去は想像より遥かに悲しいものだった。

 親も居なければ居場所もなかったと。

 そしてそれが原因で中学生の頃は荒れてしまったと。

 それでも今では立ち直る事が出来たと……


 私はそれを聞いて涙が出ていた。

 同情なのかも知れない、海斗君が可哀そうだと思った。

 そして立ち直れて本当に良かったと思った。

 海斗君が中学生の頃にしていた事はとてもじゃないけど褒められる事ではない……それでも立ち直れて良かった。本当にそう思える。

 

「そんな過去があったんだね……」


 噂も嘘ではないらしいがそんな事は気にならなかった……だって今の海斗君はそんな人じゃないんだから。

 だって海斗君が嘘でそう言ってる訳じゃない。

 それは凄く伝わって来る……話している途中凄く悲しそうかつ寂しそうな顔をしていた。

 そして今……海斗君は泣いているから。


 私は勝手に海斗君は凄く強く泣く事なんて無いと勝手に思っていたがそんな事は無かったんだ。

 そんな海斗君を見てつい抱きしめていた。

 

「よく頑張ったね……」


 そう言って頭を撫でていた。

 海斗君は何も言わずに声を殺してただただ泣いていた。


 ――それから数分後


「ありがとう。薫……」


 海斗君は恥ずかしそうにそう言った。

 意外と可愛い所もあるんだと私は思った。

 

 でも慰められたのは私も同じだから……


「うん。大丈夫だよ。私も昨日慰めて貰ったから」


 それから少し間を開けて海斗君が言った。


「そっか。それで薫はこれからどうするんだ?」

「どうするって?」

「山崎真(やまざきしん)の事だよ」


 真か……


「そうだね……どうしようかな……」

「まぁ、俺は薫と寝た事は勿論内緒にしておくから薫は薫がしたいようにしなよ?後悔しないようにね。さっきも言ったけど俺もサポートするからさ」

「うん。ありがとう。私はやっぱりまだ真の事が好きなんだと思う……」

「そうか。でも悲しい事があればいつでも来いよ?愚痴でも何でも聞くからさ。その方が気も紛れるだろ?昨日みたいに外が暗いのに道端で泣いてたら俺も心配だからさ」

「分かった。海斗君って本当に優しいね……でもどうして学校で訂正しないの?今の海斗君だったら皆に影口を言われるような人じゃないじゃん!」


 これは私の素直な疑問……

 昔の海斗君が荒れていたのは聞いたが今の海斗君は人に悪く言われる様な人じゃない……

 私はそう思ってちょっと強めの口調で言ってしまった。


「まぁ、いいんだよ。噂は本当でもあるんだしな……」

「海斗君は私に頼れって言ってくれたよね?だったら私が海斗君は変わったんだよって皆に言おうか?」

「いや。それは大丈夫だよ。こういうのは人に言って貰うんじゃなくて自分で少しずつ変えて行くべき事なんだよ……」


 それを聞いて私は思った。

 元々の海斗君は知らないけど、本当に変わったんだ……

 それに海斗君は私と違って強いんだと。


 自分だけでどうにかしよう……そう思えるのは素直にかっこいい。

 私には出来ない事だから


「かっこいいね海斗君って」

「え?」

「勿論見た目の事じゃないよ。その考え方がだよ……あっ!だけど見た目も凄くかっこいいからね……」


 私は自分の発言に慌ててついそう訂正していた……この言い方じゃ顔はカッコよく無いって言ったみたいで失礼な事を言ったと感じたからだ。

 実際にクラスの女子達は海斗君の性格や女癖さえ治れば絶対に好きになってるって言ってる人が多い位だ。

 そんな訳で海斗君の顔は私もカッコイイと思う。

 

 それでも私は真が好きだ。

 だからこれから海斗君とは普通の友達として関わって行こう。


 それから私達は暫く話してから解散した。



 ――次の日私はいつも通り真と登校した。


 真とは家が隣で毎日一緒に通っている。


「真……何で金曜日は私との約束を破ったの?」

「あー、ごめんな。ちょっと用事が出来ちゃってな」

「用事って何?」


 私は知っていてあえて聞いてみた。


「あー、母さんから急用を頼まれちゃって慌ててたんだよな……」

「そうなの?」

「そうだよ。母さんに聞いてみたら分かるよ。金曜日は直ぐに家に帰ったからな」

「そうなんだね……」


 どうして真は嘘つくんだろうか。

 真のお母さんに買い物を頼まれていた事は本当なのかもね……

 まぁ、海斗君と居た私がそんな事を思うのは卑怯なのかも知れない……でもやっぱり嘘はつかないで欲しかったな。


 普段の私だったら絶対に気が動転していたはずなのに今日の私は不思議と落ち着けている。

 

 海斗君はこれから自分で頑張ると言っていた……だったら私も頑張ってみよう。

 もうちょっと私の方からもアピールしてみよう。

 金曜日はあんな事を言われてしまったけどもしかしたらこれから変わるかも知れないしね……今の私には頼りに出来る人もいるしね。

 

 私はそう思いながら学校に向かった。

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2024年11月30日 19:00

エロゲの強すぎる竿役に転生した俺は既にヒロインの一人を抱いた後でした…… タコタココタ @takotakokota

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